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アルメリア〜新しい自分〜【1話完結:FANBOX限定】

================================= 完璧な仕事ぶりで周囲から孤立していた36歳の営業ウーマン、川島亜美。 彼女の心を救ったのは、自分を「もう一人の私」に変身させるドール着ぐるみだった 。 ある日、テレビで見た美しい人形のような少女「如月メイ」に心惹かれた亜美は、 ドール着ぐるみの世界に足を踏み入れ、自分だけのドールキャラクター「アルメリア」を生み出す 。 完璧主義の自分を捨て、新たな人生を歩み始めた亜美だったが、 初めての変身ではマスクの外し方が分からなくなるという最大の試練に直面する 。 完璧な女性を演じ続けてきた彼女が、不完全な自分と向き合い、本当の美しさを見つける物語 。 これは、新しい自分を探す女性の再出発の物語です。 ================================= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「完璧な孤独」  東京都心の高層ビル二十階。  朝の光がガラス張りのオフィスを照らし、「エリートプランニング」の営業部では、いつものように一日が始まろうとしていた。  川島亜美は自分のデスクで、今月の営業成績表を見つめている。  部署内でダントツの一位。  入社以来十四年間、一度も二位以下になったことがない。  三十六歳の今も、若手に負けることなく数字を叩き出し続けている。 「今月も目標の百二十パーセント達成…」  そう呟いても、満足感よりも虚無感が勝った。  数字は完璧、外見も完璧、仕事も完璧。  でも、心の中は空っぽだった。  隣のデスクの田中が近づいてくる。  二十八歳の彼は、亜美を慕っているというより、恐れているように見える。 「川島主任、おはようございます。昨日のプレゼン、素晴らしかったですね」 「当然です。準備不足では会社の信用に傷がつきます」  冷たい口調で答えてしまう。  また、やってしまった。  本当は「ありがとう」と言いたかったのに。  田中は気まずそうにうなずき、すぐに自分のデスクに戻っていく。  亜美は心の中で自分を責めた。  どうして素直に話せないんだろう。  いつからこんなになってしまったんだっけ。  女性として、三十六歳という年齢は微妙だった。  若い頃のような可愛らしさはもうない。  でも、まだ老けたわけでもない。  美しさを保つために、エステ、ジム、高級化粧品…どれだけのお金と時間を費やしてきただろう。  鏡を見るたびに思う。 「私は美しい」と。  でも、その美しさを誰が見てくれているのだろう。  誰が愛してくれているのだろう。  午後二時、月次営業会議が開かれた。  十五人の営業メンバーが会議室に集まっている。 「今月の実績ですが、私の担当分は計画比百二十パーセントを達成しました。来月はさらに百三十パーセントを目指します」  部長は満足そうにうなずく。 「素晴らしい。やはり川島主任は頼りになる」  他のメンバーたちは複雑な表情だった。  亜美の数字は常に他を圧倒している。  でも、それがかえって彼女を孤立させていることに、亜美自身が一番気づいていた。  休憩時間、他のメンバーたちは小グループで雑談している。  亜美だけが一人でスマートフォンを見ている。  聞こえてくる会話に、胸が痛んだ。 「今度の飲み会、どうする?」 「行きたいけど、川島主任もいるんでしょ?」 「きっと仕事の話ばかりになるよ…」  聞こえないふりをしながら、亜美は思った。  みんな私がいると楽しくないんだ。  分かってる、でも変えられない。  女性としての時間は有限だ。  若い頃は、いつか素敵な人と出会って、結婚して、家庭を築くものだと思っていた。  でも気がつけば三十六歳。  恋人もいない、友達もいない。  仕事の成功だけが残された。  夜九時半、亜美は都内の高級マンションに帰宅した。  三十階建てマンションの二十五階、モノトーンでまとめられたシンプルなインテリア。  大きな窓から東京の夜景が見える。  でも、誰と分かち合うこともない美しい景色だった。  冷凍食品を電子レンジで温めて、一人でダイニングテーブルに座る。 「今日も一人…いつから友達と食事したか覚えてない」  洗面所の鏡の前で、亜美は自分の顔を見つめた。  確かに美しい。  エステの効果で肌はつやつやしているし、高級化粧品のおかげでシミもシワもない。  でも、その完璧な顔を見るのが嫌だった。 「完璧な顔、完璧なスタイル、完璧な成績…でも、こんなに空っぽなのはなぜ?」  女として生まれて、三十六年。  何を得て、何を失ったのだろう。  美しさを維持することに必死で、心を磨くことを忘れていたのかもしれない。  誰かに愛されることよりも、誰かに負けないことばかりを考えていたのかもしれない。 