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“東凶魔京”「討魔部隊」前編


「ようこそ、新人諸君!我々は君たちの勇気と使命感と、そして犠牲心に敬意を以って歓迎しよう!本当に、よく来てくれた」


並居る若者たちは緊張した面持ちで、壇上に立つ者の言葉を聞く。

幾つもの死線を渡ったであろう歴戦の猛者であることは眼光が物語っている。

「さて、これから妖魔共と戦っていく諸君に、ぜひ聞いておいてほしい逸話を、これから語ろう。長くなるぞ。だが、決して眠くはならないから安心しろ。言っておくが…これは武勇伝ではない」


かつて最強と呼ばれた退魔師の実戦部隊があった。

“百体の妖魔を瞬く間に殲滅した”や“鮮やかな連携で巨妖をハントした”など、数えあげればキリがないほどの武勇伝を築いた彼らが最後に紡いだ逸話は、耳を覆いたくなる惨劇だった。


最悪の一日の始まりは、穏やかな陽光に迎えられて始まった。

ベッドから這い出て、コーヒーをカップに注いで、鏡に向き合うと、そこには艶やかな長い黒髪を裸体に纏った美女が映っている。その口元は抑えきれない高揚から綻んでいた。

彼女の名は、不動遼子。いまや関西に国家の中枢を移した日本政府が擁する機関、その実働部隊の隊長である。


本日、彼女の部隊は上層部より命じられた重大な任務を遂行する。

その準備として数日前より、人類が妖魔に対して維持している文明の境界線、その少し手前の前線基地に寝泊まりしていた。


「隊長、お目覚めでございますか…わぁああッ!!」


ドアを開けた隊員が、遼子の裸体を目撃して狼狽えた。

「おはよう藤崎。いい朝だね」

対して、遼子の方は何恥じることなく凛としている。

「あの…その…」「入るなら入りなよ」

隊長に促されて、藤崎と呼ばれた少女のような隊員はいそいそと入室した。

支給された戦闘用スーツに袖を通しながら、遼子は少しづつ身体を解していく。


「藤崎も入隊してもう三か月か。部隊には慣れた?ウチの隊はバカ揃いだから、なじむのに苦労したろう?」

「ハイッ!…あ、“ハイ”というのは慣れたということに対してでして、皆さん隊長をはじめ優しい方ばかりでー…ッ!」

「ぷっ…ハハハッ可愛いな、お前は!」遼子は、二回りは低いその頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。

