デブった男子高校生とスラっとした幼馴染の逆転劇 本編&後日談
Added 2022-11-07 14:43:14 +0000 UTC高校に入って初めてのゴールデンウィークを過ごし、俺は祝日を名残惜しく思いながら登校した。 「恵人(けいと)、また太ったんじゃない?」 「うるさいな……」 そして目の前にいるのは俺の幼馴染、力伊亜優(ちからいあゆ)だ。 小中高と全部一緒になり、小学校は3年間、中学は1年間クラスが一緒だった。 そして高校一年生の現在もクラスが同じになっている。 家も近く、小さい頃から知っているから女子の中では話しやすい方だ。 性格も大人しく、休み時間は文庫本を読んでるような感じで目立つタイプではないが悪い奴ではない。 でも、一つだけ難点があった。 それは今みたいに俺の体型を弄ってくる事。 亜優は昔から特に太ったことが無く、しかも割とスタイルは良いみたいだ。 当然相手は女子だから、いくら幼馴染でも詳しくは分からない。 それでも薄着の時を見る限りではウエストは括れてるみたいだ。平均より細いのかは知らないが。 その割には制服越しでも胸が大き目なのが分かるほどで、ヒップも意外とある。 休みの日は家でゆっくり歴史小説とかを読むのが好きなインドア派で、本人自体はスタイルとかはそこまで気にしてないようだが…… 一方の俺は小学校の頃はそこまで太ってなかったのに、中学、高校と進むにつれて年々デカくなってしまっている。 身長も伸びてはいるが横の方がずっと成長率が高い。 腹はみっともなく出っ張ってるし、二重顎を嗤(わら)われることも多々ある。 元々運動は苦手だったが肥大化したせいで走るのはいつもビリだ。 と、俺の見た目がこんな調子だから、亜優は「おデブさんだね」とかよくからかってくる。 普段はそんなキャラじゃないんだがな……でも標準体型だった昔を知ってる分余計面白おかしいんだろう。 亜優の方は太ってないし、こう言われるのも仕方のない事ではあるが。 それでも俺だって好きで太った訳じゃない。 「俺だってこんな腹になりたくなかったよ」 そう言いながら腹肉を掴んでシェイクする。 ちぎってどこかに捨てれたらいいんだが、現実にはそんな事などできる訳が無い。 カッターシャツ越しでも肉厚の腹が分かるのがカッコ悪いよな…… 「じゃあ……ダイエットしたらいいんじゃない?」 「ダイエット?なんでそんなこと……」 「今何か言いかけた?」 続けて「女子じゃないんだぞ」と言おうとしたが、やめた。 確かにダイエットは体型が気になりやすい女子がすることが多い。 しかし俺も紛れもなく肥満なのだからダイエットすべきじゃないのか? 男がダイエットをして何が悪い。痩せろと言われている中年の男は多いじゃないか。 俺のお父さんも健康診断で腹囲が引っかかてたな……いやそんな事今はどうでもいい。 この贅肉まみれの身体にうんざりしていたのも事実だ。 亜優の言うように減量して、情けない見た目を少しでも改善した方が良いのかもしれない。 それだけじゃない、この幼馴染を見返してやりたいという思いが心の中でメラメラと燃え出しているのもある。 高校に入ってから特に体型の事を指摘するようになったからな、亜優は。 俺だって自分を律して体重を落とせる、という所を是非とも見せつけてやりたい。 「考え込んでどうしたの?」 「……いや、亜優の言う通りダイエットするのも良いな。今日から減量に取り組むぞ」 「え~!?ダイエット!?あはは、恵人が!?本当にできるの?」 「何笑ってんだよ、俺は本気だから」 予想外の返答に亜優が笑いをこらえるのに必死だ。 だがそんな風に小馬鹿に出来るのも今の内だと思っておけ。 俺はやり遂げるつもりだ。そんなに軟(やわ)な男じゃない。 「すぐ嫌になってやめちゃうんじゃない?」 「そんな訳あるか、一度実行すると決めたらやり遂げるんだ」 「ふーん、じゃあ頑張ってね。何か手伝えることある?」 「手伝えることなんて無……」 ちょっと待てよ。いい事を思いついた。 といっても亜優がOKするとは到底思えないが。 