木製の階段を、一段、一段、慎重に降りる。
「ぃよっと」
那月は、段ボールを抱え直し、ギシリと階段を軋ませながら、一階へと降り立った。
バイト先のアンティークショップの一階は、灯りこそ点いてはいるものの、人気はゼロだ。
普段、開け放たれている入口のガラス戸は、ぴたりと閉められ、レースのカーテンが敷かれた格子状のガラス窓には、『Closed』の札が、表に見えるよう、掛けられていた。
買い出しに出た店長は、那月に、外の通りに面した窓辺の飾りつけを頼んだ後、閉店仕様に戸締りだけしたらしい。
那月は、すっかり陽が落ちて、薄暗い夕方となった外に目をやりながら、ふう、とため息をつく。
入口のガラス戸の向こう、石畳の緩やかな坂道は、休日の夕暮れにふさわしく、まだ、ちらほらと観光客や街の住民がウィンドウショッピングを楽しんでいるのが目に映る。
これだけ人混みが見えるということは、あちらからも、店内の様子が見えている、ということだ。
「しょうがないなあ」
那月は、両手に抱えた段ボールを、窓辺のディスプレイ近くの床に置くと、中から、ごそごそと、白いウサギの耳がついたカチューシャを取り出した。
そして、一人、渋い顔をしながら、ぽすんと、己の頭に、うさ耳をつけた。
「く……っ。なんで一人でこんなのつけないといけないのよ」
むう、と頬を膨らませた後、ちょいちょいと、前髪をいじり、襟首にひっかかっていたポニーテールを、さらりと手で、背中へと流した。
今回のディスプレイのテーマは、イースター。
ディスプレイ中は、窓からお客さんの目に留まりやすく、普通の作業着を着た人間が窓辺に座り込んで作業をしていると景観を損ねるから、という店長の信念により、うさ耳をつけるよう、指示されたのである。
「お店のエプロン着てるんだし、充分、店員が業務中だって分かるでしょーが」
ぶつぶつ、一人、文句を言いながら、那月は、深緑のエプロンの肩紐を直した後、段ボールの中から、樹木を模した鉄のオブジェを、よいしょと、取り出し、窓辺へと設置する。
葉っぱが枯れてなくなってしまったクリスマスツリーみたい、と思いながら、那月は、窓辺に乗り上がり、イースター用のツリーを、がしゃがしゃと、組み立てていく。
学習机ほどの大きさをした窓辺の床は、人が一人乗り上げるのには余裕であるが、ディスプレイをするとなると、少し狭い。あと、ウサギの耳が、天井に当たって、とても作業がしづらい。
「作業に向いてないよ、店長!」
那月が、一人、届かぬ声を上げながら、窓辺の壁に大きなキルトを飾っている時だった。
「わぁっ」と、小さな声が、背後の窓の向こう側から聴こえ、くるりと振り返る。
そこには、母親の手をぎゅっと握りながら、きらきらと輝く目を那月に向ける、幼い少女の姿があった。
「うさぎさん!」
窓辺に立って作業をする那月に向かって、窓の外にいる少女が小さな指を差し、声をあげる様に、隣に連れ添う母親も、にこにこと笑みを浮かべる。
「ぁ……、えっと……」
那月は、窓辺に立ったまま、うろうろと視線を反らした後、再び、少女を見つめる。
そして、ぎこちなく、はにかみ、慣れない笑顔と共に少しだけ手を広げ、小さく手を振った。
「……ばいばい」
「うさぎさん、かわいい!」
少女は、那月のぎこちなさを全く気にすることなく、笑顔を浮かべ、全力で手を振り返す。
可愛らしい反応に、那月が、照れながらも癒されていると、立ち止まる親子の後ろから、コツコツと、人が近づいてくるのが見えた。
ローファーの靴に、紺色のハイソックス。赤いチェックのスカート。紺色のベストに、ふわりとなびく、くすんだ薄桃色のハーフアップされたロングヘア。
見覚えのある制服姿に、那月は、ハッと、身を強張らせる。
「うんうん。うさぎさん、とっても可愛いよね」
にこにこと微笑みながら、楽し気にディスプレイの那月を見つめる、菫(すみれ)だった。
彼女こそ、那月の同級生かつ、この街、唯一の魔法使い。さらにいえば、那月の恋人である。
〇
「那月ちゃん、こんばんはー! 頭の耳、可愛いね!」
