SakeTami
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あなたのために、

高取城を奇襲した際、味方の射撃によって重傷を負った虎太郎は床に伏せていた。苦しそうに息を吐きながら眠る虎太郎の汗を琥々は自身のハンカチを使って拭いた。冷たいもので拭いてあげたい、そう思った琥々は1人で川に向かった。川の水でハンカチを濡らしてしっかりしぼる。持っていた竹筒に水を汲んで来た道を戻っていく。虎太郎の部屋に戻ると医者である乾十郎と井澤宜庵の2人が虎太郎の傍にいた。 「あっ……せんせいたち……」 琥々は2人に向かってぺこりと頭を下げると虎太郎の額を濡れたハンカチで拭き始める。 十郎は琥々の目の下にくまがあることに気づいた。 「……琥々。あまり寝ていないだろう?少し寝なさい。この先寝る時間すらなくなるかもしれないんだぞ?」 「……でもとらさんが、心配です……」 弱々しく返す琥々に十郎と宜庵は困ったように顔を見合わせる。宜庵ははあ……と小さくため息をついてから畳の上で横になる。 「……宜庵? 何故お前が横になるんだ?」 「睡眠は大事なんでしょ……?」 「俺はお前に寝ろとは言ってないがな?」 宜庵はふああとあくびをしてちらりと琥々を見て畳を手のひらでとんとんと叩いた。 「おいで。 いっしょに寝よう」 琥々は少々困惑しながら宜庵の近くに寄っていく。 「せんせい……とらさんよくなるかなあ……?」 泣き出しそうな琥々を宜庵は自分の方へと抱き寄せる。幼子をあやすように琥々の背中を優しく撫でた。 「大丈夫。……それより君の体調が気になる……。吉村も、自分のせいで君が寝不足になることは望んでいないでしょ……。吉村のことは十郎に任せておけばいいんだよ」 「いやお前も手伝え。……コホン。……宜庵の言うとおり、医者の俺たちが見ているから。琥々は眠りなさい」 十郎は安心させようと少し笑う。琥々は宜庵の傍で赤子のように身体を丸めた。宜庵が琥々の頭を優しく撫でていると琥々はうとうとしてすぐに寝息をたてて眠ってしまった。 「……うーん、いい眠りっぷり。本当に寝ていなかったんだなあ……十郎、俺も寝ていい?」 「駄目だと言っているだろうが!!」 「ほら、動くとせっかく眠ったこの子を起こしてしまうかもしれないし」 「くっ……卑怯だぞ」 「……それにしてもこの子、少し抱えすぎる。よくない」 「というか疑問なんだが何故こんな危ない場所に幼いおなごがここにいるんだ?」 「それ。……何か理由があるんだろうけど、身寄せしているのが天誅組とは運が悪いよね……」 「……言うな」 悔しそうな表情で十郎は虎太郎に目をやった。 ****** 次の日の朝、琥々がハッと目を覚まして身体を起こす。虎太郎のほうを見ると遅くまで看病してくれていたのだろうか、十郎が座りながら眠っていた。琥々は虎太郎に近づくと昨日に比べて呼吸は穏やかになっていた。ほっとした琥々は十郎にありがとうと小さくお礼を言うと部屋を出た。 「おお、琥々は吉村さんの部屋におったんか」 振り返ると内蔵太と周吉がおはようと琥々に挨拶をした。 「えへへ……2人ともおはよー」 「……吉村さんの具合はどうじゃ?」 「うん……。昨日よりは苦しくなさそうだけど……」 俯く琥々に周吉はそうだ、と胸元から小さな本を取り出し頁を捲る。 「琥々、よかったらこれ探してくれないか?」 「これなあに?」 「この辺りで採れる薬草だ。おれは用事があるから、代わりに採りにいってくれると助かるよ」 周吉に言われ、琥々はうん!と大きく返事をすると周吉から本を受け取り走り去っていった。内蔵太は「俺は琥々についていくぜよ」と周吉に告げて琥々の後を慌てて追いかけていった。 「うーん……これかなあ?」 書かれた薬草っぽい葉と周吉に渡された本を見比べるが筆でえがかれた絵だけでは分かりづらく、琥々は唸っていた。 「なかなか難しそうじゃな」 苦笑いしながら琥々の隣に内蔵太が屈むと琥々も「写真があればなあ……」と呟いた。 「琥々たちの時代は、話で聞く限り進んでそうじゃ」 「わたしがいた時代はね、写真と詳しい説明が書かれた図鑑なんてものがあるんだ。インターネットで調べたらすぐに出てくるし便利なんだよ」 「いんたあねっと……?」 内蔵太は首をかしげる。内蔵太は周吉の本を手に取り辺りをキョロキョロと見回す。この辺りに同じものはなさそうにみえた。 「この辺りにはなさそうじゃ。少し移動するぜよ」 「! うん」 琥々と内蔵太はもう少し山の奥へと入る。 「くらたくん、本当にいいの? やりたいこととか……」 琥々が不安そうに問いかけると内蔵太は気にするなとニカッと笑った。 「よう分かるがよ。いてもたってもおれんのは」 「そうなの! ちょっとでもはやく、元気になってほしいんだ。 とらさんの笑った顔が好きだから」 しかし、本に書かれた薬草を探しだすことは出来なかった。琥々はしょんぼりしながら来た道を引き返していた。 「なかった……」 「残念じゃったのう」 「……くらたくん、ちょっと休憩してもいいですか?」 「お、おお。気が利かなくてすまん」 琥々は竹筒を取り出して近くの川の水を入れた。一度自分でのみきり、もう一度水を汲むと内蔵太に差し出した。内蔵太はそれを受け取り1口飲んだ。 「くらたくん、ついてきてくれて本当にありがとう」 「あはは。力になれずすまんのう」 「ううん。1人だと、心細かったからそれだけですごく嬉しかったよ?」 「……琥々は、怖くないかえ?」 「え?」 「俺たちは今は追われる立場じゃ。命の危険もあるじゃろ?」 「こわいって言ったらもちろんこわいけど…。とらさんといっしょにいたい気持ちのほうが強いからへいきだよ」 琥々は空を見上げる。今日は曇っていて太陽がみえない。琥々は一度深呼吸をしてから再び歩き始めた。 「ただいまあ。 あ、とらさん! 身体起こしてだいじょうぶ?」 「アハハ。今は平気。乾さんから聞いたよ。看病してくれたんだってね。ありがとう」 「えへへ。あ、でもね、薬草、見つけられなかったの。ごめんなさい」 「薬草?」 虎太郎が十郎のほうをみると十郎は首を横にふる。琥々は周吉から借りた本を取り出し、これと指を指すと十郎は「これはちょっと時期がずれているから採れないな」と苦笑した。 「そっか、そうだったんだ。じゃあ仕方ないね……」 「周吉の奴~……」 (周吉クン、絶対わざとだろうなあ……) (伊吹、わかっててやったな……) 「でもわたしはくらたくんとお散歩できて楽しかったよ!」 「……琥々が楽しかったならええか!」 「俺からも礼を。池クン、琥々チャンのことありがとうね」 「礼を言われるほどのことじゃないがよ」 虎太郎に礼を言われた内蔵太は恥ずかしそうに頭をかいた。


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