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【先行公開(本番描写なし冒頭部分)】家出少女がお嬢様との百合拘束プレイにどっぷりはまってしまうお話し(序)

 現在執筆中の作品の冒頭部分だけ書き終わったので、先行投稿します。


 内容的にはタイトルの通り、家出少女とお嬢様の百合っぷる(拘束プレイ)ものです。が――まだ本番描写ないです。

 このあとに本番描写なります!

 

 登場キャラクター(現在二名のみ)

 

 東雲小鳥(しののめことり)16歳

 本作品の主人公であり、ヒロイン。

 性格は穏やかで真面目。

 周囲の空気を読むことはできるが、合わせることは苦手。されど、気持ちが昂ると大胆になることも。

 基本何をやってもうまくいかない。と思い込んでおり、自分の世界に入りがちで、強い劣等感を持っている。

 なのに、行き場のない感情を吐き出せるほど信頼のおける関係がおらず、家では、やることなすこと否定してくる両親との関係が最悪で、学校ではクラスメイトと馴染めないまま過ごしていた。

 そして、地元での生活に嫌気がさした結果。家出をする。

 髪は黒のショートボブ。

 背は若干低め、朝の運動は心掛けているからか引き締まったスタイルをしてる。

 胸はそこそこある。

 

 夜桜さゆり(よざくらさゆり)15歳

 本作品のヒロイン。

 性格は天真爛漫に似たところがあるが、つかみどころはない。

 大人びているようで時折こどもっぽい無邪気さが言動の節々に垣間見える。

 周囲の空気を読むことはせず、自分のペースを強く持っている。

 そのため、周囲から疎まれたり、避けられたり、と畏怖の対象として見られることが多い。

 それでいて本人は、他人のためになら手を伸ばしてしまう悪い癖があり、執拗に困っている人を助けたがる。

 また、それとは別に気に入ったものを自分のものにしたがる独占的な欲求をもっており、性癖はアブノーマルに歪んでいる。

 セミロングに切り揃えた髪は桜色に染めており、毛先には軽いウェーブ状のパーマをかけている。

 周りよりも成熟が遅く、まだ未成熟なため背は低い。

 腕や太ももなども細くて、服を脱ぐと華奢なのがわかる。

 ただし、胸だけはそれなりにある。


―――――――以下本文―――――――――――――


 高校二年生の始業式の日。

 私——東雲小鳥(しののめことり)は、家出をした。

 理由は、特になかった。

 ただ、なんとなく。この世界から、遠いどこかに飛び出してしまいたい、消えてしまいたい。と——そう思った。

 だから、勉強道具の代わりに今まで貯めてきたお小遣いや身支度品をスクールカバンにできるだけ詰めて、家を出た。


 学校指定の制服のまま電車に乗って、流れゆく景色を眺めたり、適当なバスに乗って、隣に居合わせたおばあさんと他愛もないお話をしたり。

 時間と景色だけが移り変わっていく中。立ち寄ったコンビニで、おにぎりとお茶を購入し、誰もいない公園のベンチで黄昏れるように星を眺めては、野宿をした。


 誰に頼ることもなく、自分の好きなように。ただ、自由気ままに。目的地も決めないまま、ひとりぼっちの旅を続けた。


 そして、路銀が尽きるころ。

 自分の生きていた世界が、ちっぽけな場所だったのだと知った。

 

 たどり着いたのは、この国で一番栄えている都心。

 そこには、色々なものが溢れていた。

 人も、物も、社会という現実も、何もかもがくだらないほど溢れていたのだ。

 

 どこに行っても、人の波。

 どこを見ても天高く聳え立つ建物がある。

 人が人として生きていくために環境を破壊してまで作り上げた理想郷が延々と広がっている。


 そんな社会に生きている私一人の存在など、ただただちっぽけでしかなくて、田んぼと畑ばかりが広がっている地元に住んでいたことも、学校という狭いコミュニティーの中で将来について考えていたことも、何もかもどうでも良く思えてきた。

 

 所詮、私が何を思い、何を感じとり、何を成し遂げたところで、この社会や世界にとってはどうでもいいことに過ぎないのだ。

 テレビや新聞、ニュースにラジオ。学校やクラスメイト。家族に友達。隣に住むおじさんやおばさん。

 世間では、常識という意味の分からないみんなの意見が飛び交っているけれど、それらすべて他人の言葉や他人の主観から生まれた答えにしかすぎない。

 どれもこれも私が決めたことじゃないし、私が選んだものでもない。

 私とは何一つ関係のない他人の意見、他人の考えでしかなかったのだ。


 それならば、自分の思うように、好きなこと——興味の湧くことに手を付けたほうが何倍も楽しく生きることができるのではないだろうか。

 今現在の私がこの場所にやってきたように。

 後のことなど何も考えず、今できることにだけ意識を向けて行動に移してみるのもいいのではないだろうか。

 その一つ一つの行動が今後の私を形作っていくのだとしたら、それは私にとっての大切に――私が生きる理由に繋がっていくのではないだろうか。


 そう、考えがまとまった瞬間――お腹が鳴った。

 今日はまだ何も口にしていないから、身体が栄養を求めているらしい。

 とはいえ、ここに来るまでにお金を使い果たしてしまった。

 食べ物を買うには、お金が必要なのに、そのためのお金を私は使い果たしてしまった。

 

