彼女の両足は互いに支え合う様に、太腿同士を内股にくっ付けーー もう二度と蹴られまいとするためか、はたまたただ痛みを和らげるためか、妙に官能的な黒手袋で痛みにひりつく股間をガッチリと覆い尽くしーー その黒グローブからは、ものすごい勢いで小水が漏れ噴いている…… 先ほどまでの彼女の毅然とした表情からは、そんなに大量の尿意を我慢していた様にはとても思えない。 こんなに大量の尿を溜め込んでた事が知られて恥ずかしいのか、はたまたただ痛みのあまりか、彼女の顔は真っ赤で、ポニーテールのうなじからも紅く蒸気が噴き出している様に見えた。 声にならない声を上げ続けーー ビクッーービクッーーと身体を小刻みに震わせてーー 美少女とは思えないほどのそんな醜態を晒しているにもかかわらず、それでもなお、倒れないのはなぜだろうか…… 彼女は悶絶しながら脂汗と涙でグシャグシャにした顔を必死でハルキに突き出しながらも、なぜかいまだに絶妙なバランスを保ちながら立ち続けている。 ……おそらくは、それが彼女の責任感なのだろう。 こんな致命傷を負いながらも、ここから復活してハルキに一矢報いる事などさすがに不可能だろう。 しかし、ギリギリながらも、立っているだけなら出来る。 本当はすぐにでも倒れて楽になってしまいたいのだろうが、彼女の責任感がそれを許さない。 たとえ無意味でも、頑張って立ち続けるのだ。 「……」 しかし、ハルキがそんな彼女に驚いたのも一瞬だけ…… 一瞬見開いた目をすぐにまた細めるとーー 一生懸命に倒れまいと内股で喘ぐ彼女を、ゴミを見る様な目で見下ろした…… シュッーー と、タオルをムチのようにして弾くときのような感覚で、軽く繰り出したハルキのパンチ。 鬱陶しいハエを叩く時のように、彼にとっては無慈悲な一撃もーー 彼女にとっては慈悲の一撃だったかもしれない。 『倒れたいけど倒れられない』という自らで作り出した呪縛。 あともう指先一つで簡単に切れるような、そんなギリギリ引っ掛かっているだけの鎖が、ハルキの軽いパンチによって断ち切られたのだ。 潤んだ瞳でハルキを見上げていた彼女の顔をーー パチン と殴ったというよりかは、弾いた途端ーー 「ぷぁッ!」 ビクッ と、彼女はオーバーリアクションとも言えるくらいに身体を跳ね上げ、両手をバンザイさせ、そのまま大袈裟に土下座するように前に倒れ伏した。 「クッ……」 もはやお馴染みの、サヤの呻き声が聞こえる。 ハルキとの間を隔てるものが何も無くなってしまったその事実に、今まで涼しげな表情を保っていた彼女の顔が初めて崩れた。 「……」 そんな彼女を前にしても、ハルキは何も言わず、ただ一歩一歩足を進める。 ジワリ ジワリ と迫りくる恐怖に、サヤは逃げる事も、攻撃を仕掛ける事もできない。 そんなーー ただたじろいでいるのみのサヤ。 ハルキはそんな彼女の、白紐に縁取られたスク水の胸部分に手を掛けーー まるで引き剥がすように引っ張った…… 「きゃっ!」 伸縮性の高いスク水の生地がぐんっと伸びきったところで、遅れるようにして彼女の身体も前に突き出る。 乱暴に引っ張り寄せられたサヤの身体は勢い止まらずーー 「アンッ!」 ハルキの後ろの壁に、背中から叩きつけられた…… そこは奇しくも、さっきまでハルキ自身が押さえ付けられていた壁。 先ほどまでのクールで高飛車な雰囲気はどこへやらーー 年相応の可愛らしい悲鳴を思わず漏らすと同時に、サヤはそのまま背中を壁に預けたまま、倒れるでもなく座り込むでもなく、まるで貼り付けられたかのようにその体制を保つと…… 背中一面に受けた衝撃が身体中に響いたのかーー 「ケホッケホッ….」 と可愛く咳き込みながら、ただ苦痛に身体を捩らせた。 「……」 追い詰めるように、また一歩一歩と歩を進めるハルキ。 「うっ…… クッ…… ウンッ……!」 身体全身に駆け抜けた衝撃にいまだ悶えているサヤは、妙に色っぽい苦悶の表情をあちこちにただ撒き散らすのみで、まだ身動きを取る事ができない。 なんとか痛みを紛らわせたいのか、身体を捻り込み、内股にした太腿を擦り合わせるその姿は、逆に見た者の嗜虐心をくすぐるものだった。 やがて…… 「……ッ!?」 ゆっくりと距離を縮めるハルキに気付いたサヤ。 彼女の顔がーー 恐怖に満ちた…… メラッ その歪めた彼女の美しい顔を見たハルキの心に、さっきの怒りとはまた別の、黒い感情が湧き上がる。 