「…隊長、嬉しそうですね」

「わかる?今日は待ち侘びた日だからね。藤崎、すまないけど、その足でアンソニーと川地も起こしに行ってやってくれない?あいつら集合に、いつもビリ争いするから」

一度置いたコーヒーを手に取り、遼子は啜る。

「あ…あの、大変申し上げにくいのですが、隊長が最後です。きっと、興奮してなかなか眠れず、寝坊してるだろうから起こしてこいって、副長が…」

「ブッ…!」遼子は飲みかけのコーヒーを吹き出した。


副長以下全員が揃った基地前広場に、遼子は何事もなかったように姿を現す。

心なしか顔が紅潮していた。ささやかな笑いはあれど、責める声は皆無だった。

「えー…諸君。よく眠れたか?」笑い声が増した。ひとつ咳払いをして、遼子は眉を吊り上げた。

「仮にこの中に寝坊した者がいたとしても無理もない。今日は楽しい“ピクニック”だからな!」

笑い声がそろそろ失笑に変わり始めたようだ。

「まぁ、冗談はこのくらいにして、わたしたちの任務を今一度確認しておこうか」


遼子たちのチームに下った指令は、政府のかなり上層部から発せられたものだ。

その内容は、廃墟となり、妖魔の巣となったあるドーム型スタジアムでの掃討作戦だった。

そう、ただの“掃除”。同様の経験は過去に幾度も積んでいる。

しかし、遼子はこの任務の重要性を理解していた。

件の施設の地理的条件を鑑みれば、この場所の奪還が戦略的に非常に重要な意味を持つ。

もちろん相応の抵抗が予想されるが、わたしたちならばそれができる。

今日に至るまで幾多の修羅場を超えてきた自信と自負が、彼女には、彼女たちにはあった。

人類の未来を切り開く使命感、約束された栄誉、固い信頼で結ばれた仲間。当時の遼子は満たされていた。

それ故に盲目となっていたのだ。自らが地獄へと足を向けていることに、気づかなかった。


地下通路を慎重に進む遼子は、“適度な緊張”を以ってことにあたっていた。ここまで戦闘はなし。

「随分とすんなり来れましたね、隊長」藤崎がそっと話しかけてきた。

彼女の言う通り、作戦は前例がないほどスムーズに進行していた。

「別働隊の手引きによるものだと聞いてるよ。……着いた。ここから先は甘くない。諸君、気を引き締めていけよ!」「イエッサー!!」

遼子たちの前に、大型のリフトが現れた。調査によれば、これはドーム内、妖魔の巣のど真ん中に直通してるらしい。

その先はパーティだ。低級妖魔どもが応戦する態勢を整える前に一掃してしまえばいい。

「さぁ、行こう!!」

遼子たちは知らなかった。その指令が、本来の手続きを踏まずに秘密裏に下されたものだと。

遼子たちは知らなかった。政府の上層部に、妖魔と結託した勢力があることを。

遼子たちは知らなかった。この“作戦”の標的が、彼女たちの方であること。

そして、ここに巣食っていたのが数百の低級妖魔などではなく、魔人と呼ばれる強大な妖魔と、それを観戦する数万のその同胞だと。


「何…だよ……コレッ」副長が零した言葉が、チームの総意だった。

誰の目にも明らかだった。奸計に掛かったのだ、と。ここへ来たリフトは何をしても戻ってはくれない。

「……くッ!…変わらない!わたしたちは妖魔掃討の任務で来たんだ!この数万の妖魔どもを滅ぼして、人類に大きな前進をもたらそうじゃないか!!」

遼子は隊を鼓舞したが、虚勢なのは彼女自身わかっていた。


遼子たちは二十四名、対する妖魔はリング上にはわずか五体だった。観客席の低級妖魔たちは、あくまで静観を決め込むつもりなのだろ

皮肉にも、こちらの放った銃声をゴングとして、“公開処刑”は幕を開けた。

最も近くにいた一つ目の巨人型妖魔に、隊員たちは銃弾を浴びせた。

妖鬼や豚鬼などの低級妖魔なら一瞬で肉片になる弾幕を、巨妖はものともせずに、アンソニーと川地を踏み潰した。

距離をとった他の隊員の背を、ローパー型の妖魔がドリル状の触手で穿つ。また三人が斃れた。

歴戦の勇士があっけなく散っていく。

隊でも遼子に次ぐ実力者といわれたボブが、“五体”の妖魔に袋叩きにされていた。いつの間にか客席から乱入したらしい。チーム1のタフガイだった彼が動かなくなった。それでも原型を失くすまで殴り続けた。

攻撃の手を止めて背中合わせになり、全方位を警戒していた隊員二人が、尋常ではない速度で首に巻きついた生殖器状の触手に宙づりにされ、そのまま息絶えた。

白いゲル状の妖魔は、銃撃も斬撃も吸収し、ついには五人の隊員を飲み込んだ。

二匹目の巨人型妖魔が、四人の隊員を腕で薙ぎ払い、観客席へと飛ばした。彼らは群れの中に姿を消し、戻ってはこなかった。


最後まで奮闘し続けた副長が斃れたとき、遼子たちはその意図に、底知れない悪意に気づいた。

生き残った…否、生き残らされた隊員は、全員女だった。

「くッ…そういうことか」

「た、隊長ぉ…」「不動さん…!」藤崎が、皆が、身を寄せ合った。

本当の“公開処刑”は、ここから始まる。



昏き空に赤月が座す。今宵は円を満ちたりし夜。妖魔が最も昂ぶる刻。

幾万の飢えた衆目の中、七人の女人を囲う宴の供物として十七人の憐れな男たちは血肉となった。

遼子たちはまだ五体満足だが、果たして半刻後でさえ命があるかわからない状況だ。


遼子は思考を巡らせる。失った部下はもう戻らない。

ここに居並ぶ次元違いの妖魔たちに、一矢報いることすら困難を極める。

ならば、この七人…いや、場合によっては自分が盾となってでも、彼女たち六人を生還させる!