『Closed』の掛札を全く気にすることなく、菫は、がちゃりと店のガラス戸を開け、那月の乗り上げたディスプレイへと近づいてくる。
「お店は、もう閉店です」
那月は、恥ずかしさを隠すべく、ぷいと、視線を反らし、口を尖らせてそう言うも、菫は、まったく笑みを絶やさない。
「お買い物に来たんじゃなくて、恋人の那月ちゃんに会いに来たんだよ~」
そして、丁寧に認識を改めた後、那月の手に、自身の手を絡ませてくる。
きめ細やかで柔らかな、菫の白い手が、那月の手の甲を撫でた後、ぎゅっと握りしめる。
那月と背丈がほとんど変わらない菫だが、ディスプレイの窓辺に乗り上げた那月を、必然的に見上げる形となり、藍色の大きな瞳が、くるりと、那月を上目遣いで見上げている。
どこからどう見ても美少女の彼女は、にこりと笑った後、しっかりと握った那月の手の甲を、するりと引き寄せ、菫は、桃色の艶やかな唇で、手の甲にキスを施す。
「ひゃ……っ」
ちゅ、っと音を立てて、キスをされ、那月は、くすぐったさに、身を捩らせる。
「なに、してるのよ……っ」
かあ、と頬を染め、なんとかそう言うも、菫は、コロコロと笑い、那月の手の甲を、自身の柔らかな頬へと寄せる。
「那月ちゃんが可愛かったから、キスしちゃった」
恥ずかし気もなく、そう言う菫に、那月は、むううと、口を紡いだ後、ぴょこんと、床に降り立つ。
「もー、……私、まだバイト中なんですけど」
顔を真っ赤に染めたまま、菫を真っすぐ見れず、そう言えば、菫は、うんうん、とうなずく。
「窓辺のディスプレイ、イースター仕様にするんでしょう? さっき、そこの坂道で店長さんにすれ違って教えてもらったよ。このウィンドウ、いつも素敵だな~って思ってたんだけど、那月ちゃんがしてたんだね」
菫が、ぱっと、那月の手を離した後、床に置いてある段ボールへと手を伸ばす。
そして、すちゃっと、ピンク色のウサギの耳がついたカチューシャを取り出した。
菫は、まったくためらうことなく、うさ耳を頭につけると、えへんと胸を張る。
「というわけで、那月ちゃん。私もディスプレイ、お手伝いするよ! 店長さんも歓迎してたし」
菫が、そう言った後、ディスプレイへと乗り上がる。
イースター用のツリーと、那月に、菫。少し狭めだった作業スペースが、更に縮まり、那月は、壁に背を当て、スペースを作る。
「もー。ふたりも乗ると、飾れないでしょ」
那月が指摘するも、菫は、窓の向こうに広がる街並みを興味深そうに見つめた後、道行く観光客らに手を振られ、陽気に振り返している。
まあ、そりゃ、それだけうさ耳着こなしてたら、店長も歓迎でしょうよ。
那月はため息をついて、金属製のツリーに、パステルカラーの卵を飾り付けていく。
卵の先端に付属されたリングをツリーの枝に引っかけようとして、つるつるした卵が手から滑り、那月は「あっ」と声を上げる。
「あー、あぶない~」
後ろからにょきっと、手が伸び、那月の落としかけた卵がキャッチされる。
菫が、那月の背後から抱き着くように手をのばしていた。
「えへへ、ナイスキャッチだったでしょ。あっ、今のは魔法を使ってないよ。私の実力です」
ぴたりと、そしてむにゅりと那月の背中に豊満な胸を押し当て、菫が那月の耳元でふわりと甘い声をあげる。
柔らかな体温に、くすぐったい息遣い。
那月は、ぴくんと、身体が反応し、熱が上がりかけるのに気づき、ぎゅ、っと目を瞑る。
「……っ、こ、こんなところで、ひっつかないでよ」
「狭いんだもん、しょうがないでしょ。落ちたら割れちゃうよ」
ぎゅむむ、と更に密着され、那月は、ますます余裕をなくしていく。
菫は、パステルカラーの卵を片手に、那月の肩に、頬を乗せ、耳元で、くすくすと楽しげに笑う。
「それに~、那月ちゃん、拾ってもらったら、なんて言うの?」
ふぅー、と、耳元に息を吹きかけられ、那月は、「ひゃぅ……っ」と声を漏らす。
キルトを飾り付けた壁に、両手を突き、ふるふると身体を震わせながら、なんとか口を開く。
「ぁ……っ、ありが、と……っ」
「えー? 聴こえないなあ~」