「手伝ってほしいことがある」 「何?ダイエットの本探すとか?」 「違う」 「それじゃ、いったい何?」 亜優が困った顔をしているが、今は伏せておこう。 「今日の夕方分かる」 俺は家に帰った後、部屋にあるスナック菓子を段ボール箱に詰め込んでいた。 チーズ入りのポテチやらビスケットやら色々あり、太りそうな物ばかりだ。 しかしこれからはダイエットするから全部不要になる。 だから、これをまとめて亜優に押し付けてやろう。 まあ受け取るとは思えないが、ダイエットを手伝うと言ったんだからな。 無理と言われたらそのままガムテープで留めて部屋の片隅にでも置いとけばいい。 よし、これだけ入れたらいいか。 部屋にあった食べ物の内、半分ぐらいは詰め込んだ。 これを持って行ってやろう。 いきなりピンポンを押すのも悪いから電話でもするか。 『もしもし、恵人?』 「亜優、今から行くから玄関で待っててほしい」 『え?……分かった』 「ごめん」 俺は段ボール箱を担いで亜優の家まで向かった。 「うわっ!?これ何?」 「部屋にあった菓子類だよ。もう要らないから亜優に渡す」 「ちょっと待って!?」 流石の展開に亜優も驚いてるようだ。 「言ってただろ?何か手伝えることあるかって」 「それはそうだけど……」 急に言われても無理だろうし、第一そんなスナック菓子とか食べ無さそうだからな。 無理だと言ってくる方が自然か。 「無理だったら別に……」 「いいよ」 どうせ嫌がるだろうと思って「突き返してもいいぞ」と言おうとしたんだが…… まさかの返事だった。 「食べとくから。私もちょっと小腹が空いちゃうこともあるし」 「おいおい本気で言ってるのか?これ食べたら太るぞ?」 亜優が本当にスナック菓子を食べるのか?想像が付かないが。 「大丈夫だよ、私は自己管理とかできる方だと思うし。 恵人みたいに太ることなんてないから」 「またそんなこと……」 この態度に文句を言いたくなるが、お菓子を押し付けられるのは好都合だ。 ここは堪えて、さっさと段ボール箱を引き渡そう。 箱を渡して俺は亜優の家を去る。 「それじゃ、ダイエット頑張ってね」 「おう、絶対痩せてやるからな」 今に見てろよ。標準体型まで絞ってやるからな。 --- 亜優にお菓子を押し付けたし、いよいよダイエット開始だ。 しかしまずは計画を練ることが肝心だろう。 という訳で俺は最初に、減量する計画をノートに書いている。 開始前の身長は175cm、体重が84kgだ。BMIは27.4ぐらいか。 標準体型は25までだから……BMIの式を方程式と見なして、その時の体重をxとすれば計算できるか。 計算すると、少なくとも76kgまでは痩せる必要があるみたいだな。 それでもまだ重いだろう。どうせだからBMIが22になるまで痩せた方が良い。 そうすると、67kgまで痩せる必要があるのか。 17kgの減量は中々ハードルが高いな。どうやれば達成できるだろう。 まずは菓子類を買うのは厳禁、ジュースもやめて水かお茶だけにする。 他にも……そうだな、早く起きて走ってくるか。 土日は最低でも4kmはランニングしよう。最初はキツいだろうが我慢するしかない。 まだ何かあるか?そうだ、家で腹筋でもしようか。 後、晩ご飯の量も減らしてほしいとお母さんに言わなくちゃな。 こんなもんか。計画倒れにならない様に気を付けないと。 じゃあ早速走ってくるか。 --- ダイエットを始めて早2カ月。 7月に入ってかなり暑いが、ここでバテているようでは8月を乗り切れない。 そんな中だが、俺は運動を継続している。 最初はキツかった土日のランニングも慣れてきて、最近は5kmまで延長するほどだ。 腹筋も少しずつ出来るようになりつつある。 スナック菓子が無いのは最初は思いの他厳しかった。 宿題とか勉強をする時についつい口にしていたのだが、いざ手元に無いとなると違和感が凄い。 昼も晩も控えめにしてるせいで余計に腹は減るし、ポテチが食べたくて仕方がないことも。 