SakeTami
雪中アヤメ
雪中アヤメ

fanbox


ポニー合宿(仮) 1

(注)FANBOXにて先行公開する作品は執筆中のため、後に一部内容が修正される可能性があります。ご容赦ください。  一般に「家畜といえば?」と聞かれて、すぐに思い浮かぶ動物のひとつに馬がいる。大きな体と長い脚による速さ、走る時に背中が湾曲しないことなどから、古くから搭乗や運搬に利用されてきた動物だ。なんでも遅くとも5000年前には家畜化されていたというからその有用性は折り紙付きであり、野生のものはその頃には絶滅しているとも。  特徴的なのは家畜化された理由だ。羊や牛、豚などと違い、求められたのはその体あるいは作られるものではない。馬刺しや桜肉といったように食用になることもあるが、基本的には走るか歩くことである。ラクダのように他にもいるとはいえ、馬は昔から世界中に広まっている。それだけでもその有用性がわかるというものだ。  そんな馬、特に牝馬を性的な目で見る人はほとんどいないだろう。精々がその陰茎の大きさを二次元の創作物に扱われる程度だ。もっとも、本物の雌の動物を性に扱うこと自体が皆無ではあろうけれど、バター犬や獣姦といったように実際に扱われる犬のような小型動物とは大きな隔たりがある。  ……のだが、そんな馬を間接的に性にかかわる行為のモチーフとするものは存在した。主に欧州で行われているBDSMのひとつ、ポニープレイというジャンルだ。マゾヒストを馬に見立てて拘束し、歩かせたり走らせたりという行為を通して嗜被虐を得るヒューマン・アニマル・ロールプレイの一種である。もっとソフトな四つん這いでの“お馬さんごっこ”もある意味ではこれに入るかもしれない。  だが、このプレイには大きな空間が必要となる。その上プレイ自体もかなりハードだ。そのような理由で日本ではあまり広まらず、ごく少数の好事家がなんとか庭先で真似事をしたりする程度に留まっていた。  だが、フランス留学中にポニープレイを実体験してきた先輩はその現状に否を唱えたのだった。 「もうすぐ着くよ!」  長い大学生の春休みも終盤に差し掛かろうかという昼下がり、わたしたち五人は揃って車に乗り込んでいた。彩乃さんの運転で走るミニバンが大荷物を抱えて田舎の方へ。家のある地方都市から車で二時間ほどの所に、それは鎮座ましましていた。 「あれですか」 「大きい……」 「聞いてはいましたけど、実際に見ると凄いですね」  周りに何もないような草原の中に、ぽつりと建っている大きなドーム。そこが今回の目的地だった。  正式名称は覚えていないが、通称をゴルフドームと呼ばれた建造物だ。雨避けのために全天を覆う屋根を作り、それでいて青空を拝むためにその屋根を透明素材にしたという豪快なものである。当然のようにUVカット加工までされている。  ところがこのゴルフドーム、田舎にあった上あまりに大きすぎて維持費が馬鹿にならず、そこまでして雨の日にゴルフをしたい人もあまりいないということで採算がつかずに放棄されていた。五年近く放置されていたところを、今回ミスト・スランバーが格安で譲り受けたという形だ。 「あれが、そうなんですね」 「うん。ちょっと駅からも遠いけど、この広さを確保するなら結局どこでも似たようなものだからね。宿泊施設を併設する前提なら、これが最適かなって」  ミスト・スランバーが進めているアダルトテーマパークの建設計画を作るにあたって、最初に白羽の矢が立ったのがここだったらしい。というのもプレイ内容が内容だったため、屋外だといろいろと困る部分もあったためだ。  買い取られたドームはすぐに軽い工事が始められ、先日になってひとまず最低限のことが終了した。工事といってもそう仰々しいものではなく、ガラスを外から中が見えないようにする塗装加工を全体に行っただけのものだが。本格的な工事はこれから始めるとして、令嬢の希望によりこれから四日間貸し切られることになったわけだ。 「よくこんなに都合のいいものがありましたね」 「私もびっくり。でもこれで心置きなくポニープレイができるよね」  そう、わたしたちはこのドームまではるばる、ポニープレイを行うためにやってきたのだ。  車がドームの傍に停められ、わたしたちは荷物を持ってドームの中へ。内側からは全天がガラス張りに見えるドームの中は、ほとんどまっさらな草原のまま五人を迎えたのだった。 「これが私たちの寝床ね」 「そ。ちょっと手狭だけど、残ってたのをそのまま使うだけだから我慢して」  莉緒先輩と彩乃さんがスーツケースを持って小さな小屋の中へ入っていく。どうやら寝泊まりできる設備が整っているらしく、ひとまず荷物を置いてすぐに出てきた。  だが、明らかに五人が泊まれる広さではない。 