菫が耳元に唇を寄せ、ちろり、と舌を伸ばして、那月の耳たぶをつついた時だった。
「もーッ!! 飾りつけ終わらないでしょーがっ!!」
那月が、顔を下に向け、懸命に叫ぶと、ばっと、しゃがみ込み、ディスプレイの窓辺から床へと降り立つ。
そして、顔を真っ赤にして、窓辺に立ったままの菫へと叫ぶ。
「何考えてんのよ、こんな人目につくところで! お手伝いはどうしたのよ、お手伝いは!」
那月が力いっぱい、怒りを示すと、菫が、てへ、と先ほどまで那月の耳を遊んでいた舌を出す。
「だって、ウサギ耳つけた那月ちゃんが可愛かったから~。恥ずかしがって震えてると、ウサギの耳までぷるぷるしてるんだもん~。ほんとにウサギさんみたい~」
「──悪いことしたら、なんて言うのよ」
「ごめんなさい」
菫が、ディスプレイの窓辺に立ったまま、深々と謝罪のお辞儀をした。反動で菫のピンクのうさ耳が、ぺこりと一緒に垂れていた。
〇
窓辺に置かれたツリーに、ひとしきり卵を飾り付けした後、那月は、てくてくと、店内にある木製の商品棚へと近づく。
そこには、手乗りサイズのミニチュアの人形やオモチャが並べられていた。
可愛らしい服を着た女の子に男の子。動物園にいるような動物から、空想の生き物。お花や食べ物。種類は豊富だ。
那月は中腰になり、商品棚をじっと見つめ、自然と笑みを浮かべる。
那月の隣に、菫が、軽やかな足取りで近づき、ひょこりと覗き込む。
「可愛いお人形さん、いっぱいだね」
「うん。どれか窓辺に飾ろうと思って。イースターなら、やっぱりウサギかなあ」
那月は、指先をそっと伸ばし、棚から陶器製の白いウサギを慎重に掴み、手のひらに乗せる。
赤い目をして、前足を上げ、ちょこんと座るウサギを、那月は、大きな指先で、撫でる。
「何匹か飾ろうかな。棚にあるウサギ、全部飾っちゃうと、ウサギを欲しくなったお客さんが取りづらくなっちゃうから、少し残しておく」
「オッケー! じゃあ、私も運ぶね」
菫が、にこりとエンジェルスマイルを浮かべ、美しい白魚の手で、丁重に他のウサギの人形を摘まむ。
ふと、那月は、自身が菫の魔法で、五センチの大きさに小さくしてもらい、目の前の人形のように、指先で摘まみ上げられた時を思い出す。
「……~っ」
トクンッと、身体が熱をあげ、那月は下腹部を、きゅんっと疼かせた。
菫にあんなこと言っておいて、私ったら、こんな時に、何考えてるのよ。
かぁっと、自身に恥ずかしさを覚え、うつむいていると、ふいに菫が声をあげ、こちらを振り返る。
「あ、そうだ那月ちゃん。このキノコとか一緒に飾るのはどう?」
「えっ!? あ……っ」
那月は驚き、思わず手の中に持っていたウサギを手から離してしまう。
「あっ、待って、落ちちゃうっ!」
慌てて手を伸ばし、一瞬、ウサギの足に触れるも、掴み損ね、コロリと木製の床に落下し、棚の下に転がり込んでしまう。
「わあ、落としちゃった……」
「ごめんね、とっさで魔法使えなくて拾いそびれちゃった」
菫がしょんぼりするので、那月は、「ううん」と慌てて首を横に振る。
「私がぼんやりしてただけだから」
というか、変なこと考えてただけだから。
那月は、私服の水色のスカートをするりと太ももに添わし、木製の床に膝をついてしゃがみ込む。
ウサギの人形が転がり込んでしまった、木製の商品棚の下を覗き込むべく、顔とうさ耳が床につきそうな程にまで、身体を曲げる。那月のポニーテールが、ゆらりと揺れて、木の床にその尾が到達していた。
薄暗い商品棚の下。薄暗いそこの中心部に、陶器製のウサギが転がり落ちている。
棚の向こうは、同じサイズの商品棚が、反対側から見えるようにぴたりと背中合わせでくっつけていて、あまり光が届いていない。
那月は、商品棚の下へと、するすると手を伸ばす。
ざらざらとした砂埃が指の腹をなぞり、ちくちくする商品棚の板の背面が、那月の手の甲をひっかいてくる。
「いたた……、結構狭いなぁ……」
慎重に進めていた手の甲も、やがて、ごつんと、棚の留め具にぶつかり、進めなくなってしまう。
「うーん……! あと、ちょっとなんだけど、取れない……」
