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ぶんちゃん
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スク水戦闘員を殲滅せよ 21話

 彼はハッと息を呑んだ。  その死体は、ハルキ以外の人間からすれば、ガレージ内に散らばる死屍累々の一つにしか過ぎないはずだった。  その死体は、ハルキ以外の人間からすれば、ガレージ内の惨憺たる風景をカタチ作る為の、部品の一つにしか過ぎないはずだった。    しかし、彼にとって『彼女』だけは違った。  スク水装備を身に付けた『彼女』のその姿は、あまりにも他の者達と同じ過ぎて、見分けがつかなかった。  他の者達と同じ『彼女』のその没個性な格好は、今の今までハルキに『彼女』の存在を気付かせなかったのだ。  しかし、その少女はハルキが決して忘れてはならない人だった。  暗闇の中、ハルキ、そして『彼女』が互いの『初めて』を捧げあった相手。  ハルキにとって、決して、忘れてはいけない人だった。  彼は一瞬にして、身体中が緊張に包まれる。それは、期待と不安が表裏一体となって押し寄せてくる不思議な感覚だった。  当然、彼は既に『彼女』は死んだものと思い込んでいた。しかし、今スク水隊員達が行なっている確認作業。なぜかそれを見ていると、わずか一抹の希望にすがってみたいという気持ちになったのだ。  そして、そんな『彼女』のもとに、とうとう先ほどの二人が駆けつけようとしていた。  既に数人の犠牲者を運んだからなのか、彼女達の顔にはうっすらと疲れの色が見え始めていた。しかし彼女達はあくまで忍耐強く、その表情を極限まで無表情で覆い隠し、真面目に運搬作業に従事していた。  しかし、やはり足までは誤魔化す事が出来なかったのだろうか、不意に片方の戦闘員の足元が狂ったかと思うとーー 「きゃっ!?」 ーーその少女は『彼女』の身体に覆い被さるようにコケた。 「……ッ!?」  『彼女』の身体を襲った衝撃に、ハルキは一瞬泣きたい気持ちになった。  たとえもし、万が一、奇跡的にも『彼女』が生きていたとしても、おそらく彼女は虫の息だろう。そして、さっきまでのスク水戦闘員達との戦闘から考えるに、彼女達は極端に弱く、極端に生命力が低いという事がうかがえる。  それは、あの死体回収トラックの荷台に山盛りになっているスク水戦闘員達を見れば分かる事だ。  あの中には、ハルキが投げ飛ばしたスク水少女の身体にぶつかって死んだ女の子もいるのだ。彼女達はたったそれだけで死ぬのである。  したがって布団蒸しのように覆い尽くされ、あまつさえ灼熱地獄の中でハルキと激しくカラダを重ね合った『彼女』にとって命に別状がない事などほとんどあり得ないのである。  だからこそ、この『衝撃』は絶望的だった。ショートヘアのスク水隊員の身体が勢いよく『彼女』の体を打ち付けたこの一撃は、ともすればトドメの一撃にもなりかねないのだ。 「イテテ……」  身体的にも精神的にも未熟そうな、どこかフワフワした雰囲気のその隊員が、初めてその顔に人間らしい表情を醸し出す。 「ちょっとッ、気を付けなさいよ!」  彼女とペアを組んでいたもう一人の隊員が、囁くような小声でドジなパートナーを叱った。  そんなやりとりを見て、ハルキの心は激しい苛立ちに苛まれた。 「ご、ごめ〜ん……サッちゃんってば、またコケちゃった……」  そう言って、自分の事を自らサッちゃんと名乗ったその少女は自らの頭をナデナデとさすった。  そんな場違いな彼女の態度に、パートナーはさらに強い口調で叱り付ける。   「任務中なんだから真面目にしなさいッ!」 「ハ、ハイです!ゴメンなさい、ユウリちゃん!」  サッちゃんは急にピシッと背筋を伸ばし、大袈裟に態度を改めた。  彼女達は声を小さく潜めていた。その為か、幸い他の隊員達は特に気にもせずに作業を継続しているようであった。  そんな二人のやり取りは、黒のゴーグルを装着したスク水隊員が初めて見せた人間らしさだった。しかもサッちゃんと名乗るその少女の言動は、ハルキが受けた第一印象の『無機質』とは全く正反対のものだった。  しかし、それを見ていたハルキの表情は、さらに険しくなった。  なぜなら、彼にとっては、今重要なのは『彼女』の安否なのだ。  普段であれば可愛らしく、愛らしく思えた天然少女のうっかり具合も、今のハルキにとっては神経を逆撫でする要素でしかあり得ない。  