それが隊長たる自分の務めだ!


「皆、よく聞いてくれ!これからわたしたちは、新たな作戦に移行する!!」「えッ!?」「隊長!?」

こんな状況で何ができる。隊員たちの顔は雄弁に語る。

「…生きて、この場を離脱する!勝算はある。奴らはわたしたちの身体をオモチャにしたがっている。

故に攻撃を加減せざるを得ない。そこにつけ込む!ここは元々は人間の施設だ。必ず歩いて出られるルートがあるはずだ!

何か異存はあるか、皆!!」

「ッッありません!指示を!!」

「上級妖魔は相手にするな!観客席の低級妖魔だけを蹴散らして、通路へと出る!わたしが殿を務める。鷹山。君が先導してくれ!」

「了解ッス、隊長!!」

鷹山と呼ばれた、アサルトライフルを構えた青毛の隊員が応える。

「皆、行くぞ…3…2…1…GO!!」


遼子の合図で、全員が行動に移った。

「オラオラァッどけ、お前らぁ!!」ドパラララッ

手筈通り、鷹山が弾幕で活路を切り開いていく背後を、他の隊員が援護しつつ続いていく。


「わぁああッッ!!」

ワンテンポ遅れて走り出した藤崎の背に、性器の形状の触手が伸びる。

ギィンッッ! 「!?」

彼女の身に届く前に、硬質な激突音とともに遼子の剣に弾かれた。

「ちっ…ぶった斬るつもりだったのに。けど読み通り、さっきより数段遅い。いけるな」

「隊長、ありがとうございます!」「礼はいい。急げ、藤崎!」


遼子に庇われながら、藤崎が他の隊員たちに追いつけた。

数万という妖魔は殲滅を考えれば絶望的だが、低級妖魔だけを相手取れば、一点突破はさほど困難ではない。

通路の入り口を固める十体ほどの妖鬼を鷹山たちが吹き飛ばし、空間ができた。

追撃を幾度も打ち払いながら、遼子も皆に追いつく。


「那須ッ!全員いるか!!」

ポニーテールの那須と呼ばれた隊員は、藤崎や鷹山をはじめ、即座にメンバーを把握した。

「…隊長。一人…足りません」「なっ!?」

「きゃああああッ!!」

絹を裂くような悲鳴が、スタジアムの中央より響いた。

六人の見遣った先に、欠けていた一人の女性隊員が、巨躯の妖魔に高々と掲げられていた。

「そんな…!」彼女がどのタイミングで捕らわれたかわからない。

しかし、そんなことは問題ではない。ひとつ確かなことは、…彼女はもう助けられない。


「ひぐ……ッ!!」

眼下に待ち構える巨大な肉棒に、隊員は恐怖する。訪れるであろう筆舌に尽くしがたい苦痛に。

彼女はハンドガンの銃口をこめかみに押しつけた。

「よ……ッッ」“よせ”という言葉が、遼子の口から発せられる途中で呑み込まれた。その言葉は正しいのだろうか。


バキィ…ッ「!?ッ…ぎゃあああッ!!」

しかし、引き金が引かれるより先に、妖魔の手が彼女の肩を砕いた。

自決などという選択を赦すつもりは、妖魔たちにはないらしい。

自らの命を絶つ手段を失った隊員が、遠い距離から遼子に視線を送ってきた。口元では何か言葉をつくっている。

「ッッッ~!!」「隊長…」その意味は、充分に伝わっている。

「…撃ってやってくれ」「了解…しました」

辛そうに顔を歪める遼子に命じられ、那須はライフルの標準を彼女の眉間に合わせ、撃ち抜いた。

ガクリと頭を垂れる彼女を、巨人は少しの逡巡の後、観客席へと投げ棄てた。

すでに骸と化した彼女に、低級妖魔たちが群がっていくが、遼子たちの場所からその様子はもう見えなかった。

「……行こう、皆」「………」

無言で、一同は通路へと駆け降りていく。


退路がお膳立てされてるはずもなく、そこにも妖魔どもは犇きあっている。

観客席に入れず割りをくっていた連中は、生きて“処刑場”を抜けてきた驚きはあったものの、すぐに本能に従い遼子たちに襲いかかってきた。

「グブブブッ 美味シソウナ女ガコンナニイ…グェ!?」ドブチャアッ

喜色満面だった豚鬼が、鷹山の放つ銃弾でミンチとなる。

「そういうお前の肉は不味そうだな!」

ペッっと、その死骸に唾を吐き捨てて、鷹山は一顧だにせず通り過ぎる。

精鋭たる彼女たちが、低級妖魔に対して戦力的に劣るとすれば、それは絶対的な数の差だ。

つまり、同時に投入できる頭数が限定される狭い通路では、遼子たちは質的優位に立てるのだった。

ただし、条件による…。