 ……どうしよう。

 どうやって、お金を手に入れよう。


 何も考えていなかった。

 だって、この旅路の果てで死のうと思っていたのだ。

 先のことを考えないのは当然だろう。

 だったら、やっぱり死ぬしかないんだろうか。


「ねぇ、きみ。一人?」


 とにかく、ここにいても仕方がない。

 もう少し人の少ないところに行ってから、どうするか考えよう。


「ちょっとちょっと、無視しないでよ!」


「え……?」


「あ、やっとこっち見た!」


 肩をトントンと叩かれて、咄嗟に振り向いた先に私の顔をほほえましい笑顔でのぞき込んでいる同い年くらいの女の子がいた。

 同い年といっても、彼女の服装が私と同じように制服を着こなしているから外見的にそう思っているだけであって、実際に同い年かどうかはわからない。

 というか、どうして声を掛けてきたのだろう。

 その理由が全く分からなくて、身を小さく引いてしまう。


「あのね、ちょっと困ってるように見えたから声を掛けたんだけど。もしかして、道に迷ってたりする?」


「別に。道には迷ってない……けど」


「あ、あれ……? そうなの? じゃあ、わたしの勘違いだったみたい。声かけちゃってごめんね。邪魔しちゃったね」 


 彼女の問いかけに私が淡々と答えると、彼女は端麗に整った顔を七色に輝かせながら、少女らしい華奢な身体つきで身振り手振り頭を下げてきた。

 そして、桜色の艶やかなセミロングの髪を揺らしたあと、微かに漂う桜の香りをその場に残して、立ち去ってしまう。


 それが納得いかなかったのか。

 ただ、彼女に興味が湧いたのか。

 私が何を感じていたのかわからないけれど。


「ま、待って! お願い……っ、助けてほしいの!」


 今までの人生で出したこともないくらい大きな声で背を向けて歩き出した彼女を呼び止めていた。

 おかげで、彼女だけでなく、周囲の人たちまでも足を止めて、何事か。と私のほうを見てくる。


「え、た、助け……? 助けてほしいって……?」


「え、えと、その……っ」


 それらの視線が気になって、次の言葉がでてこなかった。

 ただ単にお金を貸してほしい。という話なんだけれど、こんな人前でそんなにも慇懃無礼な発言をしていいものなのか。

 自分の倫理観というプライドが邪魔をして、喉元に吐き気が込みあがってくる始末だ。


「こっちきて」


「あ——」


 行動に移そうとしない私を見かねてか、彼女は私の手を無理やり取ってその場から私を連れ出してくれた。

 まるで、少年漫画の主人公みたいな行動に、彼女は善人なのではないか。と私の勝手な憶測で彼女の人間性を決めつけてしまいそうになる。

 人には表と裏の顔があるというのに。

 

「ここなら、少しは落ち着けるでしょ?」


「う、うん。ありがと」


「どういたしまして」


 連れてこられたのは、駅近くにある公園のベンチ。

 平日だというのに、子ども連れの親が何人もいて、わいわいとはしゃぐ子ども達の様子を見ながらお互いに世間話をしている。

 