「この完璧な私、嫌い…でも変えられない」  鏡の中の自分が嫌いなのに、鏡を見ることをやめられない。  それが川島亜美という女性の矛盾だった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「運命的な出会い」  土曜日の午後三時。  いつものように一人で過ごす休日。  最近は外出することも減って、家でテレビを見て過ごすことが多くなった。  何気なくチャンネルを回していると、興味深い番組が始まった。 「本日のゲストは、話題の如月メイちゃんです」  画面に現れたのは、この世のものとは思えないほど美しい少女だった。  人形のような完璧な顔立ち、神秘的な雰囲気。  でも確かに動いている。 「これ…人形?でも動いてる…」  如月メイがゆっくりとお辞儀をする姿に、亜美は釘付けになった。  その動きには人間的な温かさがあるのに、外見は完璧すぎるほど美しい。  司会者が質問する。 「メイちゃんの美しさは本当に人形みたいですね」  如月メイが答える。 「ありがとうございます」  声はマスク越しでくぐもっているが、それが逆に神秘性を高めている。  亜美は画面に食い入るように見つめた。 「なにこれ…すごく気になる」  番組が終わっても、亜美の頭から如月メイの姿が離れなかった。  あの美しさ、あの神秘性。  何より、完璧でありながら人間味を失わない存在感に、深く惹かれていた。  その夜、亜美はパソコンに向かい、如月メイについて徹底的に調べ始めた。  営業で培った情報収集能力を総動員して、あらゆる情報を集める。  如月メイの活動歴、動画サイトでの映像、そしてプロデューサーである高橋美希の情報。 「着る魔法」という概念に出会った時、亜美の心に何かが響いた。  高橋美希の著書『着る魔法』の電子版を購入し、一気に読み進める。 「服装は単なる外見ではありません。それは新しい自分への変身の始まりなのです」  この言葉が、亜美の心を強く打った。 「…これが、私の求めてたもの」  日曜日になっても、亜美はドール着ぐるみの世界について調べ続けた。  様々なドールキャラクター、演者たちの体験談、変身の喜びについて語る人々。 「もう一人の自分」というコンセプトに、心を奪われた。  ブログに書かれた体験談を読んで、亜美は涙を流した。 「マスクを被った瞬間、私は別の人になりました。普段の自分とは全く違う、新しい存在として生まれ変わったのです」  女として三十六年生きてきて、初めて本当に欲しいものが見つかった気がした。  完璧な外見、完璧な成績、完璧な生活。  でも、それは全て川島亜美というキャラクターを演じているだけだったのかもしれない。  本当の自分は何なのか。  どんな人間になりたいのか。  ドール着ぐるみという存在を知って、初めてその答えが見えてきた気がした。 「これだ…これが私の求めてた答え」  完璧で冷たい川島亜美じゃない、全く新しい自分になりたい。  そんな願いが、心の奥から湧き上がってきた。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「決意と退職」  月曜日の朝八時。  亜美は出社すると、まっすぐ部長の部屋に向かった。  週末の間に固めた決意は、微塵も揺らいでいない。 「部長、お話があります。私、退職させていただきたいと思います」  部長は書類から顔を上げ、困惑した表情を浮かべた。 「え?何の冗談ですか?」 「冗談ではありません。今月末で退職させていただきます」 「ちょっと待ってください。君は我が社のエース営業です。理由を教えてください」  亜美は少し迷った。  本当の理由を言えるはずがない。  ドール着ぐるみになりたいから退職します、なんて言えるわけがない。 「自分を変えたいんです。新しい人生を歩みたいんです」 「転職ですか?どちらの会社に?」 「転職ではありません。全く違う世界に行きます」  部長の困惑は深まった。  彼にとって、川島亜美は会社の宝だった。  数字を確実に上げてくれる、頼りになる存在。  それが突然、わけの分からない理由で辞めると言い出したのだ。  その後一週間、会社は亜美の退職を食い止めようと、様々な手を打った。  取締役との面談。 「川島さん、年収を一・五倍にします。管理職への昇進も約束します」  亜美は首を振った。 「お気持ちはありがたいですが、決意は変わりません」  同僚たちも困惑していた。  田中が恐る恐る声をかけてくる。 「川島主任、本当に辞めるんですか?」 「はい。二ヶ月かけてきちんと引き継ぎます」 「理由を教えてもらえませんか?」  亜美は少し迷った後、答えた。 「…自分を変えたいんです」  田中の目に、微かな理解の光が見えた気がした。  完璧すぎる川島亜美に、何か苦しみがあることを感じ取ったのかもしれない。  女性として、三十六歳での転機は大きな意味を持つ。  