いや、もっと言うと、『彼女』に対しトドメに近い一撃を加えておいて、そんな天然っぽいリアクションを取るのは、彼からすればもはやワザとフザけているようにしか思えないのだ。  ハルキは無性に、この間抜けヅラを晒しているサッちゃんという女を殴りたくなった。  怒りに震える彼は、紗羅が人質に取られているという現状を忘れかけていた。 「早く!生死確認して!」  先ほどユウリと呼ばれたーー小さな体躯の割に気丈な様子で、サラサラの長い髪を携えた少女がおっちょこちょいなパートナーを急かす。  ユウリは、その口調やゴーグルで隠れた目元以外の顔付きから、ややキツい印象が感じられてしまうが、それは逆に言えばしっかりした性格の裏付けであり、トゲトゲした雰囲気の隙間からは面倒見の良さが滲み出ていた。 「あ、は、はいです!」  ユウリの指示に、サッちゃんが慌てて『彼女』の手首を掴み上げる。  気持ちが焦り、イライラが募るハルキなどお構いなしに、サッちゃんはマイペースに『彼女』の脈を確かめる。   「う〜ん……なんだかよく分かんないな……」  サッちゃんはおそらくゴーグルの中でまん丸い目をクリクリとあちこちに巡らせているのだろうか。本来幾分かクールな印象を与える黒のゴーグルも、天然キャラの彼女に対しては全く効果を発揮せず、却ってマヌケさとのギャップによる違和感しか感じられない。  そしてもちろん、そんな彼女のすぐそばではハルキが怒り爆発寸前にまで追い込まれていた。  そしてしばらく彼女は脈を測りながら、ああでもないこうでもないと思案した結果…… 「これ、もう死んでるよ」  たった一言で、そう斬り捨てた。   「じゃ、運ぶわよ」  ユウリがあくまで事務的な様子で次にやるべき作業に取り掛かろうとした。  ハルキはというと、急激に絶望の闇に突き落とされたように、しばしの間我を見失っていた。  勝手で無謀ではあったが、一縷の望みに縋り付き、結果そのクモの糸すらも断ち切られた事で、彼はその絶望の淵の中で出口への蓋が閉じられたのであった。  もちろん、彼女達二人はそんな彼の様子に気づくはずがない。お構いなしに、『彼女』をあの有象無象のゴミの山の一部に加えようとした。  ハルキからすればそれだけでも耐え難い行為である。しかしーー  あろうことか、このサッちゃんという空気の読めない女は、決定的な一言を言い放ったのである。 「良かった〜。私のせいで死んじゃったかと思ったけど……もともと死んでたみたいだね」      その瞬間ーー  ーーハルキの中で、何かが弾けた…… 「フブゥ……オゥエッッ!!」  ガレージ内で、突如響いた醜い鳴き声。  気付けば、サッちゃんの鳩尾に、ハルキの足の爪先がめり込んでいた。 「ゲブゥッ!」  サッちゃんは口から体液を吐き出しながら、小さく、しかし深く凹んだ鳩尾を中心にその体を空中に浮遊させた。 「なっ!?」 「キサマッ!!」  辺りのスク水隊員達に緊張が走る。 「オェッ……グゲェ……!!」  身構えるスク水戦闘員達にも構わず、たった一人ただ体を暴れさせながら悶えるサッちゃん。  彼女は狂ったようにゴロゴロと跳ね回りながら、周囲に血とヨダレを撒き散らしていた。彼女のそんな姿は、ついさっきまでほんわかした雰囲気を醸し出していた天然娘ととても同一人物とは思えないものだった。 「……」  ハルキは次の獲物ーーつまりはユウリを見据え、ただ無言で足を踏み出そうとする。 「ひッ……!?」  元来気の強い性格だった彼女も、この時ばかりは恐怖のあまりわずかに口を歪めた。  今しがた強烈な一撃を見舞われ、自分の隣で狂乱し悶絶している同僚。しかもその同僚を今のような醜悪な姿に変えた人物が、今目の前で眼を据わらせ、自分を標的に動き出そうとしているのである。  構え上げるユウリの拳は、力無く震えていた。  その時だった。 「動くな!この女がどうなってもいいのか!」 「……!」  またも飛び出した声に、ハルキはハッと我に返った。 「最後の警告よ!次は無いわ!」  見ると、先ほどのボスらしき女が、厳しい表情でハルキを睨んでいた。  その隣では相変わらず、紗羅が別のスク水戦闘員に拘束されており、彼女の首にはダガーが突きつけられている。 「ハル!落ち着いて!」  彼女の存在を思い出したハルキは、自分のしてしまった事に思わず歯噛みした。もう少しのところで彼女を傷付けてしまうところだったのだ。 