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濁り丸
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【有料サイト 限定公開】 アーキタイプ:アースとマスターは、 チョコより甘い夜を過ごす 一部公開


 ——二月十三日



 いよいよ明日に迫っているバレンタインに向け、内面世界で”三人の姫達”は会議を開いていた。


 元を辿れば同じ存在であるためショートカットやロングなど髪型に差はあるものの容姿が瓜二つである彼女達は、それぞれ全く別の可能性を歩んでいるため在り方や考え方は大きく異なっており、三重人格のように分かたれたまま同じ霊基の中で同居している。


 口に出したら反論されるだろうが内面世界で会話している三人は姉妹のようであり、傲慢でクールな性格をしている”真祖の姫”は長女、活発で明るい性格の”アルクェイド”は次女、長女に似ているが思い遣りに溢れる”アーキタイプ:アース”が三女であった。



『やはり地球をチョコの海で満たせば——』

『聞いてねっ! ”彼”ったら——』



 女王のように高圧的な上に冷徹であり惑星ピンボールのような規格外の力を持っているため、考え方の規模が文字通り桁違いである真祖の姫は、地上全体をカカオの木で覆い尽くしてチョコの海を作り出すことを提案している。また、お転婆な性格をしているため『あーぱー姫』と不名誉な名前で呼ばれたりもするアルクェイドは、名前を口にすることは滅多に無い”想い人”について聞いているだけで砂糖を吐きそうな惚気話を披露していた。


 お互いに喋りたいことだけを喋っており、これが彼女達にとっては普段通りなのである。


 そして、箱入り娘として育てられたため世間に疎いが他者に対する思いやりが強いため、最も”清楚な姫”と呼ぶのに相応しい性格をしているアーキタイプ:アースは、二人が会話をしている間もずっと沈黙を貫いていたが意を決したかのように言葉を紡ぐ。



『今年は私一人でチョコを手作りしたいです』

『ほぅ……』

『わぁっ、それって!』



 円形のテーブルに片方の肘をついたままであるが興味深そうな表情を浮かべる真祖の姫に対して、アルクェイドは既に彼女がマスターを想っている気持ちを察したのか身を乗り出しながら瞳をキラキラと輝かせる。


 既に興味津々である二人は表情だけで早く続きを話すように催促しているのだが、それに少しだけ気圧されてしまうアーキタイプ:アースは何故そう考えるようになったのかの経緯を話し始めた。



『……去年のことですがアルクェイドにバレンタインという行事は、自分の想いを伝えるためのものだと教えて貰いました。アドバイスを受けながらでしたが手作りしたチョコをマスターに手渡して、彼からの提案で一緒に食べて美味しかったと褒められたのです』



 去年のバレンタインのことを思い出すように語っているアーキタイプ:アースの表情はどこか柔らかさが感じられ、恋する乙女のようであり、本人は普段通りに話しているのだが声色にも喜怒哀楽の内の喜の感情が含まれている。



『うんうんっ』

『ふんっ、それなら今年も同じようにすれば良いでは無いか』



 アルクェイドは彼女の言葉一つ一つに同意するよう、笑顔を浮かべながら頭を縦にブンブンと振っていた。逆に真祖の姫は先程まで聞いていた”惚気話”に近いものだと悟ったため急速に興味を失い、ぶっきらぼうな言葉を投げ掛けるだけだったのである。



『それでも良いかと思ったのですが……前回はアルクェイドの感謝の気持ちも半分だけ含まれていました。他の方達は自分の想いだけを込めて、チョコを手作りしています。それならば私も自分の力だけでチョコを作って手渡したいと思いました』

『ふふっ、そういうことならわたしが手伝う必要は無いわねっ!』

『元より手伝うつもりは無い。好きなようにするが良い』



 気分は恋のキューピッドであるアルクェイドと素っ気無い反応だが反対することは無い真祖の姫は、バレンタインのチョコレート作りはアーキタイプ:アースに全面的に任せると決めたらしい。内面世界にも存在している千年城ブリュンスタッドの中まで戻るため、それぞれ足取りは異なっているが会議していた場所から遠ざかっていく。



 そのまま解散になるかと思われたが——



 アルクェイドは軽やかな足取りで歩いている途中に何かを思い付いたのか『あっ!』と声を上げて立ち止まり、クルッと華麗なターンを披露するように振り返りながら、恋を知っている”先輩”としてアーキタイプ:アースにアドバイスを送ったのである。



『”先輩”から一つだけアドバイスっ! 今年はハート型のチョコを作るのが良いと思う。今のアースちゃんがマスターを想ってる気持ちには、絶対にハートの形の方が合ってると思うからっ』

『ハート型? 見た目が変化するだけですが……ふむっ。確かに……その方が相応しい気がします』



 アドバイスに対して思案する素振りを見せるアーキタイプ:アースであったが、想像すれば思った以上にしっくりと来たのかハート型のチョコを作ることに決めるのであった。頷いている彼女の元まで駆け寄ったアルクェイドは耳元に艶やかな唇を寄せ、内緒話をするようにこしょこしょと”とっておき”の助言を送ったのである。



『ついでに”とっておき”も教えちゃおうか……耳を貸してね。一緒にチョコを食べるなら————』

『はい……、なるほど? ——っッ?! そっ、それで本当にマスターは喜ぶのですか?』

『うんっ、絶対に喜んでくれると思うよっ!』

『そう言うものですか……協力に感謝します』



 こうしてアーパー姫から良くない入れ知恵をされてしまったアーキタイプ:アースは、現実世界の方で心の籠もったチョコレート作りを開始したのである。



「前回よりも見た目だけで無く味も良い物にします。形は勿論ハート型に……」



 日付が変わってバレンタイン当日の朝を迎えてお昼になるまで試行錯誤を繰り返しながらチョコを作り続けた彼女は、最終的にパティシエが丁寧に作り上げたかのように美しいハート型をしているチョコレートを自分だけの力で作り上げるのであった。



