SakeTami
幽龍明刻
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【孕みの子】 ~アイドルがボテ腹多胎妊娠するのが当たり前の世界で~

 マンションのベランダで黄昏る、『星野 愛久愛海《アクアマリン》』がいた。  彼はかの有名なアイドル『星野アイ』の息子であり、新進気鋭の若手俳優として活躍している。  そんな人気者の彼は、ベランダから街の風景を眺めていた。視線の先には、日常を謳歌する人達が歩いている。  当たり前の光景に気を取られていると、 「何黄昏てるの、お兄ちゃん。まだそんな歳じゃないでしょ」  背後から声を掛けられた。  話しかけてきたのは、双子の妹『星野 瑠美衣《ルビー》』だ。  彼女は母親の背中を追い、アイドルとなった。今はB小町というグループのセンターを務めている。あくまでセンターであって、リーダーではない。    アクアは振り向いて、 「年寄りみたい、とでも言いたいのか?」  ルビーの方を向く。 「実際そうじゃん。そんな事ミヤコさんだってしないよ」  そう言いながらルビーはベランダにいるアクアに近付いた。  綺麗な瞳と顔立ちとは裏腹に、そのお腹はあまりにも大きかった。  その大きさは、自身の身体よりも遥かに大きく、地面に付きそうな程である。お腹を支えるために下半身は立派になっており、常人に二回りは太い。  太っているという訳では無く、お腹の中に赤ん坊がいる状態、所謂『妊娠』しているのだ。  それも1人2人ではない。ルビーのお腹には現在、100人もの赤ん坊がいる。  この状況にアクアは驚くことは無い。何故なら、これが普通の事だからだ。  事の始まりは、母親であるアイの妊娠だった。  政府の役人が、超少子高齢化社会問題解決の為に、女性の超多胎妊娠を推進するプロジェクトの話をアイに持ちかけてきたのである。どこから嗅ぎつけたのか知らないが、当時のトップアイドルが結婚せずに妊娠したという情報を、政府は手に入れたのだ。つまりは脅しの材料だ。  政府はアイを筆頭にプロジェクトを推し進め、世間に浸透させたいと考えていた。今のアイなら、プロジェクトに参加してくれたという名目を得られ、不祥事を隠せるチャンスになる。断る事はないだろうと持ちかけたわけだ。  アイはその裏を嗅ぎ取り、とりあえず承諾した。  結果、アクアとルビーの妊娠を隠せた上、政府からの庇護を受けられるようになる。  そこからプロジェクトは一気に加速し、アイはドンドン多胎妊娠を繰り返し、一度に300人妊娠できる肉体に変化した。人気は落ちるどころかうなぎ上りで上がっていき、若年層の支持を獲得し、多胎妊娠する女性が徐々に増えていく。アイも負けじと多胎妊娠のための肉体へと身体を作り替え、最高で1000人もの子供を一度に妊娠する『超多胎妊娠』を成功させた。  今では全国民の適齢の女性は全員超多胎妊娠しており、道行く女性は大きなボテ腹をしている。    ルビーも適齢になり、そのお腹に多胎妊娠のボテ腹を抱えていた。 「お昼用意できたから、一緒に食べよ。この前買って来た人気パンだよ!」 「あそこのパン屋か。何味がある?」 「えっとね、チョコでしょ、イチゴでしょ、キャラメルでしょ。あとは……」 「……見に行けばいいか」  アクアはルビーのボテ腹を迂回しながら廊下に出て、居間へ向かう。 「あ! こっちが思い出そうとしてるのにー!」  ルビーはアクアの後を追った。  2人が居間に着くと、 「やっと来た、アクア。お母さんもうお腹ペコペコだよ」  母である、星野アイが座って待っている。  両目に星を宿した彼女は、年相応の大人の雰囲気を纏い、ルビーよりも大きなボテ腹を揺らしていた。  彼女は三十路を超えた今でも超多胎妊娠をしており、月に1000人もの子供を産んでいる。  一度夫の暗躍により、命を狙われたが、政府の人達の働きにより難を逃れ、夫は逮捕された。その子供であるアクアとルビーには、この事を秘密にしている。  アイはテーブルに広げたパンを並べ、2人が席に着くのを待っていた。それを見たアクアは、すぐに着席する。 「ごめん母さん、ちょっと遅れた」 「聞いてよママ! お兄ちゃんこんな真っ昼間から黄昏てたんだよ! おじいちゃんみたいに!」 「誰がおじいちゃんだ」  そんな会話をしながらも、席に着いて、買って来てあったパンを分けた。  