「くッ…!」「マズいなッ……」

鷹山と遼子が同時に呻いた。藤崎や那須ら他の隊員も、露骨に顔を曇らせる。

彼女たちの征く先の照明が落ちている。夜を活動の中心とする妖魔に、暗闇は好ましい。

そもそもなぜ、電力がこの施設に供給されているか、という疑問があるが、今はそれどころではない。

「暗視ゴーグルは持ち合わせてないから、発炎筒を使う!銃器は仲間に誤射する危険があるから使うな。ここはわたしが先導するから、皆続け!」

「了解、隊長!」

懐から取り出した発炎筒を遼子が着火して放り投げると、シュー…という音と僅かな煙を伴い、通路の構造と妖魔の醜い顔が照らし出された。

「十匹…問題ない。行くぞ!!」「はい!!」


闇に紛れる間を与えず、遼子は妖魔どもを剣の錆にしつつ、活路を切り拓いていく。

一本目の効力の及ぶギリギリで二本目を使用、同様に進軍していく。


三本目を使用した直後、後方で悲鳴が上がった。

「きゃあぁぁぁ……ッッ!!」「なッ!?」

その声は遥か彼方に遠ざかっていく。一瞬だけ視認できた光景。

隊員の一人が、性器を模した触手に足首を絡め取られ、引き摺られていく様。

「う…わぁあああッッ!!」

彼女と特に仲の良かった別の隊員が、銃を乱射しながら逆走を始めた。

「!!ッ戻れッ!!命令だッッ!!」

遼子の制止も聞かず、彼女は突撃をやめず、闇の中に消えていく。

響き続ける銃声だけが、彼女の健在を告げている。

「ッッ~!!」「…行きましょう、隊長!彼女が“殿を務めている”、その間に…」

「那須ッ!?お前……ッ!」「……それ以外に、わたしたちにできることはありません」

那須の頬を涙が伝っていた。遼子はもう何も言えず、走り出した。


「うぅ…えぐ…ッ」「泣くな藤崎ッ!前見ろ…!」

「だってェェ…鷹山ぜんぱい…!皆…皆、もういないんですよッ!!アンソニーも川ちゃん先輩も、副長もボブさんも…皆…ッッ!!」

二十四人の大所帯だった第一小隊も、今や遼子と藤崎、鷹山と那須の四人だけ。

戦いの中、互いに命を預けてきたチームのメンバーは、家族同然だった。

今朝までの楽しい時間は、永遠に帰っては来ない。

「どうして…どうして、こんなことになっちゃたんでしょう…?」「………」

その問いに、鷹山は答えられなかった。


いつしか、背後の銃声が止んでいた。しかし、追手の気配はない。

それどころか、前方からの妖魔の出現も途絶えていた。

「!…見えてきた」暗闇が終わり、光明が差す。もう発炎筒も不要だ。

恐らくはロビーへと通じている扉の手前で、不吉なものを聞く。

歓声だ。この向こうに確実に妖魔がいる。

「?」しかし解せない。奴らは何に騒いでいるのか。

意を決して扉を蹴り開けた遼子の目に入ってきたものは、先刻闇の中で別離した二人の隊員の姿だった。


それは巨大なモニターの中の光景だ。この施設に電力が供給されていた理由を雄弁に語る。

『ふぐぉ…もぐぇッ…ゴボェェッ!!』『ひぃ…ッッ!!』

先に連れ去られた隊員が、彼女の親友の横でまさに処刑されいた。

宙に吊られた彼女の身を、触手が抉っている。

その浅黒い色相は人間の肌に近く、実際にそれは、人間の姿をした妖魔の股間から延びていた生殖器そのものであった。それも二本。

片方は肛門から、もう片方は口から彼女の身体に侵入を果たし、延々と掘り進んでいた。

『ッッッご…!?』

消化器官をボコボコと盛り上がらせ、やがて中心で交差したそれらは、二つの出口へと向かっていく。

『ッッッ………!!』この辺りからすでに、彼女は呻き声も発しなくなり、激しい痙攣を起こし始める。

ズボォッグボォッ 『…ぅ……ッ』

肛門と口の双方から身体を貫かれた瞬間、短い断末魔をあげ、彼女は二度と動かなくなった。


『い…いやぁ…いやぁああああ!!』

親友を失った悲しみと、これから自らの身に起こることへの恐怖。それらがブレンドされた悲鳴。

妖魔たちの歓声が一際大きくなった。交代した処刑者は、ローパー型の妖魔だった。

ドリル型の触手が、親友同様宙に縛りつけられ、脚を大の字に開かれた彼女の中心に狙いを定める。

ギャルルルルルル……ッ

『うそ…うそぉ…うそうそうそうそうッッ!!』

ズブブブブッブチブチブチィッ! 

