SakeTami
雪中アヤメ
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ポニー合宿(仮) 5

(注)FANBOXにて先行公開する作品は執筆中のため、後に一部内容が修正される可能性があります。ご容赦ください。 「ン……ゥ……」  下にした肩の下から藁が擦れるような音がした。緩やかに浮上する意識が体のあちこちに異常を捉えるが、すぐに現状を思い出して気を取り直した。身体を捻ると束ねられた腕が拘束感を伝えてくる。  ポニー合宿二日目、雌馬としての目覚めは意外と悪くないものだった。 「はぐ、むぐ、んむ……」 「朝の餌はこれだから、しっかり食べてね」  同じだとばかり思っていたが、どうやら餌も複数種あるらしい。ざく切りのキャベツにやや肉そぼろ感の増した流動食を掛けた餌を口を汚しながら頬張る。昨晩と違って硬い咀嚼音も響くあたり、屑野菜──に見立てたもの──を食べる馬を演出したいのだろう。排泄の時以外はカメラも回っているし。  やはり皿入りの水もしっかり飲み干して、用を終えた口は轡で封印してもらう。朝は小さい方だけ排泄の処理を済ませて、銜枝と遮眼帯を着けられると昨日と同様に外へ連れ出された。 「昨日で三頭とも歩き方は覚えてくれたみたいだから、今日は身体に染み込ませようね」  昨日の何もない平地から少し離れて、何やら仰々しい機械のもとへ。順調ならば二日目は機械で歩行訓練をすると聞いている。  太い柱の頂点から等間隔の三方向に細めの梁が伸び、その先端からさらに三本の細い棒が垂直に降りている。見掛けからの第一印象は……空中ブランコ。いや、 「カルゼル、って機械だよ。たぶん見ただけで使い方はわかると思うけどね」  メリーゴーラウンド。いかにもな命名だ。複数の馬がくるくる回る。何も間違っていない。違うのは馬が自分の脚で歩くことと、勝手に回ってはくれないことだけだ。  その手前でカメラに三脚が取り付けられた。確かにこれなら定点撮影が可能だ。絵としてもやっておきたいのはあるのだろう。この手の訓練器具は出処こそわからないが、今やポニーガール調教の創作イラストなどには定番といってもいいから。 「一定回数だけ回ったらブザーが鳴るから、それまで。手綱は引いてあげられないけど、頑張ってね」  それぞれ先端に金具がついた三つの棒に挟まれるように立つ。高さが調節された金具をハーネスにしっかり固定されると、それだけで上半身は動かなくなってしまった。  他の二箇所でも同じように馬が繋がれる。これでわたしたちは運命共同体だ。代表してわたしが尻を叩かれて、乾いた音とともに鋼鉄製の遊具はゆっくりと回り始めた。 「フッ、ゥ……ン、ッ」  三本の梁は固定されている。誰かが歩けば勝手に回って、他の二頭は繋がれた棒に押し出される。それに反応した二頭も同じように歩き始めれば器具の重さも目減りして、三頭がかりではほとんど抵抗を感じないくらいになった。  腿上げ歩きの命令は受けていないけれど、呼吸を合わせるために誰からともなく歩幅と踏み出しの速度も合わせられた。もちろん一番小柄なアナに合わせて、無理をしていそうな息遣いが聞こえなくなるまで減速して。 「ン、……フッ、……ゥッ」  これが意外と難しいけれど、必要な訓練だった。オプションではあるが、二頭立て馬車も用意されている。二頭で一台の馬車を牽く時は、ペースを完璧に合わせることは必須条件である。それも遮眼帯でお互いが見えない状態で、だ。  だから今のように、大きな円形に配置されて視認できない互いを察知することはポニーとして大切な技能。複数立ての馬車を牽くということは、馬にとってとても名誉で難しいことなのだ。 「フゥ……ンゥ……ッ、」  昨日と同じだ。そうしてずっと歩いていると、何も考えられなくなってくる。ただ他のことを何もせずに歩き続けるだけでいるからか、雑念や興奮などの余計な感情が自然と消えていくのだ。羞恥や屈辱といった邪念も心の中でどんどん後回しになる。昨日と同じであれば、訓練が終わって落ち着いたその瞬間に一気に押し寄せるはずだ。  今はカメラを向けるシノ様と並んで話をしているオリ様の話が事実なら、そのうち思考を放棄したまま絶頂だけを感じることもできるようになるという。放棄された興奮という過程を飛ばして、一足飛びに生物としての絶頂だけを得られるのだとか。それも痙攣や嬌声といった、外部へ主張する快楽の証拠を出すことなく。 「ハッ、ハッ……ァ!?」 「止まらないで」  そうして配慮していたとはいえ、やはりふたまわり以上も小柄なアナには過酷だったかもしれない。何十分そうしているか分からなくなってきた頃、空っぽになった意識に蹄鉄がたたらを踏む音が聞こえた。  