SakeTami
ドーン
ドーン

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聖女モドキ ~使い回される聖女のカラダ~



「もう少しだ……、もう少しで俺の願いが叶う……」


 俺は右手の中指に嵌められた指輪をそっと擦りながら、自室で独りほくそ笑む。



 『精神』と『肉体』を司る【白魔法】と、『破壊』と『死』を司る【黒魔法】の両方を高レベルで使える俺は、一流の冒険者として名を馳せていたが、5年前のある日を境に魔法の研究者に転じる。

 そして現在ではそれなりの地位を得ていて、世間的には何人もの弟子を持つ優秀な研究者だ。

 だが俺には世間の目を欺いて密かに行っている研究があった。

 それは『他人の肉体を乗っ取る』ことだった。



 秘密裏に進めていた研究がやっと完成して、その成果物である指輪を眺めながら、それを使う相手のことを思い浮かべる。


「あとは実行するのみだが・・・」


(コンコン!)


「失礼します」


 不意に弟子の一人がドアのノックして入って来た。


「師匠、聖女ローレライ様が面会を求めておられます」


「なにぃ!あっ、いや、もちろん会う、お通ししなさい」


 弟子から現在の聖女の名を告げられて、俺は一瞬取り乱すものの、すぐに取り繕う。

 なにせ、今まさに彼女のことを考えていたのだから・・・



 聖女ローレライを初めて見たのは、俺がまだ冒険者業をしていた5年前の事だ。

 まだ少女と言っていい年齢だったが、彼女の高潔さと気品に溢れる美しい姿に、一瞬で心奪われた。

 同時に俺の中にある衝動が芽生える。


【この美しい聖女のカラダを手に入れたい!!!】


 性欲ではない。

 あえて表現するなら『略奪欲』だろうか?

 俺自身が彼女という存在を奪ってみたくなったのだ。

 手に入れた後に何かがしたい訳でも無かった。

 どうしようもなくそのカラダを奪いたくなったのだ。

 しかも【白魔法】と【黒魔法】の両方の上位魔法に通ずる俺にはそれが可能であることを、残された理性の部分は告げていた。

 それ以来、冒険者を引退し、熱心に魔法の研究者として励み、裏では己の野望を満たすための研究を密かに進めたのだった。



「突然の訪問にも関わらず面会の許可を頂き、ありがとうございます。ローレライと申します・・・」


 弟子と入れ違いに入室してきた女性は挨拶と同時に美しい所作でカーテシーを行う。

 白を基調とした神聖な雰囲気を醸し出す聖女の衣装を纏うに相応しい清楚な美貌。

 その下に隠されている成熟した女性らしいカラダのライン。

 控え目だが全ての人を魅了する上品な物腰。

 5年前に憧れた美少女は、正に女の頂点に君臨する存在に成長していた。

 その姿に俺は見惚れる。


「どうかなさいましたか?」


 ある意味、憧れの存在を目の前にした俺の様子に、聖女は軽く首を傾げながら微笑む。

 普通ならこんな絶世の美女に微笑み掛けられれば更に舞い上がるものだが・・・


(なんだ・・・この感じ・・・)


 そこに妙な違和感を感じ取った俺だが、必死に平静を装いながら席を勧めると、取り繕うように言葉をひねり出す。


「あ、いえ、お美しい聖女殿にお会いできて、感激しておりました」


「そうですか、それはここに来たかいがありましたね、ふふふ」


 お世辞と本音の入り混じった俺の言葉に、楽しそうに微笑む聖女。

 だが彼女の笑みは俺の心の内を見透かしているようで落ち着かない。


(いや、そんなはずはない・・・)


 俺は違和感の正体を推測して、その予想を内心で否定する。



 彼女は先日、魔女を封印して凱旋したばかりだ。

 復活した『悪逆の魔女・オルテンシア』は、その膨大な魔力と強力な魔法を駆使して、隣国で異名通りの悪行を働いていた。

 その肉体は不死身で、剣士が何度斬ってもその場で再生してしまったという。

 そんな魔女に立ち向かったのは、聖女ローレライを含む勇者パーティだった。

 しかし勇者パーティの力をもってしても滅することが出来ず、仕方なく聖女の秘儀を使用して魔女の肉体と魂を切り離し、別々に封印を行ったらしい。


 そんな聖女と相対してみて、俺の魔法的な感覚が、彼女の異常さを感じ取っていた。


「・・・このカラダを上手く使いこなしていると思っていましたが・・・さすがにアナタのような上位の魔法使いになると気付くものなのですね・・・」


 俺の内心を察したように、聖女の口から呟きが漏れる。

 聖女は自分の胸を押さえながら言葉を続ける。


「しばらくはこの女のフリをして機会を待つつもりだったのですが・・・こんなに早く訪れるとは思ってもいませんでした・・・」


 手で押さえられたため、胸の部分の輪郭が聖女の衣装の上からもあらわになる。

 その美しい形と十分な大きさを持つ膨らみと、その頂点にある突起の存在までくっきりと見えることは、ある事実を示していた。


(聖女が下着を着けていないだと!あの魔女は性にも奔放だったと聞いているが・・・まさか、今のローレライに宿っているのは本当に魔女の魂?俺が手に入れるべきモノが先に魔女のモノになっているのか?)