もう若くない。  でも、まだ遅くもない。  今変わらなければ、一生変われないかもしれない。  そんな焦りと期待が、亜美の心を支配していた。  退職まで二ヶ月間、亜美は完璧な引き継ぎ資料を作成し、後任者の指導を行った。  最後まで、川島亜美らしい完璧さを貫いた。 「この資料があれば、私がいなくても同じ成果が出せます」  後任者は感動していた。 「ここまで詳細に…ありがとうございます」  最後の数週間、同僚たちが亜美に対して少しずつ距離を縮めようとしているのを感じた。  きっと、彼女がいなくなるという事実が、本当の気持ちを引き出したのだろう。  同僚の一人が言った。 「川島主任、お疲れ様でした。実は…いつも頼りにしてました」  亜美は素直に答えた。 「…ありがとうございます」  最終出社日。  荷物をまとめた段ボールを持ち、十四年間過ごしたオフィスを後にする。 「長い間、ありがとうございました」  エレベーターの扉が閉まる瞬間、亜美は一つの人生が終わることを実感した。  川島亜美という営業ウーマンの人生が。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「アルメリア誕生」  退職から一週間後、亜美は専門業者に連絡を取り、オーダーメイドのドール着ぐるみを注文した。 「どのようなキャラクターをご希望ですか?」  亜美は迷わず答えた。 「お姫様のような、でもゴシックで神秘的な雰囲気を」  衣装は黒を基調としたゴシックロリータドレス。  複雑なレース装飾で、神秘的で上品な雰囲気を演出する。 「表情はいかがしますか?」 「可愛らしく、でも神秘的に。お姫様のような気品を」  そして、名前。 「名前は…アルメリア」  咄嗟に浮かんだ名前だったが、なんとなく気に入った。  アルメリア。  美しくて、神秘的で、どこか切ない響きを持つ名前。  注文から納品まで三週間。  その間、亜美は着替えのための部屋をセッティングし、大型の三面鏡を設置した。  まるで、新しい自分を迎える準備をするように。 「本当に変われるのかな…」  不安もあった。  でも、期待の方が大きかった。  三十六年間、川島亜美として生きてきた。  でも今度は、アルメリアとして生まれ変われるかもしれない。  女性としての人生の後半戦。  美しさを保つことから、美しく生きることへ。  外見の完璧さから、心の充実へ。  そんな変化を期待していた。  金曜日の午前十時。  宅配業者がドール着ぐるみを届けた。  大きな箱から取り出されたのは、まさに亜美が思い描いていた通りの美しいドール。 「わあ…本当に美しい」  マスクケースを開けると、そこには天使のような美しい顔があった。 「これが…私の新しい顔…」  球体関節模様の入った高品質な肌タイツ。  これを着ると、本当に人形になれるんだ。  亜美は震える手で、アルメリアのマスクを持ち上げた。  冷たく、硬く、でも美しい。  これが、新しい自分への扉。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「初回変身と感動」  土曜日の午後二時。  いよいよアルメリアへの変身を開始する。  亜美は下着姿で肌タイツに足を通した。 「冷たい…でも、これが変身の始まり」  タイツが徐々に脚を覆っていく。  膝の部分に球体関節の模様が浮き上がる瞬間、亜美は小さく息を呑んだ。 「うわあ…本当に人形の脚みたい」  腕を通し、背中のファスナーを上げる。  全身が人工的な肌色に覆われる。  鏡を見ると、そこには人間ではない何かがいた。 「もう人間の肌じゃない…」  ゴシックロリータドレスを慎重に着用。  複雑なレースとリボンが神秘的な雰囲気を演出する。  三十六歳の女性が着るには少し可愛らしすぎるかもしれないが、それでも美しかった。  そして、最も重要な瞬間。  アルメリアのマスクを手に取る。 「これで…私は亜美じゃなくなる」  冷たく硬いマスクが顔を覆う。  内部のスポンジが頬や額に密着する。  きつい。  でも、しっかりと固定されている。  金具を留めた瞬間、外界から隔離された。  視界は狭くなり、呼吸は制限される。  でも、同時に何かから解放された気がした。  川島亜美という重い殻から。  長いウェーブの髪を装着し、変身が完了する。  三面鏡の前に立つ。  鏡に映るのは、川島亜美ではなく、美しいお姫様のような存在。 「これ、、、が、、、私?」  マスク越しのくぐもった声で驚嘆する。  狭い視界の中から見る世界は、いつもと全く違った。 「私、本当に変わった…川島亜美じゃない…アルメリア」  最初の歩行は慎重だった。  ドレスの裾を気にしながら、ゆっくりと歩く。  でも、普段の視界の三十パーセント程度しか見えない。  三歩ほど歩いたところで、リビングテーブルの角に足のすねをぶつけてしまった。 「痛っ!」  