モソモソと食べている途中、 「そういえばこの後2代目B小町の子達と練習なんだっけ?」  アイがルビーを見ながら尋ねる。 「ほうだよ。二人も身重だけど、私より動けてる気がするんだー」 「食べながら喋るな」  アクアに注意されるルビーだったが、気にせずパンを食べ続け、あっという間に完食する。 「それに、最近デビューした子達は私達よりもお腹大きいんだよね。頑張らないとすぐ追い越されちゃう」 「そっかあ、そんなに大きいんだ、その子達。ママも負けてられないな」 「ママは誰よりも大きいから、まだ大丈夫じゃない?」 「そんな事言ってたら、あっという間に追い越されちゃう。だから日々精進ってね」  アイはウィンクをしてルビーに答える。  インターホンが鳴り、アクアが出た。 『おーい、ルビーの迎えに来たぞー』  インターホン越しに呼んで来たのは、社長兼運転係を買って出てくれた斉藤 壱護である。 「ルビー、迎え」 「もう来た!? それじゃあお兄ちゃん、ママ。行ってきます!!」 「いってらっしゃーい」  ルビーは2人に見送られながら、ルビーと同じ位大きいお腹をした有馬かなとMEMちょが乗る大型車に乗り、練習の為のスタジオへ走って行った。  見送った2人は、残っているパンをそれぞれ食べる。 「アクアもあかねちゃんとデートだっけ?」 「まあね」 「あの子いい子だよね。手放したら駄目だよ?」 「……そうだな」  目を逸らしながら答えるアクア。 「母さんもこれから仕事だろ? 超多胎妊娠の新薬の治験」 「そ。その手の薬と相性良すぎて色々試して欲しいって色んな所から依頼が来るんだよね。その分報酬もいいけど」 「あまり無茶はしないでくれよ。命に関わるんだから」 「分かってまーす」  アイの能天気な答えに小さく溜息をつくアクアだったが、自分の用事もあるので、早々に準備を整え、目的地へ向かう。  ◆◆◆  目的地に着くと、そこにはアクアの彼女、黒川あかねが待っていた。  とても綺麗な顔立ちに、ルビーよりも二回りくらい大きいボテ腹が特徴的である。  そのお腹を軽々と両足で支えながら、アクアの存在に気付く。 「アクア! こっち!」  呼ばれたアクアは小走りであかねの元に向かう。 「大声で呼ぶな。周囲にバレる」 「ごめんなさい、つい舞い上がっちゃって……」  2人は並んで歩き、街の中を進んで行く。 「これから行くのって多胎センターだろ? まだ多胎して大丈夫なのか?」 「うん。お医者さんからOKが出たから、今後の為にも超多胎妊娠の追加しておこうかなって」  超多胎妊娠の流れは、俳優業にも当然影響を与えた。  世間からの評判、それによるキャリア形成、あまりいい意味合いではないが、瞬く間に広がった。超多胎妊娠すればするほど世の中に貢献しているという風潮も相まって、今では若い世代がこぞって超多胎妊娠し、あかねの様に最新技術で追加妊娠する者までいる。  あかねはお腹をさすりながら、アクアの方を見た。 「今日も精子提供よろしくね。アクア」  超多胎妊娠の方法も様々であり、遺伝子からの受精卵生成、卵子複製からのパートナーの精子との受精等、アイの頃から更に多種多様になっている。今回あかねが受けるのは、アクアの精子を使用し、自分の卵子とで受精卵を作って貰う、一般的な方法だ。 「それはいいが、俺なんかでいいのか? お腹の子も全部俺のだ。他の優秀な子種でも……」 「次そんな事言ったら殺すよ」  満面の笑みで恐ろしく合わない物騒な物言いに、アクアは黙ってしまう。  しばらく歩いていると、ビルの大画面スクリーンに、ルビーたち二代目B小町のMVが流れているのが見えた。そこでは巨大なボテ腹を揺らしながら歌って踊る3人の姿がある。  アクアはその映像を横目で見ながら歩いて行く。 「ルビーちゃんの人気、まだまだ衰えないよね。アイさんもだけど」 「そうだな。当然と言えばそうだが、これも2人の努力の成果だろうな」 「ふーん、よく見てるね」 「家族だからな」  あかねはアクアの素っ気ない返しの中に、2人への愛情を感じ、微笑みながらアクアの横顔を見る。 「いつか私もそんなこと言われたいなー」 「まあ頑張ってくれ」 「素っ気ないなーもう」  そんな会話をしながら、目的地に向かって歩いて行くのだった。  

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