「グッ……」  また大人しくなったハルキのその様子に、周囲を取り囲む緊張感がわずかに解け始める。 「う……うぇ……ぅぅ……」  静けさを取り戻したガレージ内に響くのは、体をビクビクと痙攣させ、最期の生命を絞り出そうとするサッちゃんの呻き声だった。  彼女はだらしなく地に頬っぺたを擦り付け、口からは血とヨダレの混じった体液を垂らし続けていた。さらには股間からも小水を漏らし続け、彼女のもとには上下二つの小さな池が作られ始めていた。  スク水戦闘員の死骸を撤去する係だった少女が一人、今この瞬間自らもその死骸達の一部に変わろうとしていた。 「各自、回収作業を再開しなさい!」  脅威なしと判断したのか、ボスらしき彼女が全員に再度命令を下す。その声を合図に、スク水戦闘員達がまた、何事も無かったかのように回収作業を再開した。 「……」  他の隊員達が作業に従事するなか、ユウリはしばしの間茫然とかつて同僚だった『モノ』を眺めていた。  鳩尾を抱え込んだまま痛々しくうずくまる彼女の身体はもうピクリとも動かない。  気がつけば別のスク水隊員が今までの『仕事』通り、彼女の生死確認を行なっていた。  その少女はユウリの方へ顔を向けると、ゆっくりと首を左右に振った。 「ユウリ……運ぼう?」  彼女はあくまで冷静に、無感情を努め、ユウリを促したつもりだった。しかしいくら無表情を作ったところで、彼女の声音には同情の色が漏れ出ていた。   「……」  ユウリは無言でサッちゃんの亡骸に駆け寄っていく。そして同じように二人掛かりで遺体を抱え上げ、運び始めた。  ハルキはそんな彼女達をボーッと眺める。  元同僚を運ぶユウリ達がハルキの前を通り過ぎる際、彼の目にはやけにユウリの表情が焼き付いた。  黒の水中メガネをつけた彼女の表情は読み取りにくい。しかし無心を装っているとはいえ、何らかの感情が働いていることは確かなのだ。  ハルキの前を通り過ぎる時のユウリの顔は強張っていた。なぜなら今しがた同僚を殺害した男の目の前を通り過ぎようとしているわけである。  憎しみゆえの強張った表情なのか、恐怖ゆえの強張った表情なのか……  あとで彼女に聞いてみないことには分かるはずもない事だった。  ただそんな彼女達の様子を見てハルキがふと思った事はーー ーーなんだか仲間の死体を運ぶアリに似ているな、という事だった。  それはスク水隊員達の格好が『黒』を基調としているからばかりでは無い。  幼少の頃、虫の死骸を運んでいるアリを殺した時に、他のアリが、殺されたアリを運び始めた事を思い出したのだ。  彼はこの時、なぜかそんな事を思い出していた。 「回収作業、完了しました!」  スク水隊員の一人が彼女達のボスに向け、敬礼を行う。 「ご苦労、では余計な目撃者が出る前にここを去るわよ」 「了解!」    スク水戦闘員達がテキパキとした動きで、さっさとトラックに乗り込んでいく。トラックの荷台に積載されているのは、ドサドサと積み上げられた戦死したスク水戦闘員達。そこには当然『彼女』もサッちゃんもいるはずである。だが、今となってはもう誰が誰だか見分けが付かなくなってしまっていた。  そんな異様な空気を放つ『荷物』を隠す為か、荷台にはシートが掛けられる。 「じゃ、約束通りこの女は返してあげるわ」  彼女達のボスが、隣のスク水隊員にアゴで合図を送る。 「きゃっ!?」  羽交い締めされていた紗羅がドンっと突き飛ばされて、倒れ伏した。 「紗羅!」 「ハルッ!」  しかし紗羅はすぐに身を起こし、駆け寄ってきたハルキにしがみつく。  いつの間にかボスも含め、スク水隊員達は皆トラックに乗り込んでいた。 「おい、待て!」  ハルキは慌ててトラックに向け声を上げる。  助手席の窓からスク水戦闘員のボスが無言で一瞥をくれた。 「オメェは一体何者だ!?お前の……名を言いやがれ!!」  紗羅を抱きかかえながら、ハルキが吠えるように叫んだ。  すると彼女は面白そうにクスリと唇をつり上げた。そして言った。 「名前、ねぇ……。『ナナ』、とでも言っておこうかしら?」  その一言だけを残すと、けたたましいエンジン音とともに、トラックは彼女達を連れ去っていった。  そして、後には誰も居なくなった。 「ナナ……か。やっぱり……テメェが……」  ハルキは砕けんばかりの力で歯を噛みしめる。  ガレージの中にはハルキと紗羅の二人だけが残されていた。 それはまるで、最初から二人しか存在しなかったかのようだった。 