マスク越しでくぐもった声だが、確かに痛がっている。  でも、その痛みすらも新鮮だった。  アルメリアとして感じる初めての痛み。  痛みを我慢しながらも、再び鏡の前に向かう。 「でも…鏡に映る私、本当に美しい」  鏡の前で、恐る恐るお辞儀のポーズを取ってみる。  ドレスの裾が美しく広がる。 「わあ…お姫様みたい」  調子に乗った亜美は、様々なポーズを試し始めた。  両手をほっぺたに当てるポーズ。  マスクの硬い表面に手が当たり、プラスチックの冷たさを感じる。 「これは…可愛い系?」  片手を腰に当てて、もう片手を上げるポーズ。 「モデルさんみたい!」  でも、ゴシックロリータドレスの重さで、思うように優雅に決まらない。  スカートの裾を軽く持ち上げるポーズ。 「これぞお嬢様!」  裾を持ち上げた瞬間、バランスを崩しそうになる。 「写真撮ってみよう」  スマートフォンを取りに行こうとして、またもや家具にぶつかる。  今度はソファの肘掛けに腰をぶつけた。 「うぅ…視界が狭いって、こんなに大変なんだ」  スマホを手に取り、自撮りモードにする。  しかし、マスクの狭い視界では、画面がよく見えない。 「画面が…どこ見えてるのか分からない」  何度も角度を変えながら、ようやく自分が画面に映る位置を見つける。 「うわあ…画面の中にもアルメリアが映ってる」  画面越しに見る自分の姿に、改めて変身の実感を覚える。  シャッター音が部屋に響く。 「カシャ」  撮影した写真を見ようとするが、マスクの視界制限で画面の細部がよく見えない。  スマホを顔に近づけて、何とか写真を確認する。 「きれい…本当にアルメリアが写ってる」  写真撮影に味をしめた亜美は、様々なポーズで自撮りを始めた。  指でハートマークを作るポーズ。 「これは王道!」  しかし、マスクの視界では自分の手の位置が正確に分からず、何度も手の位置を調整する。  振り返りポーズ。 「後ろ姿も撮ってみよう」  振り返った瞬間、足がドレスの裾に引っかかり、よろけてしまう。 「わわわ!」  壁に手をついて、なんとか転倒を免れる。 「アルメリアって、思ったより難しい…」  でも、そんな失敗すらも愛おしく感じる。  完璧じゃない私でも、アルメリアなら可愛いかも。  自撮りに飽きた亜美は、部屋中を歩き回ってみることにした。  リビングからキッチンに向かう途中、カーペットの端でつまずく。 「うわっ!」  前に倒れそうになり、両手を前に出してキッチンカウンターに手をつく。 「危なかった…マスクが床に当たったら割れちゃうかも」  自然光での撮影を思いつき、窓際に移動する。 「自然光だと、もっときれいに撮れるかな」  窓際でのポージングを始めるが、午後の西日がマスクに反射して、スマホの画面がさらに見えにくくなる。 「まぶしくて画面が見えない…」  三面鏡の前にスマホを持参し、鏡で全身をチェックしながら自撮りする作戦を思いつく。 「鏡で確認しながらなら、上手く撮れるかも」  上から見下ろすアングル、下から見上げるアングル、横顔の撮影。  次々とシャッター音が響く。 「カシャ、カシャ、カシャ」 「楽しい!こんな風に写真撮るの何年ぶりだろう」  ドレスのリボンが少し曲がっているのを直そうとして、スマホを床に落としてしまう。 「あ!スマホ!」  慌てて拾おうとして、今度はドレスの裾を踏んでしまう。 「ビリッ」という小さな音。 「やばい…裾を破いちゃったかも」  リビングと寝室の境界にある、わずか二センチほどの段差に気づかず、つま先を引っかけてしまう。 「きゃあ!」  前のめりに倒れそうになり、寝室のベッドに手をついて支える。  その拍子にスマホが再び床に落ちる。 「もう…アルメリアって優雅じゃないじゃない」  でも、失敗続きでも、撮影への情熱は冷めない。 「失敗しても、アルメリアの私は可愛い」  ベッドに腰かけて撮影することを思いつく。 「座った方が安全かも」  ベッドに腰かけ、足を斜めに流すポーズ。 「これはエレガント」  しかし、ドレスのボリュームでベッドから転げ落ちそうになる。 「わあああ!」  亜美は試行錯誤しながら、マスクでの撮影のコツを掴んでいく。  テーブルにスマホを立てかけ、タイマー機能を使った撮影。 「これなら画面見なくても大丈夫」  タイマーが作動する間、慌ててポーズを取るが、毎回微妙にズレてしまう。  三面鏡に映る自分をスマホで撮影。 「鏡越しだと全身が入る」  しかし、鏡の反射とマスクの視界制限で、構図がよく分からない。 「動画も撮ってみようかな」  動画モードに切り替え、歩いている様子を撮影しようとする。 「アルメリアが歩いてるところ」  しかし、歩きながらスマホを持つのは危険すぎて、すぐに諦める。 「ファッションショーごっこしてみよう」  想像上のランウェイを歩こうとするが、三歩歩いた時点でソファの足にぶつかる。 「痛っ!ランウェイって真っ直ぐなのに…」  撮影開始から三十分が経過。  