SakeTami
ぶんちゃん
ぶんちゃん

fanbox


スク水戦闘員を殲滅せよ 3話

「…結局お前らって付き合ってないの?」 「あぁッ?」 ボールをバスンバスンとつく音は幾重にも重なり、体育館中に響いている。 確かにうるさい。 だが別に聞こえなかった訳ではなかった。 「いや、だからよハル。お前毎日如月さんと一緒に登校してんじゃん。これで付き合ってねえっておかしくね?」 「…お前の発想がおかしい。なんで一緒に登校したら付き合うことになんだよ。」 「ったりめーじゃねーか!あの如月さんと一緒に登校できてんだぞ!」 …ハルキは頭にタオルをかけた。 「てかオメー、登校で思い出したけどよぉ。 あんな事して大丈夫なんか?」 「何が?」 「如月さんのラブレター音読事件だよ!みんなお前の命狙ってるぜ〜。」 「マジかよーやべー」 ハルキは棒読みで答えた。 ーーーまあ、命の危険なんてしょっちゅうだしな。 これくらいなんて事はないーーー 普段の仕事柄、ハルキからすれば同級生に絡まれるなんてただのお遊びに等しい。 「てかあの時よ。お前何でラブレターの差出人なんて分かったんだよ。」 「手紙に学年とクラスと名前が書いてあったから。」 「いや、そーじゃなくて! お前何というかその…名前を見ただけで、そいつの顔を知ってる風な感じだったじゃねーか。 オレまだ入学してから自分のクラスメートの顔しか覚えられてねーぞ?」 「それはゾノの記憶力の問題じゃね?」 「オメー言わせておけば…!」 ぐぬぬ、と握り拳を作る花園の隣でうんざりとした様子のハルキ。 正直これについては説明するわけにはいかなかった。 確かにハルキ自身もたった2週間程度で全校生徒の顔と名前を覚えられようはずもない。 しかし、以前黒崎からある依頼を受けていたのだ。 その内容とは、全校生徒の身辺調査。 彼がそれを聞いたときは、馬鹿馬鹿しすぎて思わず数秒間固まってしまったが、報酬を弾むからやってくれとの事らしい。 その結果、まずは顔と名前を覚えることから始めていったのだ。 ーーーおかげで寝不足で紗羅のやつに叩き起こされる毎日だが… しかしいくら報酬を弾むとは言え、黒崎に対しての不満は沢山ある。 どうして自分なんだと。 こういう暗記や、細かい調べ事は紗羅にさせた方が上手くやりそうなものだが… 紗羅の方がこういうのはよっぽど得意だろう。 しかしたとえそんなことを言ったとしても、「何でもかんでも紗羅に頼るな」と一蹴されてしまうだろう。 僅かな眠気を感じつつ、体育館の壁にもたれ、だらしなく座るハルキはクラスメート達が交差するように走っていく風景を、ただボーッと見ていた。 バスケットボールを投げ、キャッチし、つき、走る男子達。 その向こうには同じように走り回る女子達。 しかし、男子達の動きに比べて、迫力、なんてものは全くもって無く、まるでスローモーションのようだった。 無論、そんなことは当たり前の話だ。 仕方がないだろう。 だが。 そんな中で明らかに桁違いの動きをする人影が現れた。 その人影はまるでバスケ部顔負けの、思わず見惚れてしまうようなドリブルで相手チームの女子達をたちどころに抜き去ってしまう。 またも、一人の女子がその人影の前に立ち塞がろうとするも、人影は急スピードでその女子の前に肉薄したかと思えば、手前でピタッと止まった。 人間は急スピードで疾走してるところを急に止まれるものなのだろうか。 相手は思わず出し抜かれ、目をパチクリとさせた。 と思ったのも束の間ーーー そのドリブラーは、そのディフェンダーの横をクルッと一回転。まるでペロッと舐めるようにスピンしながらすり抜けた。 