「ジュース何飲む? おすすめはこの、さくらサイダーだよ」


 私が公園の様子を眺めているうちに彼女はいつの間にかベンチの近くに備え付けられている自動販売機の前に立っていて、陳列されているジュースを指さしていた。

 けど、別に喉は乾いていない。

 お腹はすいているけれど、彼女と出会ってから食欲は消え去ってる。

 それにさくら味のサイダーなんて飲んだことなかったし、炭酸もあんまり好きなほうではなかった。

 だから、お金がないことを告げながらベンチに座り込んで遠慮するけれど。


「これくらい奢ってあげる。変に声かけちゃったお詫びね。はい、どうぞ――」


 彼女は迷うことなく、指をさしていたさくらサイダーを購入し、隣に座り込んできた。


「ほら、飲んでみて」


「…………っ」


 その好意を断ることもできず、さくらサイダーを受け取ってしまった私は、彼女の気持ちに応えるように缶の口を開けて、何も言わずに一口飲んでみた。

 妖艶なさくらの香りが鼻の奥に留まると同時に、ビリビリとした炭酸の刺激が喉を震わせてくる。

 今まで味わったことのない変わった味だったけれど、すごくおいしく感じる。


「どう? おいしいでしょ?」


「うん、おいしい。すごくおいしい」


「でしょ? めっちゃおすすめだから!」


 隣で自慢げに微笑む彼女に同意して、ジュースを奢ってもらったお礼を告げた。

 たったそれだけ。

 それだけのことなのに。


「ありがとう。ほんと……ありがとぅ……っ」


 どうしてか鼻の奥がむずむずと疼いてきて、強烈な痺れに目の奥が襲われたかと思うと、瞳から涙が溢れ出してきた。

 なんで、これくらいのことで私は泣いてるんだろう。


「ちょ、急にどうしたの……? もしかして、さくらサイダー嫌いなのに無理して飲んじゃった!?」


「ご、ごめん……なんか、わかんない……わかんないけど、勝手にあふれてきて……」


「そ、そうなの……? ま、まぁ自分でもわからない涙って結構あるから、そういうときは泣けるだけ泣いちゃえばいいよ。そのほうがスッキリすると思うし」


 彼女から発せられた温もりのある言葉に自分がなぜ涙を流したのかを理解させられてしまう。

 私は、ただ寂しかったのだ。

 誰にも相談できず、心を許すこともできず。

 弱い自分を晒すことができない私自身の醜さが、嫌で嫌でしょうがないのだ。


「あ、さくらサイダー嫌だったら、別のジュースに変えるけど……?」


「ううん、これがいい。この味、好きになりそうだから」


「そう? それならよかった!」


 隣でそう言ってくれる彼女なら。

 赤の他人の私に、優しくできる彼女になら。

 自分の汚なくて醜い感情を晒し出してもいいんじゃないだろうか。

 

「あの、よかったら私の話し、聞いてくれる……?」


「もちろん! そのためにここに来たからね」


 それからは、名前も知らない彼女にここまでのことを話してしまっていた。

 なんとなく、家出をしてきたこと。

 ここに来るまでにお金を使い果たしてしまったこと。

 特に理由もなく、漠然とした思いのまま死のうと思っていたこと。


 今までの私ならこんなこと他人に話したりなど、しないのに。

 彼女には、ぜんぶ、何もかもを話した。


「そうだったんだ。えらいね。頑張ってきたんだね。ここまでおつかれさま」


「————ッ」


 話を全部聞いた彼女は、ただそう言って、私の言葉を受け入れて、最後には私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。

 それがやけに温かくて、彼女から漂ってくる桜っぽい匂いが優しい香りに感じて、胸の奥が痛くなった。

 誰かにハグされたのっていつぶりだろう。

 

「そういえば、助けてほしいって、わたしに言っていたけれど……。それってわたしにできることだったりするのかな? それとも、大人に頼ったほうがいいこと?」


 そしてーー彼女は私の助けになろうと耳元で囁くように言葉を連ねてくれる。

 ここまでしてくれる彼女が善人でなければ、なんだというのだろう。

 きっと、彼女はお金さえも貸してくれる。

 でも、それって彼女を裏切る行為のような気がする。

 出会ったばかりで都合よくお金を貸して。なんて、私の倫理観が、プライドが、許してくれそうにない。

 だから、彼女に伝える言葉は「お金を貸して」なんていう浅い言葉にしちゃダメだ。


「その……生きるためにお金がないとダメだから、お金を稼ぎたいの。だから、私でもお金を稼げるところとか、やり方とか知らないかな? なんでもいいの。お金を稼げるなら、何でもするつもりだから……」


 身元や年齢を証明できない今の私が働けるところなんて、人伝いに信用を得られる場所くらいしかない。

 そうじゃないなら、誰かに直接「お金になるような行為」をして、チップを出してもらうしか私がお金を稼ぐ方法はないだろう。

 彼女にこのようなことを聞くのは間違っていると思う。

 思うけど。 

 赤の他人に声を掛けてまで困った人を助けようとしてくれる彼女なら、そういった条件下の仕事の一つや二つくらい知っていそうだと思った。


「それってつまり、地元に帰るつもりはないってこと? 一時的に元の生活に戻って、大人になってから一人で生きるのも一つの選択だと思うよ? 家に帰るための路銀くらいなら、わたしでも貸してあげられると思うし」


 彼女はそう言って、私の選択肢を増やそうとしてくれる。

 家出した実家に戻って、その時を待つ。という選択は、実に現実的だ。

 でも、それは私にとって、死んでも選びたくない決断の一つでしかない。


「無理――あそこには死んでも戻りたくない」


「そう……帰るのはそんなに嫌なんだ? それなら、そうだね。――わたしでよかったら、きみの望みをかなえる手助けをしてもいいけど。――でも。本当に、何でもするの?」


「うん、なんでもする」


「本当に、本当? どんなに嫌なことでも逃げずにやれる?」


「うん、やる。私にできることならなんでもやる。でも、人を騙したり、他人から何かを奪ったりする犯罪紛いのことは避けたい。たとえば薬の密売とか。詐欺や窃盗とか。そういうのは無理……」