『うぎゃああぁアァアッッ!!』

回転を伴った螺旋状のコブを持つ太い触手が、彼女の秘部を一気に最奥まで貫き、尚も内部を掻き回し続ける。

耐えられるはずもない。彼女は、あっけなく…あまりにもあっけなく絶命した。

二人の亡骸がリングの中央に落とされると、観客席の低級妖魔が枚挙してあがってきた。

まだ手つかずだった孔さえも、下賤な妖魔どもに抉られていく。

亡き後においてさえ、彼女たちの身に安息はないのだ。


遼子たち四人は、ただ茫然と、その陰惨な光景に目を奪われていた。


「……」遼子は無言のまま、剣の切っ先を持ち上げていく。手近にいた一匹の妖魔の首を撥ねた。

己の身に起きた事態に不覚のまま、下卑た笑顔の獣面が転がる。

更に続けざまに、三、四匹を屠殺する遼子。

「ブゴッ!?」

享楽に酔いしれていた妖魔どもがようやく彼女たちの存在に気づいた。

だが、所詮は統率すらされてない低級妖魔の群れ。大した障害にはならない。

「うわぁあああッ!!」ドパラララッ

感情を剥き出しにした藤崎は、すでに絶命している妖魔にも執拗に銃弾を浴びせる。

その姿は遼子たちでさえ、初めて見るものだ。

「ハァ……ハァ……ッ」「藤崎、もういい!」

鷹山に促がされて、藤崎は遅まきながらロビー内の敵勢力の排除を知る。

最後に那須がモニターを撃ち抜き、静寂が訪れた。


「…皆、集まってくれ」「………」

遼子を囲う三人の隊員の表情は、いずれも憔悴と沈痛に彩られていた。遼子とて同じだ。

「!?ッ…隊長!!」「すまないッ!!全てはわたしの責任だ!!」

遼子は部下たちの前で、妖魔の血肉で汚れた床へと平伏した。

それは指揮官として見せてはいけない姿だ。

「顔を上げてください隊長!」「オレらは嵌められたんだよッ!!」「やめて…ください」

「敵の奸計にかかり、むざむざ部下を死なせ、今も君たちの命を危険に晒している!自分の無能が恨めしい」

「隊長…」

重い沈黙が包む。その数秒とも数分とも知れぬ時間。

再び立ち上がった遼子の顔には、悲壮な覚悟が滲んでいた。

「隊ちょ…」「鷹山、何も言わないでくれ」「……」


「…この後の作戦を伝える。ロビーにまで進んだわたしたちを、妖魔どもは追撃してこない。恐らくは、施設の外にも奴らがいるからだろう」

「ひぃ!」

「藤崎、怖がらなくていい。血路はわたしが開こう!…“これ”を使う」

「?…なんですか、それは」

遼子の手には怪しい丸薬が握られていた。

「諸君が知らないのも無理はない。政府のある機関で開発段階の、妖魔どもに対抗する力を得られる秘薬だ」

「ま、まさか妖魔になったりするんですかぁ!?」藤崎がとんでもないことを言う。

「むしろ逆だな。人間の本来持つ運動能力や反射神経、情報処理能力をほぼ100%引き出す。ただし、相応のリスクがある。効果が極めて短時間で、しかも反動で三日はまともに動けなくなる。実用化にはほど遠い代物だ」

「な……!?」

「戦わずにひたすら走れ。地下道に入り、ここへ来たルートへと戻り、逆行して帰還しろ。わたしが可能な限り時間を稼ぐ!」