マスクでの呼吸に慣れてきたものの、集中力と体力を消耗している。 「ちょっと疲れたけど…楽しい」 「最高の一枚を撮ろう」  窓際の自然光の下、三面鏡で全身をチェックしながら、完璧なポーズを目指す。  両手を胸の前で軽く組み、少し首をかしげるポーズ。 「これで決まり!」 「カシャ」  一連の撮影を終えた亜美は、充実感に満たされていた。 「こんなに夢中になったの、いつ以来だろう」  ソファにゆっくりと座り、撮影した写真を見返す。 「どの写真も、川島亜美じゃない…全部アルメリア」  失敗だらけの撮影だったが、それがかえって楽しかった。  完璧じゃなくても、楽しければいいんだ。  アルメリアの私は、失敗しても可愛い。  大量の写真撮影で疲れた亜美は、ソファに座って休憩していた。 「思ったより疲れた…でも楽しかった」  スマホのフォルダには、五十枚以上のアルメリアの写真が保存されている。  一枚一枚写真を見返しながら、変身への実感を深める。 「この写真の私…本当に別人」  休憩後、今度はもっと慎重に部屋を探索してみることにする。  洗面所の鏡で、また違った角度からの自分を確認したくなった。  洗面所への廊下を歩く際、壁に手をつきながら慎重に移動。 「今度は注意深く歩こう」  洗面所の鏡は三面鏡よりも近距離で、アルメリアの顔の詳細がよく見える。 「この角度だと、マスクの美しさがよく分かる」  洗面台に両手をついて、少し前かがみになるポーズ。 「これは大人っぽい?」  一時間以上の活動で、喉が渇いてくる。  マスクのスリットから細いストローで水を飲む。 「マスクしてると、お水飲むのも大変」  でも、その不便さすらもアルメリアでいることの特別感として受け入れる。  キッチンで、お嬢様らしい優雅な動作を練習してみる。  紅茶カップを持つような手の動き(実際にはカップは持たない)。 「お嬢様はこんな風に…」  しかし、マスクの視界制限で、想像上のカップの位置が分からず、空中で手をひらひらと動かすだけになってしまう。  音楽をかけて、ゆっくりとしたダンスを踊ってみる。 「アルメリアは踊れるかな?」  しかし、ドレスのボリュームと視界制限で、思うように動けない。  二回転目で足がもつれ、冷蔵庫に背中をぶつける。 「踊るのは難しい…」  西日が差し込む窓辺に立ち、外の景色を眺める。  マスクの狭い視界から見る外の世界も、いつもと違って見える。 「アルメリアの目で見ると、世界も違って見える」  時計を見ると、変身から一時間三十分が経過している。 「二時間は頑張ってみよう」  しかし、徐々に呼吸困難感が増してくる。 「少し…苦しくなってきた」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「限界への挑戦」  変身から一時間後、亜美の体に変化が現れ始めた。  呼吸困難感が増し、頭痛も強くなってくる。 「はぁ…はぁ…結構きつい」  マスク内の状況は悪化していた。  呼吸により内部の湿度が上昇し、額に汗が浮き始める。  自分の呼吸音が大きく響く密閉空間で、亜美は外したい気持ちと戦っていた。 「外したい…でも、まだアルメリアでいたい」  ソファに座り、呼吸を整えようとする。  鏡に映るアルメリアの美しさを見て、もう少し頑張ろうと決意する。 「まだ大丈夫…この美しさを失いたくない」  女性として、美しくありたいという願いは強い。  三十六年間、美しさを保つために努力してきた。  でも、アルメリアとしての美しさは、それまでとは全く違うものだった。  完璧でありながら、どこか儚げで、神秘的。  こんな自分になれるなら、少しの苦痛は我慢できる。  変身から一時間三十分から二時間にかけて、亜美は呼吸のリズムを掴もうと努力した。  ゆっくり息をすれば大丈夫。  マスクでの呼吸に慣れようとする。 「ゆっくり息をすれば…大丈夫」  部屋の中を歩き回り、アルメリアとして存在することに喜びを感じる。 「私はアルメリア…美しくて神秘的な存在」  最も苦しい時期を乗り越え、不思議と楽になってくる。 「あれ?少し楽になったかも」  窓に反射する自分の姿、鏡に映る美しいドレス姿に心を奪われる。 「私、本当に美しい…こんな自分初めて」  三十六歳という年齢を忘れさせてくれる、永遠の美しさ。  アルメリアでいる限り、年齢なんて関係ない。  時間も関係ない。  ただ美しく、神秘的で、愛らしい存在でいられる。  変身から二時間から二時間三十分にかけて、体が限界を訴え始めるが、アルメリアでいたい気持ちが勝る。 「もう少し…もう少しだけ」  頭痛が強くなり、めまいも感じ始める。 「頭が…でも、まだ大丈夫」  マスクのスリットから細いストローで水分を摂取。 「これなら飲める…」  さすがに危険を感じ、マスクを外すことを決意する。 「そろそろ外さないと…」  でも、その決意すらも揺らいでしまう。  