 念には念を押すように、言葉を一つずつ吐き出す。鬼気迫る調子で端麗な顔を近づけてくる彼女に少しだけ引け目を感じて目をそらしてしまうけど、他人に酷いことをすることじゃないなら本当に何でもするつもりだった。

 死のうとしてここまで来た私に大した価値なんてないんだから。


「なら、自分の身体を売るのはどう……?」


「自分の身体……? それってどういう意味?」


「文字通りの意味だよ。簡単に言えば、住み込みで働くってこと。きみがそれでも良いって言うなら、わたしがきみを雇ってあげる」


「あなたが私を……?」


「うん。でも、ここじゃ詳しいことは話せないから、そうだね。まずはわたしの家に来てくれる?」


「い、家って。あなたの家に?」


「うん、招待してあげる。それに働くにしろしないにしろ、泊れるところもないんでしょ? 今日くらいは泊めてあげるから。とにかく、一緒にきて」


「わ、わかった」


 彼女に手を引かれるまま、後をついていくと駅の近くの路肩に止まっている一台の黒い車の傍へと近づいていく。

 それも、歪なほど周囲の景色を反射するようにテカテカに磨かれた高そうな乗用車だ。

 車に詳しくないから、車種とかはわからないけど、こういうのを高級車と呼ぶのかもしれない。

 周囲を過ぎ去っていく人たちの視線も珍しいものを見るような眼をしていた。

 

「お帰りになりますか。お嬢さま」


 運転席の扉が開くと、中から白と黒のふりふりの衣装に身を包んだメイドさんのような女性がでてきて、私の目の前に立っている彼女にそう伺いを立ててきた。

 

「うん、ちょっと早いけど帰ることにする。あと、この子も一緒に連れていくからよろしくね」


「はい、かしこまりました」


 目の前で繰り広げられている光景に、別の世界にやってきてしまったような気がして、現実味を失ってしまう。

 けど、たしかにそれは私の目の前で起きている出来事でしかなくて、「家に向かうから乗って」と彼女は繋いだままの私の手を引きながら、メイドさんが開いた後部座席の扉の先——車の中へと入っていく。

 今まで乗ったことのないような高級感を漂わせる革製のカーシートは、内側に極上のクッションを忍ばせているのか硬いのに柔らかい、という不思議な肌触りをしていた。

 車内は彼女と同じ桜の香りに包まれていて、これが彼女のために用意されている送迎用の車なのだと理解してしまう。

 彼女は私が思っているよりも、ものすごい生まれの女の子だったらしい。

 今さらになって、とんでもない人に声を掛けてしまったのだと、いたたまれない気持ちになってきた。


「あ、あのさ……やっぱり私……ここにいちゃまずいんじゃ……?」


「どうして? 大丈夫だよ。たしかにわたしはきみよりもいい生活をしているかもしれないけど、わたしもきみと同じ、ただの女の子にかわりはないから、何も遠慮しなくていいよ」


「そ、そうなのかな……?」


「そうだよ。だから、何も心配いらないよ」


「うん、ありがとう……」


 彼女にそう言われて、私は内心どうしていいのかわからないまま、動き出す車の中で彼女の手をぎゅっと握っていた。

 

「そう言えば、まだ名乗ってなかったね。わたしは——ヨザクラサユリ。さゆりはひらがなで、ヨザクラは夜の桜って書いて、夜桜さゆり」


 しばらく車が走ったところで、沈黙を破るように彼女が自己紹介をしてきた。

 たしかに、お互いに名前を名乗っていなかった気がする。

 

「す、すごい響きの名前だね……? それに、なんかかっこいい」


「そうかな……? きみのほうは、なんていうお名前なの?」


「私は、シノノメコトリ。東の雲の小さな鳥で、東雲小鳥だよ」


「小さな鳥でコトリって、すっごく可愛いじゃん!」


「さ、サユリのほうがお花の名前が入ってて可愛いと思うけど」


 真正面から堂々と名前を褒められて、サユリの真っすぐな瞳に見つめられちゃうと顔が熱くなってしまう。

 なんでこの程度のことで胸の奥がドキドキしちゃってるんだろう。


「じゃあ、わたしたち二人とも可愛い同士だね!」


「そういわれると、なんか照れちゃう、かも……?」


「いいじゃん! いっぱい照れちゃいなよっ! わたしたち可愛い同士なんだし!」


 えへへ、と楽しげに笑いながら、サユリはさらに自己紹介を続けてくる。

 