「これならマスターも喜んでくれる筈です。ふふ……っ」

 


 渾身の出来栄えであったのか満足そうにうんうんと頷いているアーキタイプ:アースは、まるで婚約指輪が入っていそうな綺麗な箱にチョコを丁寧に仕舞い、笑顔でマスターが受け取る姿を想像して笑顔を浮かべたのである。


 大事そうにチョコの入った箱を胸元で抱える彼女は、直ぐに渡しに行こうとも考えたのだが、自分が最後に手渡したいという少女のような意地らしさを発揮するのであった。朝からチョコの受け取りに奔走するマスターが自由の身となったのは、もう数十分もすれば日付が変わりバレンタインが終わってしまう真夜中だったのである。



 そして、アーキタイプ:アースは彼の元へと向かう——







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 部屋全体は包み込むように甘くて芳ばしいカカオの香りが充満しているマスターの私室は、さながらチョコレート専門店に足を踏み入れた時のような状態となっていた。



「ふぅ……っ、今年のバレンタインも何とか乗り切れたぁ。頑張って食べ切らなきゃいけないのと来月のお返しが今から怖いけど、皆から毎年チョコレートを貰えるのはやっぱり嬉しいな」



 背伸びをすることで身体を解しながら独り言を口にしている黒髪の青年——”藤丸 立香”は、部屋の一画が色も形も様々な包装をされたチョコだけで山積みの光景を見詰めている。賞味期限が来る前に食べなければならない使命感に駆られるが、それでも皆から想いの籠もったチョコレートを貰える嬉しさから自然と笑みを浮かべていた。



 ——コンコン



 休憩を挟みながらではあるが朝から晩まで合計すると百人以上の対応をして精神的にも肉体的にも疲れているため、いつも寝ているベッドでそのまま休んでしまおうかと彼が思案していると、部屋の扉を控えめにノックする音が耳に入ってくるのであった。



「マスター、入ってもよろしいでしょうか?」

「アース? こんな遅い時間に何かあったのかな……全然、大丈夫だよ!」



 アーキタイプ:アースは『失礼します』という言葉を口にしながらマスターの部屋に入室、言葉には出さなかったが部屋を包み込むチョコの甘ったるい香りと積まれているチョコの山に驚き、ビクッと肩を震わせながら真紅の瞳を大きく見開いていた。


 彼女は世間話などを挟んだりせず単刀直入に話を進めるため、自分の気持ちを伝えるために自信作のチョコが入った箱を両手の上に乗せながら差し出したのである。



「察しは付いているかと思いますが、バレンタインのチョコレートです。最後に渡そうと思ったら、このような時間になってしまいましたが……」

「本当にありがとうっ!! 待たせちゃったのならごめんね」

「ふふっ、良いのです。最後に渡したいと思ったのは、私の我が儘でしか無いのですから」



 バレンタインを受け取ったことで心の底から嬉しそうにする彼に対して、彼女も同じように嬉しくなったのか口元に片手を当てながら笑ったのだ。



「その開けて見ても良い?」

「はい、今年は私の想いを形にしてみました」



 ワクワクする表情を浮かべるマスターが丁寧にゆっくりと箱を開ければ、そこにはアーキタイプ:アースが時間を掛けて手作りした芸術品のように美しいチョコが入っていた。


 去年の見た目も素晴らしかったがそこから更にグレードアップされていることが一目瞭然であり、何よりも直球で気持ちを伝えるハート型をしていることが彼を驚かせる。



「凄い綺麗で美味しそうなチョコレートだね。それにハート型……凄く嬉しいよ。俺もアースのことが好きだよ」

「————っッ♡♡ わっ、私もマスターのことを良く思っています……っ♡♡♡ それに良ければ……去年と同じようにティーパーティーをしませんか?」

「うん、今年も一緒に食べようか」



 こうして二人だけのティーパーティーが夜も更けた頃に開催されることになり、マスターは自分には濃いめのブラックコーヒーをアーキタイプ:アースには紅茶を振る舞ったのである。チョコレートと飲み物に舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせて楽しい時間を過ごしていたのだが、次第に彼女はソワソワし始めて意を決したかのようにアルクェイドにアドバイスされた”とっておき”を披露するのであった。



「まっ、マスターっ♡♡ あむっ。どっ、どうほ……っ♡♡♡」



 彼女はチョコレートの欠片を摘み上げると瑞々しく艶やかな上唇と下唇で優しく挟み込み、まるでキスのおねだりをするように真紅の瞳を閉じながらチョコを差し出す。



「ほっ、本当に良いの?」

「ふぁい……っ♡♡♡ こうふればいいとおそわりまひたっ♡♡」


 

 唇の熱で少しずつチョコレートは溶けていき、このままでは全て溶けて無くなってしまうだろう。彼は誰の入れ知恵なのかと考えながらもアーキタイプ:アースの好意に応えるため、ゆっくりと顔を近付けてチョコを受け取るように唇同士を触れ合わせるのであった。



 ——ちゅぅっ♡♡



「んぅ゛〜〜っッ?!♡♡♡ んむ……っ♡♡ ちゅぅっ♡♡♡♡」



 二人は口付けを交わしながら、チョコレートよりも甘いキスに溺れる。


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