ぷるぷると伸ばした指を震わせるも、あと一歩が届かない。
爪伸ばしておけば良かったかな、と明後日の方向に後悔をしつつ、那月は、自身の手を棚から引き抜く。
「私が魔法で取るよ~、那月ちゃん」
菫が、那月の向かいで、床にちょこんと正座して座ってそう言う。
「魔法って、どうやるの」
「ウサギさんに、自分で、ちょこちょこ~っと、動いてもらうの」
「でも……、棚の留め具があって、結構、取りづらいよ。傷ついちゃうかも」
落とした時に、壊れてないことを祈りながら、那月がそう言えば、菫が、ひょこっと、棚の下を覗き、「なるほど~、確かに~」と声を上げる。
「うーん。じゃあ、ウサギさんに来てもらうんじゃなくて、迎えに行く方がいいかな?」
「迎えに……?」
「うん。那月ちゃんが小さくなって、棚の下のウサギさんを運んで来るの。これなら、留め具が当たらないルート、選べるでしょ」
「え……っ!?」
床に座り込んだまま、那月は、再び、きゅるりと、下腹部を疼かせた。
〇
「えっと、その……」
「小さくなるの、嫌? 那月ちゃん」
嫌なわけがない。むしろ、小さくなれると分かっただけで、身体が火照って仕方がない。
那月は、幼い頃からミニチュアの人形が大好きで、自分自身も同じくらい小さくなって、ミニチュアのオモチャで遊べたら、と願うほどだった。
魔法を使える菫と出会って、生まれて初めて、身体を五センチに縮めてもらった時は、あまりの興奮で、菫の前で淫らに乱れてしまったことすらあるほどだ。
しかし、だからこそ、ここで、容易に、小さくなってしまうと、自分がどうなってしまうか分からなかった。
また私……、菫の前で、いっぱい、えっちになっちゃうかも。
きゅ、っと膝の上で水色のスカートの裾を握り、那月は、なんとか口を開く。
「えっと、その……、お店の中で、流石に前みたいに、裸になっちゃうのは、ちょっと……」
前回、自身の服に呑み込まれる勢いで小さくなった時のことを思い出し言えば、菫が「あぁ~!」と声を上げる。
「大丈夫だよ~。今度はねえ、ちゃんとお洋服も一緒に、小さくするよ」
「そうなの?」
そんなことも出来るのか、と那月は、不思議に思っていると、菫が、「うんうん」とうなずく。
「小さくなるのが大好きな那月ちゃんのために、この菫、魔法を練習いたしましたっ」
菫は、豊満な胸の上に乗った制服のリボンに、ぽすんと手を当て、えへんと誇らしげな顔をする。
「そっ、そんなの言わないでよ」
菫にしか打ち明けたことのない、自身の願望を言葉に出され、那月は、かああぁと頬を赤くしながら、声を上げる。那月のために、密かに練習していたのかと思うと、嬉しいのだが、いかんせん、二人きりとはいえ、バイト先で、堂々と言われると、うれしさも恥ずかしさに埋もれてしまう。
菫は、那月を見て、ふふ、と優しく笑みを浮かべ、小首をかしげて那月を覗き込む。
「お洋服着てるなら、小さくなっても大丈夫?」
「ぅ……っ、そ、その……、暗い中、ウサギを運べるか心配というか」
素直に、小さくなると言うのがためらわれ、つい、そう言うも、菫は、ふふんと、得意げな顔をする。
「大丈夫! お任せください」
「何か魔法を使うの?」
「スマホのライトを、棚の下に立てかけておきます」
「現代技術」
那月は、菫と初めて出会ったころ、連絡先をスマホで交換しあおうと言われ、驚いた時を思い出していると、菫が、雪肌の美しい指を、口元に添え、笑みを浮かべる。
「じゃあ、行くよ~、那月ちゃん」
「えっ、あっ……」
「──那月ちゃん、五センチになあれ」
指先で投げキッスでもするように、ついっと動かした菫の指から、虹色の光が溢れ、木の床に座り込んだ那月を包み込んでいく。
「ひゃっ、ひゃぁあぁあぁぁあああっ!!」
虹色の光と共に、身体を更に火照らせながら、那月は、しゅるしゅると身体を縮めていった。
〇
「ぁっ、あぁあっ、ふひゃぁあぁぁああぁあっ!!」
沢山のミニチュア人形を並べた商品棚と、目の前に座る菫が、どんどん巨大化していく。
私……、どんどん小さくなっていってる……!