さっきまで安全な所から、部下達が傷ついている中で散々高みの見物を決め込んできたサヤ。 そんな彼女が、今はこうして壁際に追い詰められ、涼しげだった表情も恐怖に引きつらせ、怯えた目でこちらをただ見つめている。 ーー今こそ思い知らせてやる。 ーー楽には殺さない。 ーー徹底的に痛ぶってやる。 そんなハルキの思いが伝わったのか、サヤはただ逃げ場のない壁に背中を押しつけ、「やめて下さい」と懇願するように、無言でフルフルと顔を横に振っている。 擦り合わせた太腿にチョロチョロと小さな滝が流れ落ちるのが見えた。 ハルキはそんな彼女の姿を見届けると…… そんな哀れな子羊にーー 情け無用とばかりにーー 「フンッ!!」 強烈な後ろ回し蹴りを打ち込んだ… ドンッーー 「フゥッ!?」 鈍い音を立てる、彼女の細くくびれた腹。 それと同時に行き場をなくした体内の空気が、まるで風船のように口から噴出した。 「〜〜ッ!!」 目に涙を浮かべて懇願するように歪みきった顔を見せつけるサヤ。 そんな強烈な蹴りを喰らってもまだ、彼女は倒れない…… いやーー 倒れられないのだろう。 ピッタリとくっついた背中と壁の摩擦は彼女にその磔から逃れることを許さず、ただ彼女はこれから続くであろうハルキの攻撃も、全てその無防備な細身な身体で受け止め続けるしか無かったのだ。 「ウラウラウラウラウラァァァッ!!!」 嵐のような、ハルキの乱撃。 今しがた貫かれたサヤの腹はもはや防御すらされておらず、まるでサンドバッグのように彼の拳の前に晒され続けた。 「……ッ!……ッ! ……ッ!……ッ!」 先ほどのポニーテールのスク水戦闘員と同じようなリアクションをするサヤ。 腹、胸、場所問わずに拳を浴び続けた彼女は、声にならない声を上げ、さらに身体を小刻みにビクンッビクンッと震わせている。 そんな彼女の様子を見て、ハルキは一度手を止め、一息付くとーー 「まだまだまだまだァァァ!!!」 またしてもパンチの雨あられを見舞った。 さらに今度はサヤの美しい顔面に、である。 「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」 凄まじい勢いで、生々しい音が鳴り響き続けた。 先程は腹部、胸部の順で殴り続けていたが、あまりの衝撃にサヤの内股の足はだんだんと折れ曲がり、その姿勢は中腰くらいの高さまで低くなっていた。 そのため、今度はちょうどいい高さにサヤの顔面が位置しているのである。 それは、ハルキにとって一番殴りやすい高さだった。 あまりに激しい回転数で繰り出されるパンチは、まるでハルキの手が数十本に増えたように見え、その残像がサヤの顔を埋め尽くしたせいで、彼女の顔が見えなくなった。 ただ、それでも分かる事はーー 彼女の黒く美しい長髪は浮き続け、彼女の頭は振動し、しかし壁に埋め込まれるように何度も何度も叩きつけられるため、一点集中された彼女の顔面はその『ポイント』から微動だにも動いていないのである。 永遠に続くかと思われたその連撃の最中ーー 「……ッと。」 思い出したように、ふと手を止めたハルキ。 見るとあれだけ端麗だったサヤの顔面はボコボコになっており、汗一つかいていなかったその顔は涙と鼻血でグショグショになっている。 「……ぅ……ぅぅ…… も、もう……やめて……死ぬ……」 まるで魚のようにパクパク開く口からは、途切れ途切れとなった虫の息と一緒に、わずかながら命乞いの言葉が聞こえたような気がした。 「ああ。死ねよ。」 サヤのそんな一生の願いを軽くあしらうかのように、ハルキは今まで以上に、ただ右拳に力を込めた。 彼は、彼女があと一発で息絶えるそのタイミングを見計って、渾身の一撃を放つつもりだったのである。 「出来る限りのオーバーキルで殺してやりたかったんだ……」 そう言って、深く腰を落とし、ハルキは拳を構えた。 「俺の渾身の一撃を…… ……食らいやがれッ!」 彼の腰がギュルリと回転ーー と、同時 閃光ーー 風速を超えたその拳は…… 空気を強引に貫き、風圧よりも速くーー サヤの顔面に…… 「そこまでよッ!!」 叩き込まれたのは風圧のみだった。 「……?」 突如背後から掛かったその声にーー 彼は寸での所で拳を止めたのである……