鏡に映るアルメリアがあまりにも美しくて、この姿を失うのが惜しくてたまらない。  女性としての欲求だった。  美しくありたい、愛されたい、特別でありたい。  そんな願いがすべて、アルメリアという存在に集約されている。  これまでの人生で得られなかったすべてが、ここにある。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「最大の試練」  変身から二時間三十分。  いよいよ限界を感じた亜美は、ソファに座ってマスクの金具に手をかけた。 「よし、外そう」  何度試しても金具が動かない。 「あれ?外れない…」  必死に金具を動かそうとするが、びくともしない。 「嘘でしょ?なんで外れないの?」  パニックが始まった。  一人きりの部屋で、誰も助けてくれない状況。  マスクが外れない恐怖が、亜美を襲う。 「はぁ…はぁ…外れない…外れない!」  パニックにより呼吸が乱れ、さらに苦しくなる。  助けを求めることもできない孤独。  電話をかけることも考えたが、こんな姿を誰に見せられるというのか。 「誰か…誰か助けて…」  でも、答える人はいない。  三十六年間、孤独に生きてきた結果がこれだった。  美しさを追求し、完璧さを求め、でも誰からも愛されない人生。  そして今、アルメリアとして美しくなったのに、誰もそれを見てくれる人がいない。 「落ち着いて…落ち着いて考えよう」  混乱の中でも、亜美は自分を抑えようとした。  営業として培った冷静さを思い出そうとする。  でも、酸欠状態では思うように頭が働かない。  もう抵抗しても仕方ないと諦め、体を楽にしてソファに横になる。 「もう…仕方ない」  酸欠と疲労により、意識がもうろうとしてくる。 「意識が…遠くなって…」  静かな部屋で、アルメリアのままゆっくりと眠りに落ちる。  深い眠りの中で、亜美は夢を見た。  アルメリアとして、たくさんの人に愛される夢。  友達ができて、恋人ができて、家族ができて。  川島亜美としては得られなかったすべてが、アルメリアとしてなら手に入る。  そんな甘い夢。  でも、夢は夢でしかない。  現実は、一人でソファに横たわるアルメリア。  美しいけれど、孤独。  完璧だけれど、空虚。  長時間の装着により、マスク内は汗で大変な状態になっている。  でも、眠っている間は呼吸が安定し、体への負担が軽減される。  部屋は夕日から夜の闇へと変わっていく。  時間だけが過ぎていく。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「覚醒と発見」  深夜、亜美は暗闇の中で目を覚ました。 「ここは…私の部屋?」  自分がソファに横になっていることに気づく。 「私、眠ってた?」  顔を触ると、硬いマスクがまだ装着されている。 「そうだ…アルメリアのまま眠っちゃったんだ」  長時間の装着により、マスク内は汗でべとべとになっている。 「うわあ…マスクの中がすごいことになってる」  スポンジが汗を吸って気持ち悪い状態。 「気持ち悪い…汗の匂いも混ざって」 「早く外さないと…」  再び金具に手をかけるが、やはり動かない。 「また外れない…どうして?」  今度はパニックを抑えて、冷静になろうと努める。  暗闇では何も見えない。  まず明かりをつけなければ。 「電気…電気をつけないと」  マスクの狭い視界で手探りを始める。  壁に沿って歩き、壁面のスイッチを探す。  指先が壁を這うように動き、ようやく電気のスイッチに触れる。 「あった…」  カチッという音とともに、部屋に明かりが灯る。  でも、マスクの視界は依然として正面の三十パーセント程度しかない。 「洗面所…洗面所に行けば、鏡でよく見える」  足元に注意しながら、慎重に洗面所に向かう。  廊下の壁に手をつきながら、一歩一歩確実に進む。  洗面所の電気もつけ、明るい蛍光灯の下に立つ。  鏡の前で、自分の状況を確認する必要があった。 「まず、ウィッグを外さないと、金具が見えない」  慎重にウィッグに手をかける。  長い髪が絡まりそうになりながらも、なんとか外すことができた。  ウィッグが外れると、下から現れたのは肌色のフードに覆われた頭部。  そして、耳の上に小さな金具が見えた。 「あ…これが金具」  洗面台の明るい照明の下、鏡越しに金具の構造を確認しようとする。  しかし、マスクの視界制限で、金具の詳細がよく見えない。 「狭い視界じゃ、細かいところが見えない…」  首を左右に振って、なんとか金具を視界に入れようとする。  鏡を使って角度を変えながら、金具の構造を理解しようと努める。  右耳の上の金具に手を伸ばす。  指先で触って構造を確認する。 「これは…回すタイプ?それとも押すタイプ?」  指先の感触だけが頼りだった。  金具は小さく、マスクを被ったままでは操作しにくい。  鏡に顔を近づけて、なんとか金具を視界に入れようとする。  