 俺が愕然としていると、目の前の女の雰囲気が突然変わる。


「・・・そんなにこのカラダが欲しいの?」


「えっ・・・」


 先程から完全に心の中を見透かされているようで、動揺を隠せない。

 俺は言葉に詰まったまま目の前の女の顔を見つめる。

 そこには口の端を釣り上げた笑みを浮かべた顔があった。

 他人を見下したような、聖女にあるまじき不遜な笑みだ。

 それは俺の推測を完璧に肯定していた。

 目の前の女は、姿こそは聖女だが中身は悪辣な魔女という『聖女モドキ』であったからだ。


「アナタの研究のことは、使い魔が教えてくれたわ。辿り着いたのよね?禁忌の【魂転移術】に」


 俺の応答を待つことなく、俺の内心での推測を検証するかのように、彼女は説明を始めた。


「そう、勇者たちの意図を理解したワタシは、体から魂が切り離される寸前に禁呪で聖女と魂を入れ替えてやったのよ。だから封印されている魂はローレライのモノよ、うふふ・・・」


 ローレライの姿をした魔女は楽しそうに言葉を続ける。


「アナタの知っている通り、この禁呪は一度使うと元には戻れない欠点があるの。でもアナタはその欠点も解決出来たみたいだから問題ないわね。予備の指輪も作ってあるのでしょ?」


 そう言って魔女は意味ありげに俺の右手の指にはめられた指輪に視線を向ける。

 その視線に気付き左手で指輪を隠すが、それは魔女の笑みを深めるだけの行為だった。

 俺は禁呪の欠点を解決するために『魂の携帯化』を思いついたのだ。

 この指輪は魂のイレモノになり、カラダを移り変える時の橋渡しをするのだ。


「それでは提案よ、ワタシが元のカラダへ戻る手伝いをしなさい。もちろんアナタは断らないわよね?そうすればアナタは無理せずにこのカラダが手に入るのだから。分かっているとは思うけど、今のワタシからこのカラダを奪う事は無理よ?無警戒ならまだしも、アナタの狙いを知っている以上、ワタシを出し抜くことなんて出来ないからね」


 魔女の提案に、俺はしばらく沈黙する。

 封印された魔女を再びこの世に放つ、その罪の重さに。

 だが魔女の言う通り、答えは既に決められているのだ。

 

「・・・本当に・・・本当に元のカラダに戻る手伝いをしたなら、その聖女のカラダは俺のモノになるんだな?」


 重々しい口調で応えを捻り出した俺に対して、目の前の女は歪めていた表情を元の聖女の顔に戻して微笑みを浮かべる。


「ええ、もちろんです。聖女としてお約束いたしますわ、ふふふ」


 俺と魔女の密約が成立した。



 翌日、魔女の封印の状態を確認するという名目で、俺は聖女モドキと共に旅立つ。

 封印の地に辿り着くと、ローレライの姿をした魔女は何重にも施されている結界を容易く解いていく。

 自身で張った結界なのだから当然だ。

 現れた魔女のカラダは、まるで生きているかのように血色もよく、しかも妖艶な美貌を持っていた。

 すでに指輪の儀式を施し、魔女の魂は聖女のカラダが付けている予備の指輪の中に移されている。

 美しい聖女の姿をした魔女は、手から指輪を外すと、本来の彼女のカラダの手にそれをはめる。

 そして俺の手で復活の儀式が進められる・・・


「あっはっはっは!やったわ!ワタシはこのカラダを取り戻したわ!」


 やがて意識を取り戻した魔女が起き上がり、その妖艶な美貌を限界まで歪ませて笑みを浮かべる。


「ふふふ・・・安心して、封印した奴らに復讐なんて考えていないから。むしろ、奴らがこれ以上関わってこないように、離れた地で目立たないように行動するつもり」


 実際どこまでその言葉が守られるかは分からないが、俺にしてみればそんなことはもうどうでもよい。


「それではワタシは行くわ。もう二度と会う事はないでしょうけど、お互いうまくやりましょうね、では!」


 そして魔女は去って行った。

 俺は、魂の抜けた聖女のカラダを黙って見下ろす。

 そして自分の手から指輪を抜き取り聖女のカラダに付けると、儀式を開始したのだった・・・


―――――――――


「本日もご指導の程、よろしくお願いします、ローレライ様!」


 聖女候補の少女が頬を紅潮させ、俺を熱の籠った眼差しで見上げている。

 そこには尊敬と敬愛の念が溢れていた。

 聖女の仕事には、次代の聖女の教育も含まれているのだ。


「ええ、アナタも立派な聖女になれるように今日も修行に励みましょうね」


「はい!」


 自分がやがて聖女になることに一片の疑いも持たず、そこに向かって努力することに喜びさえ感じている、輝く表情があった。

 彼女もまた、ローレライに勝るとも劣らない理想的な聖女に育つことは間違いないだろう。

 そして彼女が聖女となった時、俺は再び新たな聖女として生まれ変わるのだ。





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