それでも俺は周りを、特に亜優を見返してやるという思いで我慢を続け、1カ月位経った頃には腹の虫も大人しくなった。 ただ、一昨日スーパーでポテチの特売をしていた時は結構危なかったな。 昼を食べて大分経ってたから腹も減ってたし、手が伸びそうになった。 しかしこれでは今までの努力が水の泡だと自分を戒め、涼しい顔をしてスルー。 周りからは分からないかもしれないが、俺も確実に変わっているんだ。 体重も着実に減り続け、昨日測った時は79kgになっていた。 ようやく80kg台では無くなったが、BMIは25.8と依然として肥満の水準だ。 今気を抜くわけにはいかない。 現状はそんな感じだが、トラップもあると言えばある。 というか今まさに目の前だ。 亜優が文庫本片手にポテチを食べている。 それも美味しそうに食べていて……! 11時も回り、少しずつ空腹感も増す中でこの光景を見るのはキツいな…… 「恵人、これ食べる?」 「要らん」 「偉いね」 「別に」 努力してダイエットしている最中だと言うのに……亜優は時折こうやって罠を仕掛けてくる。 それでも俺はその策には乗らない。 「ダイエット頑張ってる?」 「ああ、順調だよ」 「へ~、あんまり分かんないけど」 「その内はっきりと成果が見えるはずだ」 まだそこまで見た目は変化してないが、俺は一歩一歩前に進んでいるんだ。 亜優にもやがて分かるだろう。 「ダイエットって大変そう……」 「実際そうだけど」 「お疲れさん」 まったく……ダイエットする必要がないからって、ちょっと優越感に浸ってるんじゃないか? そりゃ亜優みたいなほっそりした……あれ? 亜優を改めて見ると……少し印象が違う。 もっと、こう……顔も小顔でほっそりしてたような? こんなふっくらした丸っこい輪郭してたか? まあ気のせいか…… 「私を見つめてどうしたの?」 「いやなんでも無い」 怪訝(けげん)そうな顔をした後、読みかけの小説に目線を移す亜優。 その姿は以前とあまり変わらないようにも感じる。 でも、何だか前と違う気がするんだよな……? ほら、頬杖を付いてる様子を見ても、頬の肉が少しぷにっとしてるし…… --- 酷暑も過ぎ、そろそろ秋と呼べる季節になるだろうか?まだ早いか。 しかし10月に入ってからは朝のランニングも以前ほどは暑く無い。 そういやカレンダーを眺めて気づいたが、今日でダイエットを始めて5カ月が経っていた。 現在の体重は73kgで、最初から11kgも減った計算になる。 BMIも23.8と標準に収まるレベルになり、制服のズボンも随分と余裕が出て来た。 ベルトを固定する位置が変わっていくのも愉快で、足もまだ遅いが最下位常連からは脱出している。 顔も顎の弛みが解消しつつあり、腹筋の効果で腹もかなり引っ込んだ。 こんな感じで俺は肥満体型から標準体型に変化しつつある。 まだ足りないが、以前の自分に比べればかなり痩せていた。 しかし…… 学校からの帰り道。 門から出て一人で歩いていたが、偶然亜優が前を歩いているのが見えた。 そして鞄から何か取り出して食べてるのも…… 亜優の背中は、かつての華奢なものとは一線を画すものだった。 近くで見ると、チョコのクッキーを食べて表情を緩ませている。 「亜優、どんだけ食べるんだよ」 「け、恵人!?」 声を掛けるとかなりビックリされた。 俺が近くにいたことに気づいてなかったらしい。 「教室でも休み時間になったら何か食ってるし……」 「だって……お腹が空いて仕方ないから……」 「でも限度があるだろ」 「そう……だけど」 間食を取りたくなる気持ちは分からなくはないが、それでも1時間毎に何かを口にしているのは多いと思う。 少し聞きたいことがあるから、そこの公園にでも寄ろう。 「ちょっと公園に寄ってもいい?」 「いいけど……」 公園に入り、俺と亜優は立ち止まった。 立っている亜優を近くで見ると、現在の姿がよく分かる。 そろそろ冬服に切り替わる時期だが、亜優はまだブラウスの出で立ちでベストを着ていないから体型も分かりやすい。 