やきもち
Added 2025-08-12 05:20:47 +0000 UTC「……面白くない」 ひかりは外の様子を見ながら不貞腐れていた。外では琥々が楽しそうに那須信吾と散歩をしていた。橙や赤く染まるもみじに触れようとするが、背伸びをしても少々届かなかったため、琥々は屈んで地面に落ちている綺麗ないちょうの葉やもみじを拾い上げていた。どんぐりも見つけたようで拾ったものを信吾に見せた。信吾は優しく微笑みながら琥々を抱き上げる。 「わあっ! し、しんごさん!?」 「これなら届くだろう?」 「ーっ、うん、届く!」 綺麗な赤色のイロハモミジを1枚だけ採って信吾の耳の辺りにかざしてクスクスと笑う。 「似合うか…?」 「うん、かわいいよ」 「可愛いという言葉は私には合わないだろう」 困ったような表情を浮かべながらもどこか嬉しそうな信吾をみて、ひかりはダンッと足を大きく鳴らした。 「信吾はうちのだ!忠光!」 「分かっておる。そなた、余が言うのもあれだが我儘やな」 「欲しいものを欲しいと言うて何が悪いのじゃ!」 つーんとそっぽ向くひかりに忠光はやれやれと腰を上げて琥々と信吾の元へと向かった。 「信吾よ、ひかりが呼んでおる」 信吾は忠光に声をかけられ一瞬だけ暗い表情を浮かべたが、抱き上げていた琥々をおろして「はっ」と返事をすると頭を深く下げてからひかりの居る忠光の部屋へと向かっていった。信吾の後ろ姿を少しだけ寂しそうに見つめる琥々に忠光は声をかける。 「……琥々は信吾のことが好きなのだな」 忠光の言葉に琥々は大きな瞳をぱちくりさせる。再び信吾のほうを見つめるとみるみると頬がもみじのように赤く染まっていく。恥ずかしそうに頬を両手で隠しながら「そうなのかも……」とぽつりと呟く琥々に忠光は少々申し訳ない気持ちになった。 「しんごさんのこととられたくないって思っちゃうのは、そういう『好き』だったのかなあ……?」 ひかりは琥々がこちらを見ていることを確認すると部屋の戸を開けて、わざと自分達の様子が見えるようにすると信吾に抱きついた。 「信吾よ、うちを姫抱きしてくれぬか?」 「姫抱き……こうでしょうか?」 信吾は軽々とひかりを抱き上げる。ひかりは信吾の首に腕をまわして密着する。 「……っ」 「あ、おい」 その様子を見た琥々は忠光の腕を引いて足早にその場を離れた。 はらはらと舞うもみじが舞う木々の間を歩く。忠光が何度か琥々の名前を呼ぶが琥々は一度も返事をしなかった。 「……琥々!!」 大きな声で呼ばれて琥々はようやく立ち止まる。 「あまり奥に行くとみなが心配するぞ」 「そ、そうですよね……ごめんなさい……」 しゅん……と落ち込む琥々を見ながら小さくため息をつく忠光。ふと地面に目をやるとどんぐりがそこらじゅうに落ちていることに気がついた。忠光は屈んでひとつ拾い上げて天にかざす。 「……琥々よ、良い場所に連れてきてくれた。感謝する」 「え? わあ……!」 太陽の日差しが紅葉したイロハモミジを綺麗にみせている。 「きれい……」 「この辺りの木々の葉はほとんど赤く染まっているのだな」 「ほんとだ、さっきいたところとそんなに距離変わらないのに」 「……琥々、これを」 忠光から小さな包みを両手で受けとる。赤色の紐をほどくと真っ白な金平糖。1粒手に取りじっと眺める。 「……宝石みたい」 「少々わけてやろう。高価なものだ、大事に食べよ。くれぐれも他の者には内密に。特にバカ虎には言うことがないよう」 「えへへ……」 「なんだ?」 「忠光さまがわたしを元気付けようとしてくれてるから嬉しくて」 「そなたの機嫌を損ねた原因は余だ」 「そうなの? わたしはもう大丈夫だよ!」 嬉しそうに笑う琥々が眩しくて忠光は慌てて顔をそらした。琥々は貰った金平糖を口に運ぶ。久しぶりの甘い食べ物。舌でころころ転がしながら味わった。 琥々と忠光が戻ると虎太郎と奎堂と鉄石が揃って立っており忠光は一瞬怯む。 「お帰り中山の坊」 「心配しましたよ」 「無事で良かったな」 「三総裁が揃いぶみとはな。琥々よ、もう大丈夫そうか?」 「うん、ありがとう忠光さま!」 満面の笑みを浮かべる琥々を見て虎太郎は驚く。 「おや琥々チャンずいぶん機嫌がいいね。信吾サンから聞いてたのと全然違うな……」 「忠光さまが元気付けてくれたんだー!」 「ふふ、それは良かった。池クンがお茶用意してくれてるからいっといで」 「はーい。忠光さま、ほんとうにありがとうございました!」 琥々はぺこりと頭を深く下げてからその場を離れていった。琥々の姿がみえなくなるとにこにこと笑っていた虎太郎の表情が豹変した。忠光は身震いをすると「よ、余も疲れた故部屋で休ませてもらうぞ」とその場から離れようとするが、三総裁に止められる。 「こ、琥々が無事なら良かろう!?」 「いやいやあのね、キミには琥々チャン以上に出歩かれると困るんだよ」 「ご自分の立場を理解して頂かないと……!何かあってからでは困ります!」 「もういっそ縛っとくか!」 「だああああ離せ離せ余に触るな無礼者どもがああああ!!」