 なんでもサユリは、今年から高校生になったらしく、私よりも一つ年下だった。

 話していると時折、私よりも大人びた雰囲気を感じさせてくるのに、一つ下だったとは、正直信じられない。

 たぶん、育ちが違うからかもだけれども、それよりも本質的な部分で私とサユリには大きな違いがあるような気もする。

 どちらにせよ。サユリは私が持っていないものをたくさん持っていることは明白だ。


 それなのに、サユリは面倒な慣習が多いとかで、現在通っている中高一貫のお嬢さま学校に通うのをやめようと思っている。とのことだった。

 私にはそれが正しいのか正しくないのかわからないけれど、サユリがそうしたいなら、それもいいんじゃないか。と思って、同意した。

 だって、私ももう、自分が通っていた学校に通うつもりはなかったのだ。

 家出をするのと同時に退学届も提出したし、私があの学校に通ったところで、私にはなんの意味もなかったから、未練もへったくれもない。

 その話をサユリに伝えると「学校なんて社会に出たら、どうでもいい場所になるんだから、それでいいよ」「その時その瞬間に自分が何をやりたいか。何を成したいのか。そのほうが重要だと思う」とさらりと言ってのけてしまった。

 その言葉が、不思議なくらい的を得ているような気がして、納得してしまう。

 

 どうやらサユリは、自分と他人の生き方を比較しないようだ。


 私もそれくらい前向きに物事を考えられたら、サユリみたいに強くて優しい人間になれるのだろうか。


「あ、でもね。コトリはコトリの思うように自分の道を選択すればいいんだよ。わたしの真似はしなくていいの」


「そ、そうなの……?」


「だって、コトリはコトリでしょ? わたしじゃないから」


「うん、そうだね」


 ぎゅっと握りしめた私の手をサユリは優しく握り返してくれて、えへへ、と微笑んでくる。

 それが私の心の中にある黒いモヤモヤを取り払ってくれるから、なんだか不思議だった。


 サユリと私はまだ出会ったばかりなのに。

 私がどんな人間なのか、サユリは知らないはずなのに。

 サユリは、どうしてこんなにも親切にしてくれるのだろう。

 わからない。

 わかったところでどうにかなるものでもないこともわかってる。

 なのに、そうやって、親切にしてくれる人のことをどこか疑ってしまう自分が嫌になる。

 たぶん、これが私の悪いところなのだろう。

 けれど、サユリになら、このまま騙されてしまってもいい。

 彼女のおかげで、私は今こうして前向きに物事を考えられているのだから。


 そのせいもあったのか。いや、一番は旅の疲れが限界だったのかもしれない。

 私はいつの間にか車の中で寝落ちしてしまった。


 目が覚めると朝になっていて、高級ホテルの一室みたいな豪華な内装の部屋にある大きなベッドの上に寝転がっていたのだ。

 服装も、制服からネグリジェのようなふりふりがついたすごく可愛い白いワンピースに着替えさせられているし、ベッドの布団はふかふかで、いつまでも眠っていたいと思えるほど快適だった。

 それに、なんだかすごく良い匂いがする。

 

「コトリ、起きてる? 入るよ?」


 コンコンと扉にノック音が響いたあと、私の返事を聞いたサユリが部屋の中へと入ってきた。

 

「おはよう、昨日はよく眠れた?」


「うん、いっぱい眠っちゃった」


「だよね、びっくりしたんだよ? 到着したとき起こそうとしても全然起きてくれないからさ。長旅で相当疲れてたんだね。気づかなくてごめんね」


「ううん。私のために着替えとベッドまで用意してくれて、ありがとう。何から何まで色々してもらっちゃって……どう恩を返したらいいかわからなくなりそう」


「いいんだよこれくらい。その代わりコトリにやって欲しいことがあるし」


「それって、例のお仕事のこと?」


「うん、そうだよ。でも、仕事っていうよりも、役割って言ったほうが正しいかもしれない」


「役割……?」


「そう、コトリにしかできない役割。けど、まずは朝ごはんを食べて、身だしなみを整えてから、その話をしようか」


 私にしかできない。という部分に引っ掛かりを覚えるけれど、とりあえずサユリに諭されるまま、このあとの予定を受け入れる。

 せっかく招待されてるのだから、断っても申し訳ないし、お腹も空いていた。


「入っていいよ」


 サユリが扉の向こう側へ合図を出すとその合図に応えるようにカートを押したメイドさんが数人入ってきた。

 そのカートを部屋のテーブルの横で停めると、カートに乗っている豪華な食器を次々とテーブルへと並べ、おいしそうなパンの香りを部屋に充満させていく。


「あ、洗面所はそっちの扉にあるから、自由に使っていいよ」


「うん、ありがとう」


 洗面所で顔を洗い、使い捨ての歯ブラシで口の中をゆすいだ後。

 私はサユリと一緒に朝食を食べた。

 朝食は、主にパン食で用意されていて、切込みの入ったバターロールに付け合わせ用のマーマレードやいちご、ブルーベリーなどのジャムなども用意され、サラダボールとでもいうのか、大きなボールに彩り豊かな野菜がたくさん入ったものから、ゆで卵なども用意されていた。