強烈な熱と快楽を伴いながら、那月は、身体が縮小化していく感覚を受け入れる。
気持ちいい……! 小さくなるの、気持ちいいよお……っ。
身体を火照らせ、ほとんど嬌声に近い叫びを上げながら、那月は、どんどんサイズを縮めていく。
この心地良さは、魔法によるものなのか、那月が小さくなることを幼い頃から望んでいたからだろうか。
答えが己の中で出る前に、那月は、縮小による快楽に呑まれていった。
ようやく反応が終わり、菫の魔法の言葉の通り、身体が五センチにまで縮んだ頃。
那月は、顔を火照らせ、へにゃりと頬を緩ませ、床にうつ伏せで倒れ込んでいた。
「はぁ……っ、はぁっ……」
私……、また小さくなっちゃった。
とろりと、目を甘く細め、浅い呼吸をしていると、目の前に、菫の大きな指が現れる。
ぷに、と、那月の小さな顔をつつくと、大きな菫の声が、空から降ってくる。
「ふふ。また、小さな可愛い那月ちゃんになっちゃったね。大丈夫?」
「ぅ、……うん……」
那月は、ふらふらと、身体を起こし、なんとか立ち上がると、大きな菫を見上げる。
何もかもが巨大化した世界で、自身の三十倍以上の大きさをした菫が、正座をして座っている。
菫の膝よりも小さくなってしまった那月には、今の菫は、荘厳な女神のようにすら感じてしまう。
くらくらと、この状況を、快楽と認識て酔ってしまいそうなのを、那月は、ぐっと、小さな足に力を入れて、深く息を吸って吐き出す。
「ウサギの人形、取って来なくちゃ」
那月は、くるりと、踵を返し、商品棚へと向き合う。
棚の下の隙間は、すっかり、那月と同じくらいにまで、大きくなっていた。
薄暗い棚下の奥に、ころりと転がる大きなウサギの陶器製の人形が目に入る。
コトンと、背後で大きな音がしたかと思うと、パッと光が差し、奥の様子がよく見渡せるようになった。
振り返れば、那月よりも大きなスマホが、菫の大きな手によって置かれ、灯りを照らしていた。
「これでよく見えるでしょう?」
菫の声に、那月は、「うん」と言いながら、眩しさに目を瞑り、身体をくるりと棚に向ける。
お店で見かけるような、巨大な姿見ほどのスマホに灯りを照らされ、目がちかちかしてしまう。
「よしっ。じゃあ、取ってくるね」
那月は、ひょこり、と中腰になると、商品棚の下へと潜り込んだ。
〇
菫と同じくらいの大きさだった頃に、指の腹で触った砂埃が、小さな那月には、小石のように感じた。
ざりざりとした木の床を進み、大きなスマホの光に、小さな影を映しながら、那月は、少し先に転がるウサギを目指す。
途中、ちらりと、左右を見渡すと、那月の顔よりも大きい綿埃が、少し先に落ちているのが見えた。
お掃除しなくちゃだなあ、と思いながら、クモとか居ないといいなあ、と少し怖がりつつ、足を進める。
くんっ、と頭を引っ張られるような感覚がして、ぎょっと足を止め、上を見れば、棚板の背面に出来た、木目のギザギザに、那月のウサギ耳が引っ掛かっていた。
さすがに、ウサギ耳のカチューシャは、外してくれば良かったかな。
那月は、小さく背伸びをして、板の尖りに引っ掛かった自身のウサギ耳を丁重に外す。
今ここで、カチューシャを外してもなくしちゃいそうだし……。
那月は、自身のウサギ耳に両手を添わし、ぴょこりと、耳が垂れるよう、折り目を入れる。
針金が入っていたらしい耳は、真ん中で角度がつけられ、那月のうさ耳を含めた身長を縮めさせる。
全長を調整した那月は、再び、歩を進めていく。
「あっ、今度は、ネジが飛び出てる……」
商品棚を固定させているらしいネジが、突き出ていた。
那月は、エプロンを身に着けた胸元に、きゅっと両手を置き、そっと中腰になり、そのネジを潜り抜ける。
