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アルバム「Irui」設定全文&各楽曲ストーリー公開2


■荒廃した国 / 残された音 (Dhgh)


老婆からこの先の旅は長いから、と託された食料や荷物を背負い、さらに18日間かけて、

イルイは「喉」から北方、「最も平和」だと聞いた国へ向かう。

国の国境には立ち入り禁止の文字と、大きな壁があった。この壁は国全体を囲っているらしく、

領土は他の国と比べてもかなり小さい。都市という規模に近い。壁を前に為すすべは無いと判断したその時、門から2kmほどの地点に小さな穴を見つける。

穴は国の内部につながっていたが、イルイの様な華奢な体型でなければ抜けられない箇所があり、なんとか通過できた。

平和の意味は分かってはいるものの、想像と違う光景がそこにはあった。

荒野の中に佇む、転々とした住居地、窓からの光の屈折を受けづらい場所に位置している関係もあってか、ほのかに薄暗い。人の気配など感じられなかった。

イルイは埃まみれになった少女に出会う。かなり痩せ細っており、汚れた布を羽織った様な格好をした少女はイルイを見ると、

知らぬ言語を発しながら手にした刃を光らせてイルイを仕留めようとした。

だが、只でさえ弱っているその身体ではその攻撃は無意味となり、押さえつけられた体はぐったりと力を失った。

イルイは少女を介抱した。1つめの国で皆がそうしてくれたように、2つめの国で老婆がそうしてくれたように、

道中の青年が自分を見てくれた様に、少女にも慈悲をかけたくなった。近くの小屋へ少女を連れて、気を失っている少女のそばで、この国はなんなのか考えていた。

目覚めた少女はイルイの目を見て、共通の言語で「あなたは私達と似ているわ」と言う。

先ほどの行動を軽く謝罪すると少女はこの国について、かなり辿々しい共通言語で喋り出した。

ここには元々人がたくさん住んでいた事、上層の人間達が「過ちを正す方法」を思いつき、それによって大凡の家族が「いなくなって」しまった事、

喉を中心に各国を統治している機関がこの国に関するデマを流し続けている事、捨てられた子供達には何一つ恩恵が与えられないまま焼かれる野を只管に逃げ回っていた事、

全て約3年以内の出来事である事。

衣食住は辛うじて繋ぎ、言語は子供たちの間で独自に編み出された物らしかった。

過ちを正すという事の真相は理解していないが、親が殺されていることだけは理解していた。

子供達は大人を憎み、残された者たちで団結し、復讐を果たすために生きている事、再びこの焼かれた地に光と水を取り戻し、

自分達が間違った大人にならないために邪魔者を排除する事を、涙ながらに語っていた。

少女は酷く落胆していたが、イルイの目を見て言った言葉には強い意味があった。

どうやらここに住まう子供達は、度々大きな声を聞くことがあるらしい。それは頭の中に直接響く様で、酷く悲しい声で助けを求めている言う。

子供達はそれを「神様の声」と呼び、きっと神様も自分達と同じで、何かに縛られている、だからこんなに理不尽な世界が出来上がった、という理屈だった。

自身がその神の声とやらを届ける存在である禊である事は言わなかったが、子供達はそれを信じている。

それに疑いをかけ、逃げ出した自分に、この子供達の計画と未来を根拠のない肯定で語る事などできる筈が無かった。

少女は最後まで暗く淀んでいた。「あなたは不思議 外から来たのに敵意がない 私もあなたを殺さない」と言った。

「だけど、こんな所にいたら貴方もいずれ死ぬ。こんな不幸は、私たちの誰かが終わらせなければ」とも。自分が明日死ぬ事を分かっているような素振りで。

イルイは涙をこぼす少女の瞳を見て、以前に感じた悲しみとは全く別の、頭の中がかき回されている様な、酷く体が熱くなり、視界がにじむような激情を体験した。

何もできなかった自分が酷く惨めになった。

少女に別れを告げた後も、多くの視線を感じた。恐らく彼等が残されたものなんだろう。

この国で聞いた「声」は、涙交じりのように感じた。最早ここは国とは呼べなかった。この国の子供達は、なぜ外に出ないのか、理解出来た気がした。

イルイは怒りに触れる。


■祠 / ある監視の視点 (Vend) // 鳴石碑 (Erua)