 たぶん、私の口に合うように庶民らしい食べ物をあえて用意してくれたのだろう。

 そのことをサユリに問いかけてみると「バレたか」と苦笑いしていた。

 

「そういえば、コトリは女の子同士なら裸は見られても平気だったりする?」


「う、うん? 体育とか水泳の授業とかで何度か経験あるから大丈夫だけれど」


「じゃあ、このあとお風呂にいこっか。汗流したいでしょ?」


「いいの?」


「いいよ。というか一緒に入ろ?」


「う、うん。入りたい」


「じゃあ行こう!」


 朝食のあとは、サユリに促されるままお風呂に入ることになった。

 この部屋にも洗面所の隣に風呂場はあったけれども、サユリが向かおうとしてるのは、この部屋を出てしばらく歩いたところにある大浴場らしい。

 案内するよ。と言って歩き出したサユリに続いて廊下に出てからわかったことは、私が今いるこの場所は、周囲一帯を個人の土地で所有しているお屋敷の中で間違いない、ということだった。

 内装も豪華絢爛で天井や壁にある照明器具や家具の一つ一つまでもが高級品なのが目に見えてわかる。

 窓から見える外には丁寧に整えられた大きな庭が広がっていて、他人が住まうような敷地などはどこにもない。

 完全に世俗から切り離された豪邸がこの敷地を支配している。

 たぶん、土地勘のない私が一人で歩いていたら迷子になってしまうのは明白だった。

 これだけ恵まれた環境を利用しているということは、サユリは本当にお嬢様なのだろう。

 それも、ちょっとしたお金持ちではなく、私の想像が及ばないようなお金持ちに生まれてきたのかもしれない。


「ここが大浴場だよ」


「うわぁ~、広い……」


 サユリに案内された扉を抜けると清楚感あふれる白黒の大理石の空間が広がっていた。

 そこは洗面所を兼ね備えた更衣室らしく、奥のほうには大浴場へと続くガラス張りの扉が存在している。

 

「こっちで脱いじゃおうか」


 サユリは慣れた足取りで、棚のほうへ向かうとそこに置いてある籠の中へ脱いだ服を入れていく。

 一枚ずつ露出していくサユリの生肌は、とても白くきめ細やかな色合いをしていて、毎日一生懸命手入れをしているのがすぐにわかるほど美しかった。

 身体は中学生みたいに華奢ではあるけれど、腕も、腰も、太ももも、ちゃんと引き締まっているし、育ち盛りの胸は私と大差ないほど大きめに実っている。

 あと一年したらサユリのほうが私よりも大きくなってるかもしれない。


「ほら、コトリも服脱がないとお風呂入れないよ?」


「あ、うん。そうだった」


 サユリに声を掛けられて我に返る。

 私の汗を流すために大浴場へきたのに、その私が服を脱がないでどうするのだろう。

 そう思ってワンピースを脱ごうとするのだけれど。


「あ、あれ……? これ、どうやって脱ぐんだろう……?」


「あ、そうだったね。手伝ってあげる」


「ごめん、ありがとう」


 ワンピースの脱ぎ方がいまいちわからず、サユリに手を貸してもらいながら脱ぐことになった。

 

「それにしても、コトリの肌って、やっぱり綺麗だね? お肌の手入れとか頑張ってたでしょ?」


「え? えっと……家出してからはあんまりだけど、その前はそれなりに気は使ってたかも」


「だよね。でないとこんなに張り艶のあるお肌にならないもん」


 ワンピースを脱いで早々に、サユリは私の身体を指でつつくように視線で舐め回してきた。

 先ほど、私がしていたことをそのままお返しされているような気分になる。

 というか、お返しなのだろう。

 にや、っと何かを含み笑いするようにサユリは楽しげに口角を緩ませていた。


「そんなこと言ったら、サユリもお手入れいっぱいしてるんじゃ?」


「もちろんそうだよ? だって女の子だし! 女の子の身体はお手入れしてこそ価値があるでしょ? だから、お手入れ頑張ってたコトリにもすっごく価値があるんだよ!」


「〜〜〜〜っ」


 サユリから子どもみたいに砕けた笑顔を突然向けられて、またも胸の奥がぎゅっとしてしまった。

 その笑顔は、サユリもただの女の子なのだ、と理解させられるほど無邪気なもので。

 それでいて、私のすべてを肯定してくれるから、天使の祝福のようにも思えてしまう。


「どうしたの? ほら、バスタオル巻いて。お風呂行くよ?」


「う、うん」


 手渡された白いバスタオルを身体に巻いて、ガラス張りの扉を抜ける。

 扉一枚隔てた銭湯みたいな空間は湿気に包まれていて、中央部に何十人も入れそうなジャグラー付きの大きな湯船が一つ用意されていた。

 外側の一角には身体を洗うためのシャワーや蛇口。シャンプーやらボディソープのボトルに桶など。入浴に必要な道具一式も用意されている。


「まずは、身体から洗っちゃおうか?」


「うん」


 サユリに促されるまま、一緒に身体を洗って、湯船に浸かる下準備を済ませていく。

 私の洗浄スタイルは、最初に髪の毛を洗っちゃって身体はそのあとに洗っていく感じだ。

 横にチラリと視線を向けてみるとサユリも、同じ洗浄スタイルらしい。


「ねぇねぇ、コトリ。せっかくだから、背中洗ってあげようか?」


 すると、横からサユリがいたずらっぽく微笑みながら、声を掛けてきた。

 