マスクの目の部分のスリットから覗く狭い視野で、金具の向きを確認する。 「これは…時計回り?反時計回り?」  左手で金具を触りながら、右手で鏡の角度を調整する。  三面鏡の角度を変えて、横からの角度で金具を見ようとする。 「少し見えた…でも、どっちに回すのが正しいんだろう」  今まで、なんとなく右回りに回そうとしていた。  でも、よく考えてみると、反対かもしれない。  指先で金具の構造をもう一度確認する。  小さな突起があり、それが回転の方向を示しているようだった。 「この突起…こっちに回すってことかな?」  マスクの狭い視界と指先の感触だけを頼りに、慎重に金具の向きを確認する。 「もしかして…今まで逆に回そうとしてたのかも」  正しい方向に回すと、金具は簡単に外れる。 「え…こんなに簡単に?」  マスクが外れ、冷たい新鮮な空気が顔に触れる。 「はぁ…はぁ…やっと…」  亜美は洗面所の鏡の前に立ち、素顔の自分を見つめた。  汗で濡れた髪、赤く火照った顔、マスクの跡が残る肌。  それが本当の川島亜美だった。 「これが本当の私…ひどい顔...」  外したアルメリアのマスクを大切そうに抱く。 「ありがとう、アルメリア…」  そして、自分の失敗に気づいて笑った。 「私、バカみたい…こんな初歩的なミス」  涙が止まらなかった。  でも、それは悲しみの涙ではない。 「あなた、全然完璧な人間なんかじゃないじゃない」  川島亜美という女性の本当の姿が見えた気がした。  完璧な営業成績、完璧な外見、完璧な生活。  でも、マスクの外し方も分からない、ドジな女性。  そういえば、変身してからずっと体のあちこちをぶつけていた。  右足のすねはリビングテーブルの角にぶつけた痛みがまだ残っているし、腰の左側はソファの肘掛けにぶつけた跡がじんじんと痛む。  膝もカーペットの端につまずいた時に打った痛みがある。 「私って、こんなにも不器用だったんだ…」  冷蔵庫に背中をぶつけた時の鈍い痛みも思い出した。  ベッドに手をついた時の手首の痛みも。  アルメリアとして美しくポーズを取ろうとして、結局は体のあちこちを打撲している。  撮影中に身体中色んなところをぶつけたせいで、まるで満身創痍。  でも、その時は夢中すぎて気づかなかった。  今になって痛みが蘇ってくる。  鏡で自分の体を確認してみると、確かに数カ所に赤い跡が残っていた。  完璧を演じようとして、実際はドジで失敗だらけ。  それが本当の川島亜美だった。 「昔から、実は超ドジなんだから…分かってったでしょそんなこと…最初から」  三十六年間、完璧でいなければいけないと思い込んでいた。  でも、本当の自分はこんなにドジで、不完全で、でも愛らしい存在だったのかもしれない。  女性として、完璧さを求めすぎていた。  美しさも、仕事も、生き方も。  でも、完璧じゃない自分の方が、ずっと人間らしくて、魅力的なのかもしれない。  アルメリアになることで、逆に本当の自分が見えた。  偽りの完璧さから解放されて、素直な自分と向き合えた。  アルメリアのマスクを胸に抱きながら、窓から東京の夜景を見つめる。 「もう一度、一から頑張ってみよう」  完璧じゃない私でも、きっと誰かと仲良くなれる。  ドジで、不完全で、でも一生懸命な私で。 「アルメリアは私のもう一つの可能性…時々会いに来よう」  アルメリアとして過ごした時間は、決して無駄ではなかった。  美しくなりたい、愛されたい、特別でありたい。  女性としての根源的な願いを、アルメリアが叶えてくれた。  でも、それは一時的なものでいい。  本当に大切なのは、川島亜美として、素直に生きること。 「明日から、新しい川島亜美として生きてみよう」  三十六歳の女性の新しい出発。  完璧主義を捨てて、ありのままの自分を受け入れる勇気。  アルメリアが教えてくれた、本当の美しさ。  月明かりが差し込む部屋で、亜美は静かに微笑んだ。  アルメリアのマスクを大切に箱にしまい、新しい人生への第一歩を踏み出す準備をした。  女性として、人間として、本当の自分を愛することから始めよう。  完璧じゃなくても、愛される価値のある人間として。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  別の日の夜、再び亜美はアルメリアに変身していた。  最初の失敗の日から何度か着用し、着ぐるみの姿には徐々に慣れてきた。  マスクでの呼吸も上手になったし、狭い視界での移動も慣れてきた。  今では二人の自分と共存する生活が馴染んできている。  でも、慣れたとはいえ、相変わらずドジは治らない。  今日も変身の途中で、肌タイツの足先部分がうまく履けずに片足でバランスを崩し、壁にもたれかかってしまった。 「あ、危ない…」  ドレスを着る時も、袖に腕を通そうとして逆の袖に入れてしまい、しばらく腕が動かなくて焦った。 「あれ?