遼子はロビーを歩きだし、入り口の手前で三人に振り向く。笑っていた。

「那須、指揮権を君に移譲する。必ず三人で生還してくれ。鷹山、二人を守ってくれ。藤崎、もっとしごいてやりたかったよ。……今日までありがとう、皆」

「ぐす…」「何…言ってんだよ…!」「隊長ぉ~…ッ」「…さぁ、行こう」


淀んだ空の下へと出る遼子。続く三人の隊員の目が驚愕に開かれる。

遊技場にて男性隊員たちを殺戮したものと同じ存在。

単眼の巨妖と、幾体かの上級と思しき妖魔たち。そして低級妖魔の群れ。

遼子は凄絶な笑みを浮かべた。わたしの最期にふさわしい。

「さよならだ」「!!」

丸薬を口に放り込み、嚥下の音が自らの耳に届く。ドクン…と、心臓が脈打つ。

次の瞬間、遼子の身体が消えた。爆発的な跳躍を成した遼子が、巨妖へと斬りかかる。

彼女の身の丈より大きな掌が刀身を受け止めるが、衝撃を殺しきれず、巨躯を後方へと傾かせ転倒した。

低級妖魔が何十匹と下敷きになり潰れた。

返す刀で放たれた突きが、不定形の妖魔を飛び散らせ、その背後の弩鬼に風穴を開ける。

高速でのばされた鋼の触手を、そのすべての動きを捌き、幾本かを断ち切った。

鬼神の如き奮闘を見せる遼子の横を、三人の隊員が駆け抜けた。

その姿を満足げに見届けた遼子は、妖魔どもと隊員たちの間に立ち、追撃を塞ぐ盾となる。

「何匹でも…道連れにしてやるよ!」

命寸分でもある限り、戦い抜いてやる…!


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さて、今回は回想録となる、遼子さんの過去のエピソードです。

教官が冒頭で触れたように、メタ的には「何が」起きたかはわかってしまってるわけですが、「どのようなことが」起きたかはわからない、という新米隊員たちと同じ視点で見ていっていただけたらと思います。

改めて紹介します。遼子さんの部下、左から那須・藤崎・鷹山です。

前編ではまだ元気な彼女たちですが…。



「特務部隊"HEAT”」


Hazard Extermination Assault Team=災害駆除強襲部隊。通称ヒート。

都市部における妖魔犯罪や事件の所謂"イビルハザード"の制圧殲滅を任務とする、

近接戦闘術と各種小火器を使いこなすCQBのエキスパート。

市街地における妖魔の拠点制圧における強襲任務では図抜けた実績を誇り、

一小隊で妖魔に占拠されたビル一つを制圧できるとすら言われる程の戦術的戦闘力を持つ。

対象を殲滅駆除するのに一切の容赦は無く冷徹冷静に任務を果たす。

数々の功績を残してきたHEATだが、妖魔にとっては憎むにありあまる敵でもあるために、最精鋭で知られた不動遼子が隊長を務めていた第1小隊は、妖魔の罠にかかり全滅させられている。

現在は第2小隊しか残っておらず、結果妖魔駆除に関して民間への依頼が増えることとなった。



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