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濁り丸
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第六天魔王となった少女は夢見た花嫁となる 前編

 ——第六天魔王"織田 信長"  閉鎖的で古い日本の既成概念を次々と打ち壊した、誰も成し遂げられ無かった天下統一を目指した戦国時代の風雲児の名前である。  ”彼女”は歩兵や騎馬、弓が中心だった戦いに大量の火縄銃を持ち込み戦の常識を覆し、商売の自由化に因る経済の発展や富の独占からの脱却を行い、キリスト教という新たな信仰を流布し腐敗していた仏教を含めた宗教の在り方まで変えてしまった。  『旧弊とか仕来りとかバカなの? 死ぬの?』と、本心から口にしてしまう破天荒な自由人である。  後に真の天下統一を果たし天下人となった”豊臣 秀吉”や征夷大将軍となり江戸幕府を開いた”徳川 家康”と並び、”戦国三英傑”と謳われた日本では知らない者がいない英雄の一人であった。天下統一を目前に慰安の目的で訪れた本能寺で家臣”明智 光秀”の裏切りに合い、燃え盛る寺の中で自刃した悲劇的な最期を含め、現代でも色褪せること無くドラマや映画、小説などの様々な媒体を通して語り継がれている。  織田 信長のことを彼女と書いたがそれは誤りでは無く、fate世界というよりもぐだぐだ世界では紛うことなく女性であった。  当初、信長の父親である織田 信秀は男児である弟の”信勝”に家督を継がせる積もりだったが、天才には及ばない秀才止まりでしかない信勝程度の器では、弱肉強食な戦国の世を生き残れないと考えを改めたのである。そこで幼少期から妙な大物感を醸し出していた姉に目を付け、当時では滅多に無かった女を後継者に選ぶという賭けに出たのだ。   このような経緯により彼女が家督を継いでからは、家長として色々と都合が良い男性として振る舞うようになった。女性であることを隠そうと周囲に情報統制を敷いていたたため、後世では実際の性別とは異なる男性として伝わっている。  ——神をも恐れぬ第六天魔王と民衆のみならず家臣にも畏れられた信長だったが、時代や境遇が原因で叶わず内に秘め続けた少女らしい”夢”があったのかも知れない。   —————————————————— 「——っぶ、ノッブ! ちょっと私の話、聞いてますか?」 「何じゃ五月蝿いのぉ……言われなくとも何一つ聞いておらんぞ」  目の前でギャーギャー騒いでいる見た目だけなら儚げな美少女——”赤い弓兵”と”青い槍兵”と同じように帝都聖杯奇譚から妙な縁が生まれている桜セイバー"沖田 総司"をぞんざいに遇っている信長は、半分以上呆れの感情が混じっているジト目を向けていた。  信長は自分の髪にある枝毛を裂いて遊んでおり、相手の話に極力意識を割かないように努めている。聞き分けが無い不良生徒に接する鬱陶しい先生のような態度を取る沖田は、自分の話をちゃんと聞くようにと伸ばした人差し指を向けながら注意していた。  彼女が向けられた指を握って折らなかったのは、怒りを露わにするだけの元気が残っていなかったからである。 「沖田さんとマスターの大事な話なんですから、ちゃんと聞いてて下さいよっ! ここからが良い所なんですから——」 「はぁーーっ、わしは何を聞かされ取るんじゃ……」  一見すると信長が悪いと感じるかも知れないが、実際にはペラペラと喋り続けている沖田に非があった。延々と聞かされている話の内容が、胸焼けを起こしてしまいそうな”惚気話”だったのである。  床の上での生々しい情事さえ聞かされ、辟易しない方が可笑しいのだ。 「いつもはとっても優しいマスターですけど、布団の上だと少し意地悪なんですよ♡♡ 私がもう無理って言うと、余計に激しくするんですっ♡♡♡ これって現代だとベッドヤクザって言うんですよ♡♡」 「あぁ〜〜〜〜っ、もう聞いてられんわっ! これ以上、口を開けば撃ち殺すぞっ!!」  遂に我慢の限界を迎えてしまった信長は、火縄銃を沖田の周囲に召喚していつでも撃てると脅す。  しかし、普段からこの程度の小競り合いには慣れているのか、怯む様子が全く無い沖田は少しだけ悩んだ素振りを見せた後、何かに合点がいったのか嫌らしい笑みを浮かべながら口を開いた。 「ぁっ、なるほどっ! もうっ、そういうことなら言って下さいよ」 「……何がじゃ?」  沖田がどうせ碌でも無いことを考えていると分かっていながらも、流石に何を言うのか気になったのか信長は問い質してしまう。 「私がマスターとラブラブなのに嫉妬してるんですよね? ノッブ”も”マスターのことが好きなら、ちゃんと告白して気持ちを伝えないと駄目ですよ」 「はっ、は……っ、放てぃっ!!」  複数の発泡音が一つに重なった大きな音と煙が立ち昇り、狙っていた沖田に向かって幾つもの弾丸が放たれるが、煙が晴れた時にはそこに彼女の姿は無かった。気付けば信長の背後に刀を抜いた状態で構えており、正しく”ワープ”でもしたかのように瞬間移動している。 「ふふふっ、照れ隠しで撃つなんて野蛮ですね。でも、沖田さんには効きませんよ。相性的には、ちょー有利なんですから——こふっ!?」  得意気な表情を浮かべていた沖田だったが、生前からの病弱により顔色を青くしながら吐血してしまう。