「にゃにゃ~ん!始まりました、やまねちゃんねる!今宵もあなたにやまねドリームをお届けします!」
今日も始まった、やまねちゃんねる。僕はひとまず挨拶代わりの投げ銭をする。ドリームと言っても、今日も当たり障りのない、ソシャゲやご飯、ファッションの話が進んでいく。どこにでもありそうな話をラジオのように聞き流しながら、彼女のリアクションや声に癒される。放送の中身はどうでもいい内容だって、僕は彼女のファンだった。唯一、ガチャ芸人としての汚さは結構面白いかもしれない。自分好みの女の子キャラを引き当てた時は、野太い声でハァハァし出して……これ以上は言えないぐらいにエグかった。それに、猫音やまねは見た目も猫っぽくてかわいくて、声だって。ふりふりの衣装にキュートなしぐさ。さっきみたいなギャップ萌えだってあるし、なかなかどうしてゲームの話も深いものがある。それから……でもその程度ならVtuberとしては当たり前で、一番の人気の理由はやっぱり最後のこれだと思う。
「今日もやまねへの供物がたくさん来ていますね!えーっと……」
投げ銭は彼女への「供物」と呼ばれていた。放送の最後に「供物」を捧げた人の中からピックアップして、「供物を捧げた人を食べちゃう」ロールプレイをしてくれる。というか、もはやリスナー自信が供物。選ばれた人とVCをしながら、それを放送で実況してくれるんだ。だから食べられたい願望のある男女がこぞって投げ銭をするし、それを聞きたいだけのリスナーも大勢いるみたいだった。こういう時、やま姉の演技は神がかっていた。まるで本当に食べているみたいで、確かにその声だけでも聞く価値がある。一方、大体のリスナーの演技はあまり聞けたものじゃないけど、中にはすごくリアルなリアクションができる人もいて、それが上手くマッチした時には、どんな音声作品よりも息を呑む展開が待っていた。そして、いつか僕もその中に入ってみたいと願っている。
「xxxさん、って読むのかな?今日はこいつに決定☆食べちゃうぞ」
僕は耳を疑った。xxxは自分のHNだった。ふと目をやると、僕のアカウントにプライベートメッセージが送られている。おそるおそる発信者を確認すると、そこには憧れの彼女の名前が。中にはURLが記載されていて、「どなたもどうかお入りください」と書き添えられていた。僕はその粋な演出にくすぐったさを覚えながら、これから彼女に食べられちゃうロールプレイをするんだと、突然降ってきた幸運に背筋が汗ばんだ。大勢の前で。いや、何度も練習したはずだ、上手くやってやろうと心をふるい立たせながら、僕はURLをクリックした。突然、目の前が真っ暗になった。
__________
停電だろうか。PCの電源も落ちている。全てが暗闇で、よく考えたら、座っているはずの椅子の感触すらない。その事実に気づいた瞬間に、血の気が引いた。え、俺死んだ?……もし死んでなくても、これは脳がやられたんだろうか。感覚がないって事は……一人称が変わるほどに慌てた僕は、走馬灯のように思考を巡らせながら、何か感覚が得られないかと、手足を動かそうとしてみる。だめだ。これが死ぬって事なのか……幸せの絶頂からたたき落されたような気分で、やり残した事に想いを馳せる。せめてあと少しだけ……僕は悔やんだ。幸せすぎてきっと興奮したんだろうな……冷静に死因を分析するだけの余裕が出来てきたみたいだった。そして、目の前が明るくなった。
「にゃにゃ~ん、と!xxxさんを、やまねの食卓にご招待!」
僕は小さなアバターの姿になっていた。やま姉の放送でよく見る姿。「供物さん」はみんなこの姿にされてしまうんだ。そしてもちろん目の前には……見上げるように巨大な、やま姉の姿があった。(続く)