「いや、それくらい自分で洗えるから、いいよ」


「えぇ〜、じゃあ、コトリがわたしの背中洗ってくれる?」


 自分の身体を差し出すように甘えた口調で唆してくるサユリは、私をからかって遊んでいるのだろうか。

 

「うん、それならいいよ?」


 だから、逆にその言葉に乗ってあげるけど。


「なら、そのお返しにコトリの背中はわたしが洗うね」


「うぅ、そうきたか……」


「ふふふ、諦めるがよい!」

 

 サユリは最初から、私の背中を洗う権限を獲得するために声を掛けてきたらしい。

 見ごとに嵌められた。

 でも、今さら拒否するのもおかしいと思って、結局お互いに背中を洗い合うことになった。

 

「コトリのお肌すべすべだね」


「ちょ、なんか直接そう言われると恥ずかしいから……!」


「え? そう? じゃあ、もっといっぱい褒めてあげなくちゃ。コトリの恥ずかしがってるところすごくかわいいから」


「うぅ~、それは反則だってばぁ……っ」


「あはは、本当可愛いよ。コトリ」


「~~~~~っ」


 更衣室にきてから、ずっとサユリの掌の上で踊らされているような気がしてならない。

 いや、そもそも、このお屋敷に来ることになったのも、元をたどればサユリに声を掛けられたことが切っ掛けだから、最初から私はサユリの思い通りのままなのだろう。

 でも、それが不思議なくらい心地よく感じてる自分がいる。

 なんなんだろう。この気持ちは。


「身体も洗い終わったし、そろそろお湯にでもつかる?」


「うん」


 使用済みの道具類をシャワーで軽く洗い流してから、中心部にある大きな湯船に向かう。

 サユリは特に何かを気にする様子もなく、手すりのある段差を利用して湯船に入っていく。

 私もそのあとに続いて湯舟の中に身体を沈み込ませた。


「あ〜! なにこれ〜! 生き返るぅう〜〜!」


 湯船に浸かって早々に、溜まってたアクが抜けだすように声が漏れてしまう。

 なんだか、色々なものが溜まっていたらしい。

 お湯の温度もちょうどいいし、どれだけ足を延ばそうが、背伸びしようが、どこにもぶつからないし、もう幸せ絶好調だった。


「すご、コトリが急におっさんみたいになっちゃった」


 そこをサユリが見逃すわけなくて、突っ込まれてしまう。


「いや、だって……! ここ最近はずっとお風呂入ってなくて、久しぶりに入ったら思ってた以上に気持ち良くて……ほら! その……! つい、ね?」


 それがなんだか、恥ずかしくて、言い訳のように言葉を口にして並べてみるけど、自分でも何を言ってるのかよくわからないほど、大したことは言えてなかった。

 でも、それでいい。

 これが私――東雲小鳥なのだ。


「よかった。コトリに喜んでもらえて」


「ほんと、ありがとね。こんなにいっぱい良くしてくれて」


「だから、何も遠慮しなくていいよ。コトリにはやってもらいたいことがあるからね」


「そうだ! そのやってもらいたいことって、どんなお仕事なの? サユリは住み込みって言ってたけれど……? それって本当に私に務まることなの?」


「うん、コトリなら何も問題なく務まるよ」


「そう? それなら、いいんだけれど」


 サユリは、住み込みということ以外は何も話そうとしないから、今のところ何を頼まれるのか一向に分からず終いのままだ。

 だから、ちょっとだけ、その仕事がどんなものなのか不安になる。


「大丈夫だよ。コトリが不安になることは何もないから。お風呂から上がってからその話しをしようか」


「うん、わかった」


 それから数十分ほどしたところで湯船から上がり、身体に残った水滴をバスタオルで拭き取ってから更衣室へと戻った。


「あれ……? 新しくなってる?」


 そこには、先ほどのワンピースと同じ洋服が白と黒の別々の色で一着ずつ置いてあった。


「うん、寝汗かいてただろうから、新しいのに変えるように頼んでおいたの」


「うわぁ……もう頭上がらない……っ」


 どうやら、サユリがメイドさんに頼んでいたらしい。

 ふりふりのついた可愛らしい下着なども全部新しく用意されていて、「コトリの身につけていた衣類は洗濯中だから、申し訳ないけど、これを着ていて欲しい」とのことだった。

 