あまりのその迫力に、抜かれた女子は「キャー」と声を上げるだけで何もできない。 最後はゴール前まで近づくことを待たず、まだまだ距離がある段階でシュートの態勢に入った。 そう。スリーポイントシュートだ。 まるでオーバーアクションのように、 不必要と言えるほど身体を大きく動かして、腰を低く、低く沈めた。 そしてストンッとーーー 不必要に音も立てずに高く、高く跳躍した。 ボールを持った両手を高く掲げ。 一本の線になったその肢体は。 まるで彼女の性格を表すかのように、真っ直ぐで、強く、美しかった。 手から軽く放たれたボールは滑らかな放物線を描き、まるで吸い込まれるようにゴールネットに吸い込まれていった。 「キャーッ!如月さーん!」 「如月さんすごーい!カッコいー!!」 女子達の黄色い声援がどっと沸き起こると、紗羅はそれに対して、既に次のプレイに戻るために走りながらも、グッと親指を立てて笑って見せた。 それは普段見せる優しい笑顔では無く、勝気でカッコいい笑顔。 「ああ…やっぱたまんねぇなあ…如月さん。 身体も何かちょーエロいし…。」 ハルキは今にもよだれを垂らしそうな友人を軽蔑した目で見つつ、しかし確かに共感する所はあるかと自分でも思えた。 汗で濡れる綺麗な黒髪。 そのポニーテールの下には、 うっすら蒸気を発する火照ったうなじ。 俗に言うダイナマイトバディというものでは決してないが、細い首筋と細長い手足、抱き締めると壊れてしまいそうな肩幅。 大きくはないが体操服のTシャツ越しにもうっすら膨らむ形の良い胸。 大きくはないがプクッと小ぶりに膨らんでいるお尻。 丈の短い黒光りするスパッツからスラーっと伸びる白い脚は黒のニーソに包まれており、見事なコントラストを演出している。 そんな、思わず守ってやりたくなるようなそんな華奢な身体つき。 しかし、彼女は華奢であるが故の非力さを補うためか、スポーツをするときは打って変わったかのような大胆なパフォーマンスを見せる。 どんなに力に差があっても彼女の手にかかれば、技とスピードと力の使い方で全て覆してしまうのだ。 ハルキはそんな彼女をボーッと眺めていると、やはり自分も少なからず劣情を抱いてしまっていることを自覚した。 隣でスケベ顔をしている奴のことを笑えない。 というよりこれは劣情というよりも… ほんのチクリ胸を刺す… 「ハルはさぁ、如月さんのこと何とも思ってねーの?」 「………。別に。」 多分これは嘘だ。 「何だよ今の間は。ぜってぇ嘘じゃねえか。」 すぐにバレた。 「…嘘じゃねえよ。」 いや、ハルキ自身も分からない。 すると遠くの方でこの話の張本人、紗羅とふと目があった… 彼女はフッとすぐに目を逸らすも、何故かその顔は嬉しそうだ。 その様子を見てか見ずしてか、隣に座る友人の花園が真面目な声音で、 「てかさぁ、正直に思ってること言うけど… 如月さんってお前のこと好きなんじゃね?」 ーーー知っている。 ハルキは心の中で返事をした。 実際に告白を受けた訳じゃない。でも流石に彼女の態度を見ていたら分かる。 だが、ハルキは自分の気持ちが分からなかった。 いや、本当はそれも既に知っているのかもしれない。 でも… 「………んな訳ねぇだろッ。とにかく俺とあいつはそんなんじゃねぇんだ!」 ハルキは半ばヤケクソでこの話を終わらせようとした。 「ふーん……。」 ムキになってる時点で嘘はバレてるだろう。 でもこの空気の読めない友人は何故かそれ以上は聞いてはこなかった。 ーーーー 放課後… 誰もいなくなった教室。 静かな教室。 夕陽の差し込む教室。 そんな赤茶色に染まった心落ち着く空間の中。 一人の少年が机にポツンと、 窓の向こうの綺麗な夕陽を眺め、黄昏ていた。 