次の国へ向かう途中、イルイは道端に祠の様な場所を見つける。今日は光が強い、ここで休む事にした。

祠は不自然であった。何を象っているのか不明な小さな彫刻物と、それに似つかわしくない大きい社。

社の背後には、大きな一枚岩の様な物が薄く灯を放っている。

これは確か…2つめの国の老婆が言っていた、「エルア」だ。なんのための造形物か分からない、遺跡の様なもの…だと聞いた。

社は人が二人入れるような大きさだ。その割に、彫刻を囲む物がない。

不自然さに気を取られながらも、体の疲弊は感じる。この辺りで、と寝床につこうとした瞬間、社の奥で光る目がこちらを睨んでいる事に気づく。

「誰だ」と声が聞こえる。イルイはその目に向かって名乗る。「変わった名前だ」と返される。

イルイは逆に名を問うが、答えようとはしない。姿もよく見えないが、何故か近づく気にはなれなかった。

妙な感覚が襲う。体験したことがあるような、まるでこの人物と会話をしたことがあるかのような。

「何故ここに来た」と目の主は問う。今日は宿がないから、と事実だけ述べるが、目の主は何も返さない。しばらくの沈黙の後、目の主はこう言う。

「死ぬだけの存在が死から逃れると、何が残ると思う」と。

イルイはこの質問が衝撃であった。まるで自分の事を知っているかのような質問だ。なんだ、これは。

イルイは答える。なら生きるだけだ、と。自分が今考えうる中で、様々な人々に出会い出た結論が、今は生きている、という事実だったからだ。

目の主は答える。「自分から逃げているだけなんじゃないのか。」違う。僕は呼ばれている。「何にだ。」分からない。

「それじゃ、本当に生きているという理由にはならない。」どうして。「目的がない。それでは、死んでいることと同じだ。なぜ、逃げた。」

何故だ。分からない。問答が続くが、どれもこれも終わりのない、無意味なものになっている。

質問が止まる。イルイは考える。近づけないこの気を持っているその存在が何なのか、なぜ自分に既視感があるのか。

考え抜いた結果、どこでこの声を聞いたのかを朧げだが思い出して来た。

暗い部屋の中、怒号のような、人の呻き声のような声にこれは混ざっていた。そうだ、僕がここに来る前に、この声を聞いた、ような気がする。

だが、詳細には思い出せない。

目の主は見えなくなった。どうやら寝てしまった様だ。それでも、とても近づく気にはなれず、イルイもまた同じ屋根の下で眠りについた。

朝を迎えた時、イルイは辺りを見渡した。窓からの光で明るくなっている為、ようやく社が見渡せる。声の主は、

イルイの背中にあった柱を挟んだ向こうに、いた。

それは恐らく、死んでいた。人の形ではあるが、それには手足がなかった。眼球すらも無かった。

だが、流血はしていない。まるでもともと無かったかの様な。殴打の跡、火傷の様な爛れと、腐臭。これは人間とは呼べない。人間の様なものがあった。

イルイはそれを見て、何故か不快にはならなかった。見覚えがあった。喉に刻まれた印、首に巻かれた赤い布、それは、イルイのそれと同じだった。

イルイは何かを察した様に社を出た。

どんな感情でいればいいか分からなかったが、自分は、ここに居てはいけない、と思った。

去る直前に立ち止まった。小さい声で、すまない、と一言だけ呟く。

背に、淀んだ声で、「殺してやる」という声が聞こえた。

イルイは恐怖に触れる。

アルバム「Irui」設定全文&各楽曲ストーリー公開2

Comments

Love your music! Looking forward to reading the story of <Adaption Window>...

どんどん気になってきてます。


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