「あの……先輩、ここだけなんですか?」 「うん。……一応確認するけど、三人はポニーとしてここに来たんだよね?」 「はい」  そう。澄歌と妃菜、わたしこと奏の三人は今回、新米ポニーとして調教されるためにここまで来ている。わたしも澄歌もついにポニーガールになれると内心小躍りしていたし、妃奈は戸惑いつつではあるが目覚めつつあるM心が期待を露わにしていた。  後輩三人が先輩こと調教師にポニー調教を受け、立派なポニーになるための三泊四日。銘打つにポニー合宿というのが今回のテーマである。 「だったら、三人の寝床はあっちでしょ?」  莉緒先輩の指さしたものを見て、わたしたちは揃って唾を飲んだ。  明らかに畜舎だ。それも馬用の。先輩たちはわたしたちに、この合宿中は常に馬でいろと、帰るまでは人間に戻してやらないと、そう宣言したのだ。  とはいえ、わたしたちはまだポニープレイについて一切の経験がない。精々が動画を見たくらいで、どうやればいいのかもわかっていない。  だから最初にお手本を見せると言われていた。では誰がやるのかというのは、もはや自明なわけで。 「軽くだけど先に見せておくから、ちゃんと目に焼き付けてね」  小屋へ荷物と一緒に脱いだ服を置き、裸の上からサイズが近いミカのハーネスを身につけたオリさんが声をかけてきた。見ればシノさんも調教師モードに入っている。  ただの手本だからと尻尾と首輪は割愛して、両腕をアームバインダーに収める。シノさんに支えられてポニーブーツを履くと、踵のない明らかに不安定なその靴ですぐに安定してみせた。  左右の余計な視界を減らす遮眼帯と長い手綱がついた馬銜を前に口を開き、轡をしっかりと噛み締めるオリさん。この轡とブーツはそれぞれの歯型と足型に合わせた一点物だそうで、そこは専用のものを持ってきたのだそうだ。 「……綺麗」  誰が呟いたか、その立ち姿は本当に見蕩れるものだった。爪先立ちを強制されて腕に窮屈な拘束を受けているはずなのに、ぴんと背を伸ばした格好いい佇まい。それが人間から家畜へ堕とされた存在だとはとても思えない、芸術品を見ているような感覚だった。 「準備はいい?」 「ウーッ」 「それじゃあ、見せてあげて」  感覚を慣らすためかブーツの蹄鉄で地面を数度踏み締めるオリさん。足元は人工芝だから枯れる心配はない。しばらくやれば張り替えは必要になるだろうけど。  手綱を軽く振り上げて打つ。それを合図に、馬はゆっくりと歩き始めた。太腿を水平まで上げて、不格好にならない程度に前方へ下ろす。もう片方の脚を上げて、下ろす。  あまり実用性はない、随分と遅い歩き方だ。だがそれは動画でよく見掛ける歩き方で、生で見ると想像以上に美しかった。 「フッ、ウ!」  今度は強めに手綱が振るわれた。馬はそれまでの見世物歩きをやめて、小走りくらいの調子で足を動かし始める。手綱を握ったシノさんを中心に、かぽかぽと蹄鉄を鳴らしながら円を描くように。それでも姿勢は崩れず、背中に棒を通したようなポニーが一心不乱に駆け回る。  ……正直、意識が変わった。つい先ほどまで、わたしたちはポニーガールというものを舐めていたのだと思い知らされた。  本物のポニーガールはこうなのだ。ただ恥ずかしい馬の格好をして走るだとか、被虐に酔いながら馬車を牽かされるだとか、そんなことを考えていてはいけないのだ。  ポニーガールは家畜である。言葉も向けられずに手綱や鞭で調教師や御者の意図を受け取り、ただ求められたことを実現することで応える。そこにSMなんてない。全ての剥奪と放棄、そして家畜としての使役や奉仕しか存在しない。被虐も、恥辱も、快楽も後から勝手についてくるだけ。  この四日間の合宿で、立派なポニーになってみせよう。誰が口に出すでもなく、わたしたちの意志はひとつになった。乗馬鞭を入れられて全力疾走をしながらもなお姿勢が崩れない優秀な雌馬を前に、わたしたちは興奮とともに憧れを感じ始めていた。 「お手本も見たところで、さっそく始めよう、お馬さんたち」  わたしたちは内なる昂りを隠すこともできず、連れられるままに畜舎へ。外から見るといかにもな畜舎だったが、内装はしっかりとした清潔感のある造りになっていた。雰囲気作りと安心感のバランスということなのだろう。何しろ寝泊まりをする場所であり、後々には体験客が同じことをする可能性だってある。  SMはただ痛めつけるものではないから、プレイ以外ではむしろ快適に過ごさせる必要がある。見れば空調設備もついているから、やはり既にそのつもりで作ってあるのだろう。  並んだ馬房のうち三つにそれぞれ澄歌、わたし、妃菜がスーツケースを持って入る。そこで順番待ち、着付けは一人ずつだ。


More Creators