しかし、その少年の顔には「黄昏」などと言う言葉など微塵も感じさせない、苛立ちと憂鬱の色を浮かべていた。 「オレは一体こんなとこで何してんだよ…」 机の上には数学のプリント。 黒板には乱雑な字で、「終わるまで帰さん!」と書き置きされていた。 …今朝遅刻した数学の補習である。 「ったく。数学のセンコー厳しすぎんだろ…。ぜってぇオレのこと目ぇ付けてやがるぜ。」 見た目からして不真面目なハルキのことである。 この補習には少なからず私怨というものもあるであろう。 彼は貧乏ゆすりもそのままに、小さく舌打ちをした。 彼がもうこのまま帰ってやろうかと思い始めたその時。 「ほーら…。やっぱり真面目にやってない。」 ガラガラとドアが開くと同時に投げ掛けられた言葉に、彼はさらにため息が出た。 振り返らずとも分かる。 彼の前までやってきたのは、いつものように腰に手を当て、呆れた顔をしている紗羅だった。 「…何でまだ帰ってねーんだよ」 ハルキは紗羅の事など一瞥もせず、窓の外を眺めたままぶっきらぼうに言い放った。 「どうせハルの事だし、こんな事だろうなと思ったよ。」 彼女は構わず前の席の椅子に腰掛けた。 彼女は机の上のプリントをまじまじとみると… 「ねえ、教えてあげようか?」 「…帰れよ。」 ハルキの顔を見ながらニマッと微笑んだ。 ハルキは窓の外を向きながらも、横目でチラッと紗羅を見るも、 夕陽に照らされた紗羅の笑顔は綺麗、どころか神々しくすらあり、 すぐに目を逸らしてしまった。 「ねえ。」 「………。」 彼女が問いかける。 「どうして、この仕事を続けるの?」 「じゃあお前は何でこんな仕事をやってんだよ。」 ハルキは質問に質問で返した。 「そりゃああんたが心配だからよ。 だってそうじゃない。トレジャーハンターなんて仕事、常に危険が付き纏うし、いくら一獲千金が狙える仕事だからって命を落とせば意味がないじゃない。」 ーーーじゃあお前はオレが心配だからって理由だけでそんな命の危険もあるような仕事をやってんのかよ…。 ハルキは紗羅のそんな言葉に心の中でツッコミを入れた。 「別にいいだろ…。」 ハルキはぶっきらぼうに紗羅をあしらおうとする。 「………。」 紗羅はしばらく黙り込んだ後、何かを決心したかのように再び口を開いた。 「ハル…。今朝のことだけど…。」 「………。」 紗羅は目線を下に落とし、ポツポツと言葉を紡ぐ。 「あれって…。あたしのためにやってくれた?」 紗羅の顔が赤く染まっているのは夕陽に照らされてか。 「…いや、別に。何でお前のためにあんなことすんだよ。」 ハルキは尚窓の外を向きながら突き放すようにそう言い放つ。 でもこれはーーー 本当だ。 「前から一度よぅ。学校一のマドンナに送られるラブレターを読んでみたかったんだ。 どんな寒いこと書いてあんだろうなーってな。」 ハルキは性悪な笑みを浮かべ、ヘラヘラと言い放った。 「でもそれってーーー 嘘でしょ?」 「……ッ!」 ハルキの息が詰まる。 何でこいつはオレの心を… 「あの時、嫉妬してくれた?」 「……は?何言って…何でオレが嫉妬なんて…」 「そうであって欲しいな…。」 そう言って彼女は立ち上がり、窓の夕陽を眺めた。 そんな彼女の黄色に輝く横顔に。 「は、ははッ…。お前何言って…。」 ハルキは自らの心臓がバクバクと高まるのを感じていると、彼女はまたハルキに向き直った。 彼女は垂れた横髪をかき上げ、耳に掛けた。 その仕草は色っぽくもあるが、それ以上に何故か切なさを感じさせ… 「あたし……… ハルの事、好きだよ。」 後ろから射す夕陽の逆光のせいで、 彼女の表情は見えなかった。


More Creators