Comments

自己中な主人公が天然なサッちゃんに八つ当たりしたように見えたのであれば、僕としては狙い通りです。 僕的には憎たらしい女ザコが殺されるより、根は良い女ザコが殺される方が好きなんです。 本当に病気でごめんなさい。 主人公は全く学習してないんです。 もしかしたら今しがた殺害したサッちゃんが第二の『彼女』となっていたかもしれないのに…… 実際たまたま生き残ったもう片方のユウリちゃんは後々主人公と再会して……あ、ちょっとすみません、宅急便が来たみたいです

ぶんちゃん

計算だけで言えばナナは二十歳ちょっとです。 しかし目の前のナナは何歳なのでしょうか……? ごめんなさい。 これに関しては一応はこの先の展開も考えてはいるのですが、正直まだ頭の中で纏まりきってはいません(^^;;

ぶんちゃん

それとナナなんですが・・年齢はいくつでしょうか? 30近くでスク水はちょっと厳しいような(笑)

自己中な主人公が天然のサッちゃんに八つ当たり感が半端なくて・・ もうちょっと嫌味たらしいキャラであってほしかった なっと・・(-_-;)運んでる最中に足蹴にして 「弱っちい先輩達」と罵倒してさえくれたら、少しは ハルキ君に感情移入できたのですが・・(笑)

いやいや!無自覚な悪こそ主人公にふさわしいんじゃないですか!笑 彼にとってスク水戦闘員は一部を除いては蟻に見えているのです。 だから正義の名の下に少々の理不尽も白に変える事ができるのです。

ぶんちゃん

紗羅が黒幕だと思ったのですが・・(笑) ハルキ君はちょっと主人公としての適性がないと感じました。いっそのこと、次回は悪党にしてみるとか(-_-;)

為什麼? 那是因為...讓春樹生氣

ぶんちゃん

Why サッちゃん has to die?

噗大郎


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