小顔だったはずの顔は、ふっくらと丸みを帯びてるし、頬が明確にふくらんでいる。 顎もほぼ二重になり、すっかり丸顔になってしまった。 元々大きかった胸は更に立派なサイズに成長し、制服がかなり窮屈そうだが……目線を下げるとどうだろう。 ウエストにはかつてあまり無かったはずの贅肉がたっぷりと付いていて、制服越しでもへそ周りが出っ張ってるのが分かるほど。 こちらも無論窮屈であり、本人にとっては残念な話だが割と目立っている状態だ。 上半身同様に下半身も贅肉で溢れていて、スカートから伸びる脚は厚みのある脂肪で包まれていて2周りは太くなっている。 後ろや斜めから見ると、ヒップも凄いサイズになっていた。 制服もパツパツで、ブラウスのボタンは飛びそうになっているし、スカートも苦しいようだ。 安全ピンを使って無理に金具を留めているがファスナーも閉まり切ってないし、相当無理して穿いてるのだろう。 こんな感じで、亜優のかつて良かったスタイルは見事に崩れてしまっていた。 それでもウエストがバストやヒップより1サイズは控えめなのがかつての名残を感じさせる。 とはいえかなりぽっちゃりした体型で、そろそろ肥満と言ってもいい領域だ。 顔も身体も春とは別人のようになっている。 「ちょっと、ジロジロ見てどうしたの……」 「ごめん、いや聞きたいことがあるんだ」 幼馴染とはいえ、太った身体を男に見られるのは嫌なのだろう。この辺りにしておくか。 そろそろ本題に入らないとな。 「亜優、どうしてそんなに太ったんだよ」 「……結構ダイレクトに聞いてくるんだね」 俺の一言を聞いて、悲しそうな表情をする。 女子だから体型の事を言われるのは恥ずかしいのだろう。 ……でも前までは俺がデブな事をからかってたよな?まあいいか。 「恵人が持ってきたお菓子あったでしょ……」 「ああ、そんなのあったな」 ダイエット初日にいきなり押し付けたんだったな。 まさか亜優が受け取るとは思わなかったが。 「あれ、貰った後で確認したら思ったより多くてどうしようか悩んで…… 最初、到底食べれないと思って捨てようかなと思ってたんだけど…… でももったいないから食べようと思って……そしたら今まで食べたことないお菓子が多かったから…… 気づけばすっかりハマっちゃって……」 「なるほどな……」 「いつの間にかどんどん箱のお菓子が減って、食べ切ったんだけど…… もうお菓子をいっぱい食べるのが習慣になっちゃったから……スーパーとかでたくさん買うようになって…… お菓子を食べる量が増え続けるし、その内にお菓子を頻繁に口にするのが当たり前になったんだよね……」 「その結果が……」 「この身体……」 亜優はそう言って自分のへそ周りの贅肉を掴んだ。 ブラウスの生地越しでも柔らかそうな皮下脂肪の様子がよく伝わってくる。 「どうしよう……」 亜優が悩んでいる。 しかし、今こそダイエットしたらいいんじゃないのか? 「じゃあ、ダイエットしてみたらどうだ?」 「ダイエット、かぁ……」 だが、亜優は乗り気ではないようだ。 「どうした?」 「いや……私、今まであんまり太ったこと無いからダイエットとかしたこと無いんだよね…… それで方法とか全然知らないし、よく分かんないし……」 まあ、幼馴染だから分かるが……亜優が太ったとか言って悩む姿は今まで見たことが無い。 実際ダイエットする必要が無かったんだろうから、知らなくても当然か。 だったら……まさに今ダイエット中の俺がなにかアドバイスできるかもしれない。男子と女子で差はあるだろうが。 「おいおい……それなら俺が方法を教えてやろうか?」 「……」 「何で黙るんだよ」 多分、今まで太ってるとからかってた相手にダイエットの知識を乞うのは難しいのだろう。 分からなくはない。 「……いい、大丈夫だから。自分でできるよ、ダイエットぐらい」 「それじゃ、ダイエット頑張れよ」 「はい……今日から始めるから」 「分かった。じゃあ帰るか」 俺たちは公園から出て、帰り道に戻った。 --- 10月になってから暑さも和らいで来て嬉しい。 