 感謝の言葉を述べてから、サユリに言われるままに白いワンピースを受け取りそれに袖を通す。

 サイズはなんだかんだピッタリでおかしなところはない。

 というか、改めて身に着けてみると、やっぱりすごく高そうな肌触りがして、どこか落ち着かない感じがした。

 それでも、何も着ないよりはマシだから受け入れることにする。

 この服、いくらするんだろう。


「こっちで、髪の毛乾かせるよ」


 物思いに耽ってるとサユリに呼ばれてしまい、洗面所のところへ移動する。

 鏡を見ながらドライヤーで髪を乾かし、家でやってたときと同じ容量で櫛を使って整えていく。

 私の髪の毛は黒一色のショートボブだから、すぐに整った。

 サユリのほうは、桜色のセミロングの髪先に緩めのパーマをかけてるからだろうか。整えるのに少し長めの時間が掛かっていた。

 でも、サユリの髪は長いのに手入れが行き届いていて、サラサラで艶やかな指触りをしてる。

 私のは最近の野宿とかがよくなかったのかちょっとだけ枝毛も増えて傷んでいた。

 それに気づいたサユリから「これ使ってあげる」と髪の毛に何かを馴染ませてくれる。

 すると、あら不思議。傷んでたはずの髪質があっという間に目立たなくなった。


「せっかくいいもの持ってるんだから、ちゃんとお手入れしなくちゃね」


「それ、結構高いものなんじゃ……?」


「コトリはそういうの気にしなくていいの。わたしが勝手にやりたいだけだから。それに――コトリの身体はお金じゃ手に入らないものなんだから、大事にしてあげないとダメだよ」


「う、うん? ありがとう……?」


 サユリの言葉は、なんだか重みがある。

 私にはその言葉の本当の意味は、わからないけど。

 それでも、その一部だけでも理解することができていたらいいな。と思う。


「じゃあ、コトリにやってもらいたいこと教えるために場所変えるね」


「うん、お願い」


 身だしなみを整え終えたところで、更衣室を出る。

 それから、サユリの案内のもと屋敷の中をしばらく歩いた。

 廊下に並ぶ扉をいくつも抜けて、隠し通路みたいなところにある扉の奥にあった階段からさらに下。——地下のほうへと下りていく。

 辺りの内装は、屋敷の中とは打って変わっていて、コンクリートやレンガが剥き出しの一本の通路になっていた。

 そのまま変化のない長い道を歩き続けた先に待ち構えていたのは、――銀色に光り輝くエレベーターの扉を思わせるようなステンレス製の電子扉だった。

 扉の横に指紋認証用の装置が取り付けられているところを見るに、そこにサユリが手を触れると自動で開く仕組みになっているようだ。


「コトリにやって欲しいことは、この扉の奥で、なんだけど。どう? ここまで来て怖くない?」


 ここまでの道のりの中。

 サユリは、歩行中の私の身を案じる言葉ばかりで場所についての話は一切していなかった。

 だから、この場所についてのほとんどが私の推測や憶測になるのだけれども、ここは何か人目に触れてはならないものを厳重に隠し通すために作られた場所に思えた。


 一体この先に何があるのか。

 私にはわからない。


 でも、サユリはそれを私に見せるために、ここまで連れてきてくれたのだ。

 なら、何も怖がる必要はない。

 私にできることなら、なんでもする。


「ドキドキするけど、大丈夫」


「コトリって、結構強がりなところあるよね。本当は指先震えさせて怖がってるのに」


「わかってるなら、言わないでよぉ!」


「あはは」


 じゃあ、入るよ。と慣れた様子で指紋認証の装置へ手をかざして扉を開いてしまう。

 なのに、その扉を開いて奥に進むと、二枚目の扉が待ち構えていた。


「こんなに厳重な扉とか初めてみた」


「うん、なんか色々と頼んでみたらこんな感じの作りになっちゃってて、わたしも最初見たときは驚いちゃったよ」


 その扉は、この屋敷には似つかわしくない独房のような鋼鉄の扉だった。

 サユリはどこからか取り出した束になった鍵で扉の錠を一つずつ開けていく。

 一つ、二つ、三つ。と上から順に外されていくそれらだけでも、十分すぎる厳重さだ。

 

「じゃあ、開けるね」


「…………っ」


 サユリはサユリが力を込めて引くと、重そうな開閉音を響かせて、扉が開いていく。

 開いた扉の先は真っ暗で何も見えない。

 なのにそこから、何やら色々な匂いが混じり合った変な臭いが漂ってくる。

 ゴムのような、皮のような、鉄のような、汗のような。

 屋敷で嗅いでいた心地よい香りとは違う。なんだかよくわからない匂いだ。


「中に入ってくれる?」


「う、うん」


「大丈夫、中に入ったら明かりがつくから」


「わかった」



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