床に倒れ込む彼女の哀れな姿に毒気を抜かれたのか、召喚していた火縄銃を消した信長は、馬鹿らしいといった心情を隠さない表情を浮かべる。   「わしはこんな阿呆に天下を邪魔されたのか……。自分が情け無くなってくるわ」 「ごほっ! ごほ……っ、沖田さん大勝利ーな事実は変わりませんからね。それに……どうせノッブじゃマスターは堕とせませんっ」 「……何?」 「ナイスバディな私と違って、ノッブは貧相ですから。マスターを満足させる技術もなさそうです」  まだ顔色が悪いのに嘲笑の笑みを浮かべる沖田に対して、呆れていた信長は再び怒りの感情に満たされていくのを感じていた。全身をぷるぷると文字通り怒りに震えている彼女は、床に這い蹲っている虫を見るような視線を向けながら寝取りの宣言をする。 「吐いた唾は飲めぬぞっ! マスターに捨てられたとしても自業自得っ!! 是非も無しじゃからな!」 「ふんっ、マスターに返り討ちにされるノッブの姿が目に映りますっ!」  お互いに相手に吼えながら睨み合う二人だったが、一刻も早くマスターの元へと向かうために沖田のことを放置して信長はここから離れていく。そんなライバルであり喧嘩友達のような仲の後ろ姿を見送った沖田は、ふぅっと息を吐いて脱力しながら悪態を吐く。 「ふぅーーっ、本当に手が掛かりますね。死んだ後なんですから、素直になれば良いんですよ」  恋のキューピットなんてらしくないことをしたと自嘲しながら、沖田は心の中で友達のように思っているノッブにエールを送る。  そして、十秒後に倒れたままでいる所をクリミアの天使”フローレンス・ナイチンゲール”に見付かってしまい、治療をしようとする彼女と地獄のような鬼ごっこを繰り広げることを沖田は知らなかった。   『なんで沖田さんがこんな目に合わないといけないんですかっ! もうノッブのためになることなんて絶対にしません——こふッ!?』 ——————————————————  怒りという名のエネルギーに突き動かされた信長は、マスターが寛いでいる部屋の前へと辿り着いた。ほんの少しだけ戸惑いを見せたが彼女は勢いに身を任せて扉を強引に開き、獰猛な肉食獣が待ち構えている巣の中に自ら飛び込んでしまう。 「邪魔するぞっ!」 「うわっ! ビックリしたぁ……どうしたのノッブ?」 「五月蝿いっ!! 元はと言えばそなたの節操が無いせいであろうっ! わっ、わしという天下布武を共にする相手がいながら、他の女どころか剰え忌々しい人斬りまで手篭めにしおってっ!!!」  突然の来訪と何故か怒っている信長に彼が驚き戸惑っている間、彼女はズカズカと大股で歩いて、二人の距離はお互いに吐き出された呼気が頬に当たる近さとなった。二十センチ以上ある身長差から自然と信長が顔を上げて見上げる体勢となっており、普段の尊大不遜な態度の反動なのか身長差以上に小柄で可愛らしく見える。 「あの、何かあるならちゃんと聞くよ? ——んむっ!?」  彼女の鮮血を彷彿とさせる真っ赤な瞳とマスターの青色の瞳から視線が交わり、二人は少しの間だけ見詰め合ったままでいた。そして、信長は彼の頬を左右から挟むように拘束して、理由を聞こうとするマスターの唇を自分の唇で塞いでしまう。  蕩ける程に柔らかな彼女の唇の感触により、彼は自分が話そうとしていたことを記憶の彼方に飛ばす。 「んむっ♡♡♡ ん゛っ♡ ふぅ゛……っ♡♡ ふぅーーッ゛♡♡♡」  頬を左右から挟まれて身動きも取れないため、彼女の唇や鼻息が掛かるこそばゆさを堪能するしかない。信長の小柄な背中や括れた細い腰にマスターは無意識に両腕を回して、二人は恋人同士がキスをする時にする体勢となった。 「んぅ゛っ♡♡ ちゅぅ゛……っ、ぷはぁーーっ♡♡♡」  暫くの間、唇同士を密着させた初々しい口付けを続けた後、ある程度は満足したのか彼女はゆっくりと唇を離した。運動をした後のように熱を帯びた荒っぽい吐息を吐き、信長はこれまで一度も見せたことが無い牝顔をしながら彼を自分のモノにすると宣言する。 「はぁ゛ーーっ♡♡♡ はぁ……っ♡ まどろっこしい説明は無しじゃ♡♡ 見境の無いそなたをわしの魅力で堕としてくれるわっ♡ んむぅ……っ♡♡ ちゅぅっ♡♡♡」  再び彼女は自分の唇でマスターの唇を塞ぎ、お互いの唇を触れ合わせる行為に勤しむ。そして、信長は上唇と下唇の隙間から唾液に濡れた舌先を伸ばし、彼の唇を舐め回しながら口内にまで挿入する。 「れろぉ゛……っ♡♡ ん゛むっ♡♡♡ ちゅるっ♡ ちゅるるぅ゛っ!?♡♡ んむぅ゛ッ♡ ちゅぷぅ……っ♡♡ れろろぉ゛——っ♡♡♡」   ここまでキスをされたら彼も本気になってしまい、信長の括れた腰を強く抱き締めながら口内に侵入してきた彼女の舌に自分の舌を絡めた。突然の反撃に対して信長は大きく両目を見開きながら、口内で悲鳴にも似た驚きの声を漏らしてしまう。  それも一瞬のことであり、マスターに負けじと彼女の舌を絡み付かせる動きも激しくなる。 「じゅぷぷっ♡♡♡ ちゅるっ♡ れろろぉ゛っ♡♡ ぢゅぷぷっ♡♡♡ じゅるっ♡ ちゅぷぷぅ゛……っ♡♡」  ——二人は艶かしく激しい接吻を続けるが、信長が素直になるのはもう少しだけ先の話であった。

第六天魔王となった少女は夢見た花嫁となる 前編

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