その先に、目的のウサギの人形が転がっていた。
「わっ……、意外と大きい。今の私より、もしかして大きいかも」
那月は、しげしげと、転がる陶器製のウサギの人形を見つめる。
てっきり、本物のウサギくらいのサイズになるかな、と思っていたけど、ウサギというよりは、大型犬とか、牛に近いサイズ感だった。
先ほどまで、自分の指先で摘まめていたけれど、今の那月は、摘まみ上げられてしまう程に小さいのだから、人形と同等のサイズになっているのは当たり前か。
那月は、「ほぅ……」と息を吐くと、ふらふらとウサギに引き寄せられる。
ぴたりと、小さな手をウサギに当てると、ひやりと冷たい。
「私……、こんなに小さくなっちゃったんだ……」
ひとり、ぽつりとつぶやき、頬を染める。
そして、ハッと、我に返り、ぶんぶんと、首を横に振る。
違う違うっ、えっちなこと考えてる場合じゃないんだったら。
那月は、その場にしゃがみ込み、転がるウサギの人形を、入念に観察する。
「良かった……。壊れたり、傷できたりはしてないみたい」
意外と頑丈なんだなあ、と思いながら、那月は、抱き着く様に、体感として牛ほどにまで大きいウサギの人形に、両手を添わす。
「ん……っ、んーっ」
ぐぐぐ、と力を入れる。わずかにウサギを床から浮かすことは出来るも、重量感があり、那月は、ふらついた後、ぽすんと、その場に、再びウサギの人形を置いてしまう。
ぺたり、と大きな木の床に座り込み、「はぁ」と大きく息を吐く。
「こんなに重かったっけ、この人形」
自身の非力さが信じられない様子で、那月が独り言ちる。
「ちょっと、小さくなりすぎちゃったかも」
那月が、しゅん、と心を沈めた後、棚板の留め具と板を覗き込み、大きな灯りを照らす出口へと、小さな声を張り上げる。
「菫~っ」
「はーい。呼んだ~? 那月ちゃん。どうしたの」
大きな菫が、ひょこっと、棚の下を覗き込む。
藍色の大きな瞳が、ばさばさと、長いまつ毛で何度も瞬きされている。
「えっと、ウサギが大きくて運べなくて」
「そっか~、那月ちゃんを同じ大きさにしたら小さすぎちゃったんだね」
棚の向こう側で、菫が納得するような声を上げる。
「那月ちゃんを、ちょこっとだけ大きくしようか?」
「うーん……」
菫の提案に、那月は、悩みだす。
そりゃ、五センチじゃなくて、八センチとか十センチとかになれば、運べるかもだけど。
ちらりと、上を見上げ、ネジのでっぱりや尖った板の裏が目に入る。
そこまで大きくなっちゃったら、今度は、私が出られなくなっちゃうかも。
何より、菫はそこそこの確率で、うっかり魔法を失敗してしまうことがある。
前回も、菫は、那月のシャツの胸囲と間違えて、那月本人の胸囲を大きくしてしまい、那月の胸は、運動会の大玉サイズにまで膨れ上がってしまったのだ。
今ここで、間違えて元の大きさに戻っちゃったら、棚が全部ひっくり返って、今度こそ、お人形壊しちゃうかも。
本人にやんわり失礼なシミュレーションを胸に、那月は、そっと口を開く。
「棚の板が意外と低いから、そうなると、私が出れなくなっちゃうかも」
「なるほど~。それじゃダメだね」
菫の納得する声に、那月は少し安堵する。
「運べなくても、転がすのはどう? ネジが飛び出たところを超えたら、ウサギさんが一人で出口に出れるよう、魔法で動かしちゃうよ」
「あ、それならいけるかもしれないね」
那月は、再び立ち上がり、ウサギの背後へと回る。
「ん……っ、っしょっと、ってい!」
渾身の力を込めて、陶器製のウサギを押せば、ずず、と少しずつ動き出す。
那月は、今度は、タタッと小さく駆け出し、ウサギの前へと移動する。