思わず歩行を緩めようとしたわたしとミカに、オリ様から鋭い声。今のわたしたちは従順な家畜だ、人形と化した身体は叱責ひとつで動きを維持する。重くなった器具をものともせず、慌てて歩幅を戻したアナを一瞬だけ引きずるように。 「フッ、ハァッ、ンゥッ、ウゥ……!」  もう無意識だろう、苦しげな声を垂れ流しつつも無理やりわたしたちに合わせてくる。間違いなく無意識のペース配分すら無視した無茶だろう。後で聞いたところによると、この時のアナは涙と涎でぐしゃぐしゃになっていたらしい。 「はい、そこまで」 「フッ……フーッ……」  無機質なブザー音で反射的に減速を始め、今日は物理的に感じる完成に合わせてオーバーしながら停止。さすがのわたしもミカと同様に息を切らしていたし、アナに至っては止まってすぐに泣き声が聞こえてくるほど。歩いていた体感時間は昨日の訓練とさして変わらないのに、感じる疲労の差は歴然だった。 「ッゥ、フェェ、ッ、」 「大丈夫、アナ?」  すぐに器具から外され、柔らかい芝生に寝かされる。轡こそ外されなかったが顎の下を締め上げるベルトを緩められ、わたしたちも寝かされながらに嗚咽を聞き続けた。  しばらく休んで落ち着いたあたりはさすがだったが、すぐに再開は無理だろうという結論に達したらしい。疲労困憊のアナは一旦休ませ、午前中の残りの時間はわたしとミカが二頭で回すことになった。  その間、アナはというと。   ◆◇◆◇◆ 「フゥッ、フゥゥッ……」  その間あたしは、カメラを定点に置いて暇になっていたシノ様にお仕置きを受けることとなっていた。今は近くの躾小屋で二人……一人と一頭だ。  負担の大きいアームバインダーを一旦外して筋肉を揉みほぐし、ブーツと近い形状のポニーグローブを履かされる。これはこれでポニーらしいアイテムだったけれど、今回は採用されなかった。腕もとい前脚の拘束が弱いと、慣れた馬でない限り走りづらいのだそうだ。  そのまま腹ばいにされ、腹部を柔らかい跳び箱のような器具にベルトで縛りつけられる。擬牝台と呼ばれる器具の模倣だ。本来は家畜の精液を採取するために使われる道具なのだが、この拘束具は今のように牝を拘束して完成と表現するらしい。確かに今のあたし、後ろから雄馬が種付けするのにずいぶん都合がいい格好をしているけど。  ……それだけ。 「ゥ……?」  こんな拘束をしたのだからてっきり尻でも叩かれるのだろうと身構えていたが、そんなごく簡易的な拘束を済ませたシノ様は特に動きを見せなかった。訝しげに鳴いてみせても、鞭やパドルを持つ気配はない。  次に何をしたかと思うと、顎を載せる台に前を向かされたあたしの目の前にモニターを設置した。そしてあたしの耳にヘッドフォンを装着。まさかと思う間もなく、モニターはあたしの予想通りの挙動を始めた。 『……フッ、フッ、ゥ……』 『ハッ、ハッ……』  うつ伏せで休まされたあたしの目の前で、おそらく今まさに行われているであろうカナとミカのカルゼル調教が映し出された。ヘッドフォンもしっかり仕事をしている。  あたしはあの場に居られなかった。それなのに今こうして、あたしは外から見せつけられている。二頭とも息遣いが艶かしい。ヨダレも垂らして、瞳もしおらしく潤んでいる。それなのに脚は勝手に動いている。ついさっきまで自分も参加していた歩行訓練が、こんなにも扇情的だったなんて。 「ウゥッ、ンフーッ、ァウ……!」  狙い通りそのままだろう。あたしはすぐにもどかしくなった。そんな体力はないのに、またああして歩かされたい。そんな権利はないのに、せめて溜め込まされる不似合いな淫欲を発散したい。  ついに我慢できなくなったあたしは、擬牝台の上で浮いたまま自由になっていた四本の脚を馬のようにばたつかせ始めた。こうしていればまた馬として認めて貰えるのでは、という淡すぎる期待。あるいはただ我慢しきれなかった衝動の惨めな発露。 「ハフッ、ハフッ、ンーッ……!」  だがもちろん、そんなことをしても何も変わりはしない。こちらでも回され、あたしのポニーらしい部分を撫でるように写していくカメラに滑稽なお仕置き馬の姿を記録するだけ。  そうして揺れる尻尾が、威勢よく台の上で走る四肢が、これでもかと撮影されていく。もちろん脚の拘束が甘かったのはこの絵を撮るためだ。半分くらいは無意識のうちにとはいえ、あたしはまたカメラに媚びてしまった。  ああ、早く午前の躾が終わってくれないか。気持ちよくなんてなれないとはいえ、午後になればあたしも走れるのに。発情させられながらそんなことを小一時間思い続けるのだから、あたしへの懲罰としてはこれ以上ないものだった。


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