それはそうと、今日で亜優がダイエットを始めると言ってから1週間が経つ。 ちゃんと運動とかしてるんだろうか? 学校の帰りに、俺は母親から頼まれた食材や日用品を買いにスーパーに寄っていた。 そういや今日は菓子類15%オフだったな。昔はそんな日をよく狙ってたな…… 半年ぐらい前まではポテチとかを貪るように食ってたんだが。 最近全然ポテチのコーナーとか行ってないな。 何を売ってるか少し気になるし、ちょっと見てみるか。 俺はそう思ってなじみ深いあの場所に向かった。 ……そこには亜優の姿が。 しかも、目を輝かせて新発売のチェダーチーズ入りポテチ、それも大容量版に手を伸ばしてかごに入れている。 「おーい、何してるんだ……」 「……け、恵人!?」 俺の声に気づき、慌ててかごからポテチの袋を売り場に戻す亜優。 「い、今のは、その……別に買うつもりじゃなかったから……あはは」 「どう見ても買う気マックスだったけど……というか他にもいっぱい入ってるし」 「そ、それは……」 かごの中を見ると、ジュースやらチョコやら色々入っていた。 「ダイエットはどうしたんだ?すぐ嫌になってやめたとか?」 「私に限って、そんなこと……無いから……」 「じゃあ買うの我慢しないと」 「……はい」 しゅんとした亜優は、とぼとぼ歩いて商品を元の場所に返しに行った。 あの調子でダイエットできるんだろうか。 他人事ながら心配になる。 この半年弱で、すっかり立場が逆転してしまったな。 今では向こうの方がその食欲を弄られるほどで、俺はすっかり体型をネタにされることが無くなった。 ただ、亜優が太ったきっかけは俺が食べ物を押し付けたことだからな……悪い気はする。 手伝ってやった方がいいんだろうか。 でも本人が努力しないと解決しないからな…… それこそ……家にある食べ物を箱に入れて引き取るとか? 冗談だが。 --- 11月に入り、寒さを感じる季節になってきた。 それでもランニングにはむしろ好都合に感じる。 体重も72kgと少し減っていて、そろそろ60kg台も見えて来た。 目標としている67kgまであと5kgの所までたどり着き、一定の達成感を感じる。 こんな感じで俺の減量は順調に進んでいるのだが…… 問題は亜優の方だ。 ダイエットを始めると亜優が言ってから1週間経った頃、スーパーでポテチを買っているのを見かけた。 その後も度々似たようなことがあり、全然痩せる気が無いように見える。 学校が終わった後、帰り道を一人で歩いている亜優を見つけて話を切り出した。 「全然ダイエット上手く行ってないみたいだけど……大丈夫か?」 「大丈夫だって……」 力の無い弱弱しい言葉が返って来た。 そりゃどうみてもダイエットできてないからな。 「でも無理だろ、もう1カ月になるのに始めることすらできてない」 「そうだけど……別に気にしないでいいから……」 「ダイエットの方法でも教えようか?」 「だから、いいって言ってるよね……」 食べ物を押し付けた借りもあるから、親切心で言ってるつもりだが…… 亜優は一向に首を縦に振らない。前からずっとそうだ。 流石にこんな態度を取られ続けると、俺も少しイラっと来てしまう。 心の中に、『そうですか、そんなに太りたいならお望み通り太る方法でも教えてあげましょうか』という思いが募って来た。 「じゃあ、ダイエットよりも楽しい事はどう?」 「え……?」 急に話の流れが変わり、きょとんとする亜優。 俺はそんな幼馴染を横目にスマホを取り出し、近所のピザ屋のサイトを見せた。 「これ、最近オープンしたらしいな。 定番のマルゲリータとか、魚介尽くしのペスカトーレ、文字通りサーモンの乗ったサルモーネ…… それにパスタもある」 メニューを読み上げてみると、亜優の目がスマホに映っている写真にくぎ付けになっている。 「それに……この前店のそばを通ったら開業記念の30%オフ券貰ってさ。 俺は別に行かないから、あげるよ」 「……ほ、本当に貰っていいの!?ありがとう!」 ……マジでダイエットの事なんてさっぱり忘れてるな。 折角だからもう一つ見せてあげようか。 「これは駅前のハンバーガー屋で、結構旨いんだよ。 昔何回か行ったときに券くれたから、それもあげる」 「わぁ、ありがとう!嬉しい!」 ダイエットをする気が無いんだったら、旨い物でも食べて元気になった方がまだマシだろう。 まあ、ちょっと「意地悪」な事をしてしまったかもしれないな。 --- 今年のゴールデンウィークもあっという間だった。 高校2年生になってもう1カ月が経つのか。 そういや、去年の今頃からダイエットを始めたんだったな。 今年の3月頃には66kgまで減って、BMIも21.6と標準体型の中央ぐらいになった。 すっかりと贅肉も減り、足も平均以下ではあるがそこそこ速くなっている。 運動は全般的に相変わらず苦手だが多少はマシになった。 それからは現状の体重を維持する方向性に変えている。 当然ランニングや腹筋も続けているが、時折ポテチを食べることもあり、減量していた頃より食生活は少しだけ緩い。 それでも体重は特に増えていないのでいい気分だ。 まあ、俺は良いのだが……亜優の方は…… 更に増量を重ね、体型もどんどん肥満化が進んでいた。 今、俺は帰り道を亜優と歩いている。 「はぁ……暑い……」 「今暑がってたら夏耐えられないだろ……」 5月になってから暑い日もあるとはいえ、汗をダラダラ流してここまで深刻に暑がっている奴はそうそういない。 今坂道を上っているだけでも亜優は呼吸が荒くなっている。 「ちょっと公園にでも行く?」 「そうだね……休憩したいし」 公園に入って、亜優は息を整えていた。 その間に俺は更に太った幼馴染の現状を見ることにする。 暑いからか既にブラウスだけでベストとか着てないから分かりやすい。 顔は丸顔と言うか真ん丸で、頬はぷっくりとかなりふくれて口元が少し圧迫されていた。 タプタプの二重顎は肉が震える程で、そもそも首がかなり埋もれている。 かなり大きかった胸は更に育ち、ライバルが中々いないレベルで迫力があるのは確かだが…… ただ、運動どころか歩くのにも邪魔なようで本人には単なる厄介者でしかないらしい。 腹周りはボールでも入れてるのかという感じで、括れていたウエストも今では丸々と大きくせり出した太鼓腹だ。 女子らしく皮下脂肪が多いようで、プニョプニョしていて柔らかそうな印象を受ける。 下半身も重量感たっぷりのどっしりとした見た目で、太っていた頃の俺よりも太いだろう。 ヒップはサイズを増して椅子が合わなくなった程で、スカートの裾から見える脚は贅肉で倍以上の太さになっていた。 制服は買い替えたみたいだが……既にスカートのウエスト部分がはち切れんばかりに緊張状態になっている。 これ以上太ったら本当に特注するしかないんじゃないか。 去年の今頃はスタイルが良かったのに、今や面影すらない立派な肥満体型に変わっている。 今から思えば10月頃はまだぽっちゃりでギリギリ言い逃れできるレベルだったかもしれないが……もうデブと言われても仕方がない体型だ。 未だにウエストはバストよりは突き出ていないが、正直ここまで太ったら枝葉末節の些細な事だろう。 あの頃ですら入学時とは別人みたいだったが、今は冗談抜きで同一人物だと分かってもらえないんじゃないか。 「け、恵人……これ以上見ないで……」 「ごめんなさい」 あまりに太った身体を観察されて、すごく恥ずかしいらしい。 これ以上直視するのはやめておこう。 目線を逸らしながら、俺は言葉を続ける。 「今の亜優の体重はどれぐらいなんだ?」 「……4月に発育測定で測った時は……84kgだった……」 84kg……俺がダイエットを始めた時の体重と同じだ。 亜優はあの頃の俺と同じぐらい、いや1カ月経ったからそれより重い可能性が高い。 「前まで痩せてたのにね……休みの日は家に籠りがちで運動不足だからかな…… こんなぽっちゃりした身体になっちゃったよ……」 「いや、気分を悪くしないでほしいけど……デブだよ」 「……デブ……かぁ……はぁ……そうかも……」 深くため息を付いて俯いてしまう亜優。