尖った鼻先を掴み、慎重に向きを変え、ネジのでっぱりがウサギに当たらないよう、動かす。
「んーっ、もう、少し……っ。ひゃあっ」
ウサギの大きな鼻を掴み、自身に引き寄せるように動かしていた那月は、つるりと手を滑らせ、ぺしゃりと仰向けに倒れ込む。
立てた膝から、ぺらりと、水色のスカートがまくれ上がり、小さな太ももが露わになっていた。
「いたた……。こんなに大きなウサギ、指先だけで持ち上げてたなんて、信じられない」
那月は、はぁ、とため息をついた後、小さく立ちあがり、ぱっぱっ、とエプロンやスカートについた大きな土埃を払う。
「那月ちゃん、大丈夫~?」
「うん、なんとかずらせたよ」
「じゃあ、ウサギさんに動いてもらうね。──ウサギさん、出口まで、動いて~っ」
商品棚の隙間を、虹色の光が、ギュンッと動き、那月の目の前に転がるウサギを包み込む。
那月が眩しさに一瞬、目を閉じた後、目を開くと、倒れていたウサギが、ぴょこんっと前足を上げるように座り込んでいた。
そして、これからかけっこでも始めんばかりに、その場で、カタコトと音を立て、前後に跳ね始めた。
「わぁ……。すごい。ウサギの人形が動いてる……」
オモチャのように小さくなって、小さなオモチャと遊びたい。そんな願望を、幼い頃から抱いていた那月には、感慨深い光景だった。
「ふふふ。ウサギさん、おいでおいで~!」
菫の声に、ウサギが、ちらりと赤い目を向ける。
やっぱり、菫の魔法ってすごい。
こんなに夢みたいなこと、本当に出来ちゃうんだ。
那月が、目を輝かせ、ウサギの人形を見つめている時だった。
──ピリリリリリリ。ピリリリリリリ。
ライト替わりに立てかけていた菫のスマホが、大きく鳴り響いた。
「わわっ! 電話だ。ちょっと待ってね。──はい、もしもし~?」
菫が、大きな手で、大きなスマホを手に取り、床から引き上げる。
途端に、那月とウサギのいる棚下が、急激に暗闇を取り戻す。
「あっ、菫っ。待って。まだ、スマホ取らないで」
暗がりに目が慣れず、那月が不安げな声を出したその時。
ドンッ! と、背中に衝撃を感じ、那月は、うつ伏せに倒れ込む。
「きゃあッ!!」
大きな樹の床と、小石のような砂埃が、那月の小さな身体を撫で上げる。
むぎゅうう、と、上から重いものがのしかかり、那月は倒れ込んだまま、身動きが取れなくなってしまった。
「えっ!? え、何、なに?!」
那月が驚き、訳が分からず、身体をねじって後ろを見つめると、那月の小さな身体に、体感にして牛ほどにも大きい白いウサギが、那月に乗り上げていた。
「え……っ? ウサギ? なんで」
那月が、状況を理解しきる前に、那月に乗り上げたウサギは、ガクンッ!! と那月の上で、前後に動き始めた。
「ひゃぁあっ!? やっ、何、なにするの」
那月が、じたばたと小さな手足を動かし、抵抗するも、ずしりと重いウサギを退けるには至らない。
ウサギは、カクカクと、まるで、木馬のように、那月に乗り上げたまま、前後に動き続ける。
「ぁっ、やぁっ、なんでっ、やだっ、退いてっ!」
暗くて、出口までの道が分からなかったのだろうか。
それとも、棚に引っ掛かって、ウサギが動けなくなってるのか。
那月は、上に乗り上げるウサギの動きに、されるがまま、小さな身体を揺さぶられる。
小さな頭に、ちょこんとつけられたカチューシャのウサギ耳が、那月とウサギの律動に合わせて、ぷるぷると揺れ動く。
その様は、小さなウサギ耳を生やした那月と、巨大なウサギのオスが、生殖行為に及んでいる様にも似ていた。
那月の水色のスカート越しの小さなお尻に、巨大な陶器のウサギが、ぱんぱん、と後ろ足が当てられ、那月は、ウサギの下で、ヒクヒクと身体を震わせる。