腕が…どうして動かない?」  それでも、そんな失敗も含めて楽しんでいる自分がいる。  以前の完璧主義の川島亜美だったら、こんな小さな失敗でもイライラしていただろう。  でも今は、失敗すらも愛おしく思える。 「はぁ〜〜〜」  大きなため息をつきながらも、その表情には微笑みが浮かんでいる。  川島亜美として転職活動をする日々と、アルメリアとして美しく過ごす時間。  どちらも大切な自分の一部。 「今日はベランダに出てみようかな」  思い切って、アルメリアの姿のままベランダに出てみることにした。  ガラス戸をそっと開けて、二十五階の高さから東京の夜景を見下ろす。  都会の風がマスク越しに入ってきて、なんだか清々しい気がする。  冷たい夜風が肌タイツの上から肌に触れ、アルメリアとして外の空気を吸うことの新鮮さを感じる。 「きれいな夜景…アルメリアの目で見ると、いつもと違って見える」  東京タワーの赤い光、高層ビルの窓に灯る無数の明かり。  マスクの狭い視界から見る景色は、まるで額縁に切り取られた絵画のように美しい。 「これでいいんだ」  川島亜美として完璧を求めていた頃とは違う、穏やかな満足感。  アルメリアとしての時間も、川島亜美としての時間も、どちらも自分らしい時間。  暫く夜景を眺めた後、満足して部屋に入ろうとした時、部屋との境界にある小さな段差に気づかず、つま先を引っかけてしまった。 「あっ!」  バランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。  咄嗟に体を捻って、何とかマスクだけは強打せずに守ったが、左膝と左腕は床に強く打ちつけてしまった。 「痛った〜〜い! はぁ...」  左膝をついたまま、しばらく動けずにいる。  左腕も床に打ちつけた痛みでじんじんと痛む。  でも、マスクは無傷だった。  アルメリアの美しい顔は守られている。  アルメリアはゆっくりと立ち上がって、窓をそっと閉めながら、マスクの中で笑った。 「まぁ、相変わらずか... 私だもんね…」  ドジな自分への愛おしさ。  完璧じゃない自分への受容。  それが今の川島亜美、そしてアルメリアだった。 「あぁもう痛い!」  でも、その痛みも含めて自分なのだと思える。  転んでも、失敗しても、それが自分らしさ。  アルメリアとして美しくても、川島亜美としてドジでも、どちらも愛すべき自分の一部。  左膝と左腕をさすりながら、亜美は心から笑った。  完璧主義だった頃では考えられない、失敗を愛おしく思える自分がいる。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「エピローグ 新しい自分への第一歩」  一週間後、亜美は近所のカフェで一人の女性と向かい合っていた。  転職エージェントの佐々木さん。  四十代の女性で、温かい笑顔が印象的だった。 「川島さん、前職での経験は素晴らしいものですね。でも、なぜ急に方向転換を?」  亜美は少し迷った後、正直に答えた。 「自分を変えたくて。完璧じゃない、でも人間らしい自分で働きたいんです」  佐々木さんは理解のある表情を浮かべた。 「分かります。女性として、人生の後半戦は自分らしさが大切ですものね」  亜美は微笑んだ。  自分らしさ。  それがどういうものか、ようやく分かった気がする。 「私、実はとてもドジなんです。完璧に見えるかもしれませんが、基本的なことでよく失敗します」  佐々木さんは笑った。 「それも魅力の一つですよ。完璧すぎる人は、かえって近寄りがたいものです」  帰り道、亜美は自宅のマンションに向かって歩いていた。  以前と同じ道だが、心境は全く違う。  アルメリアのことを思い出す。  美しく、神秘的で、愛らしい存在。  でも、それは川島亜美の一部でもある。  完璧を求めすぎていた自分から、素直な自分への変化。  自宅に戻ると、アルメリアの衣装が丁寧に保管されている。  また会いに来よう。  でも今度は、川島亜美として自信を持って。  鏡を見る。  三十六歳の女性。  完璧ではないけれど、美しい。  これまでとは違う種類の美しさ。  内面から輝く、人間らしい美しさ。  スマートフォンに、転職エージェントからメッセージが届いた。 「川島さんにぴったりの案件があります。NPO法人での広報担当。完璧さよりも、人間性を重視する職場です」  亜美は微笑んだ。  新しい人生の始まり。  窓から見える東京の夜景は、以前と変わらない。  でも、それを見つめる自分は確実に変わった。  完璧な孤独から、不完全な充実へ。  女性として、人間として、本当の意味で美しく生きること。  アルメリアが教えてくれた、人生の新しい章が始まった。 【完】

アルメリア〜新しい自分〜【1話完結:FANBOX限定】

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