本人もその自覚があるのだろう。 前はデブと言う言葉を俺に使ってたのに、今や俺が亜優の体型をデブと表現するようになってしまった。 さぞかし屈辱的だろう…… 「どうしてこんな体型になったんだ……」 「それは……前ピザ屋さんとかのクーポンくれたことあったよね……」 「そんなこともあったような……」 確か……あの時はダイエットをする気が無い亜優にイラついて、だったらこれでも食べて太っておけ、と思ってしまった。 でも本気でブクブク太れとは当然思ってなかったが。 この現状を見る限りでは、あのクーポンは太るのに見事貢献したみたいだな。 「あの時ピザとかハンバーガーとか久々だったから……すっごく美味しく感じて…… それ以来お菓子の食べ過ぎだけじゃなくて、ご飯まで高カロリーなメニューが増えちゃったから…… 気づいたらこんなデブデブな身体になってて……」 成程……お菓子だけ多かったのが食事まで本格的にデブ仕様になった結果、体重が更に増えた訳だ。 この調子だと100kgまで到達するのも時間の問題かもしれない。 太ったのは亜優が食欲に負けてダイエットに全然向き合ってなかったからだが…… 流石に幼馴染がここまで太るのを見るのは、こちらとしても辛いところがある。 それにきっかけは俺の行動だし、せめて今からでも力になってやりたいとは思う。 「はぁ……凄いお肉……」 亜優が自分の腹肉を両手で掴み上げていた。 へそ周りの贅肉が手のひらに全然収まり切ってないのが見ていて悲しい。 ウエストも凄いが何気に脂肪を掴んでいる腕もかなり弛んでしまっている。 「私、こんなお腹になりたくなかったよ……」 腹周りの贅肉を手でブンブン揺らしながら表情が曇っていく亜優。 ブラウス越しだろうがお構いなく出っ張った腹肉の輪郭がよく分かる有様だ。 「だったら……ダイエットした方がいいんじゃ……」 「ダイエット?そうだけど……」 「今度こそは本気でダイエットしてみたら?俺も協力するから」 俺がそう言うも、亜優は首を横に振る。 「方法が分からないとか、失敗したらどうしようとか悩んでるの?」 「違うよ…… だってダイエットしたら……ポテチも板チョコも!それにショートケーキやシュークリームにチョコテリーヌ! 後ピザとかハンバーガー、特盛牛丼も食べられないんだよ!!」 ……急に大声で何を言い出すんだ? 「いっぱい食べながらダイエットできる方法があったら教えて。 お礼に読み終わった小説あげるから……」 「……あったら苦労しないと思うけど」 ああ、亜優が完全にデブの食生活に染まり切ってしまった。 これはどうすることもできないな…… 俺は、『自分の小さな行動が取り返しのつかない程大きな影響を与えることがある』という教訓を学ばさせられたのだった。 せめて亜優に何かしてあげられないだろうか、幼馴染として申し訳ない。 ……これはどうだろう。 「……亜優は小説とか好きだし、何か書くのとか結構好きだろ?」 「そうだね、読書感想文のコンクールとかよく応募してるよ」 「だったら食レポとかに向いてるかもな。食べ歩きブログとかも書けそう」 「それ!いいね!」 どんよりした顔が一気に明るくなる。 まあ本人が楽しいのならそれでいいだろう。 確かに女子は体型が気になりやすい傾向があるからダイエットしがちだが、別にする義務も無い。 痩せる努力をしないからといってダメな人間という訳ではないだろう。体型も数ある個性の一つだ。 俺だって痩せろと言われてた時は鬱陶しく感じていたものである。 女子がダイエットしなくて何が悪い、と亜優が思っているかもしれない。 高校生の時は痩せてても中年になったら結局太ってる女性も多いじゃないか、とは確かに思う。 そう、俺のお母さんのように……というのは今は関係ないな。 --- その後、亜優の食レポや食べ歩きブログが面白いと(小規模ではあるが)たちまち話題になり、高校生にして案件を貰う程になるのだが…… この話はまた今度にしよう。機会があればだが。