「ぁんっ、やぁんっ、ち、ちが……っ、私、ウサギじゃないったら!」
那月は、涙目になり、顔を赤らめながら、必死でウサギの下から逃げ出そうと、身体を捩る。
カクカクと動き続けるウサギの人形に、那月の小さな水色のスカートがまくれ上がり、那月は、桃色のショーツに包まれた柔らかな尻を、ウサギの人形に曝け出してしまう。
カクカクカクカク、と揺れ続ける陶器製のウサギの足の尖りが、那月のショーツ越しの秘部に当たり、那月は、更に追い詰められていく。
「ぁあぁっ、らめっ、そんなとこ、らめぇっ!」
那月の小さな身体は、小刻みに震え始め、手足の力が抜けていく。
遠く、僅かな光を零す、商品棚の向こう側。
菫の大きなローファーが見える。電話に応じて、立ち上がっているらしく、那月の声は届いていないらしい。
カクンッカクンッカクンッ、──くちゅり。
「ひぁ──ッ!」
繰り返し、那月のショーツに律動を加えているうちに、ショーツまでずれてしまったらしい。
那月は、ウサギの人形の足の先端を、ついに、秘部にまで受け入れ始めてしまった。
カクカクカク、くちゅくちゅくちゅ、ぐちゅんっ、カクカクカク、くちゅくちゅくちゅ、ぐちゅんっ。
「ぁっ、ひぃ……っ、あぁっ、あぁんっ、な、なつき……っ、ウサギと……っ、えっち、しちゃってるぅ……っ!」
ちかちかと目に火花が飛び、那月は快楽の階段を駆け上がっていく。
だめっ、だめっ! こんなの、だめ! 菫の傍で、バイト先のお店で、ウサギの人形で。
那月の僅かに残った理性が必死に叫ぶも、小さな身体に力は入らず、重い陶磁器の人形を退かすに至らない。
カクカクカクっ、ぐちゅんっ! ぐちゅんっ! ぐちゅんっ!
「ぁうっ、あぅっ、はぁんっ! らめぇ、も……っ、イク……っ、イクっ、イっちゃ、う……っ、あぁあっ……、ぁっ、あぁっ、あぁっ、あぁんっ、ぁ……っ、あぁぁあぁぁぁああぁぁぁあっ……!!」
巨大なウサギの下で、那月は、ウサギ耳をピクピクと震わせながら、絶頂に至る。
那月が焦点の合わない瞳をして、絶頂の余韻から覚めない間も、ウサギの人形は、カクカクと、那月の上で動き続けていた。
〇
「あれ? 那月ちゃんとウサギさん、全然でてこないなあ」
電話を終えた菫が、床に正座した後、スマホで灯りを灯すや否や、ウサギの人形が、ぴゅーっと、一直線に、菫のもとへと駆け寄ってきた。
そして、菫の手のひらで、コロリと転がり、元の動かぬ人形へと戻る。
菫は、ウサギを不思議そうに一瞥した後、木製の商品棚へと視線を移す。
「那月ちゃん?」
菫がひょこっと、棚の下を覗き込めば、那月がうつ伏せで、息も絶え絶え、倒れ込んでいた。
「わーっ、那月ちゃん、どうしたの」
菫は、ウサギの人形を床に置くと、迷うことなく、人差し指を振り、虹色の光を那月に放つ。すると那月は、ぎゅんっと、菫の手のひらへと吸い寄せられた。
菫の大きな両手に寝かせられた那月は、力なく、菫を見上げる。
白シャツと水色のスカートは、乱れてぐしゃぐしゃで、那月の白く柔らかな脚や胸元を露わにしており、深緑色のエプロンも、肩紐がずれて、ほどけかかっていた。
「菫……」
「那月ちゃん、しっかりして」
菫が泣きそうな顔をして、手のひらの上に寝た那月に、顔を近づけ、那月の小さな身体に、大きなキスを、ちゅっと降らす。
那月の小さな身体が、きらきらと光り、少しずつ、力が戻ってくる。
「何があったの?」
「ウサギの人形が……、上に乗っかって退いてくれなくて……」
事の顛末を話せば、菫が、ぶわわっと、大きな瞳に涙を浮かべる。
「そんな……っ、そんな、ごめんね、那月ちゃん、ごめんねっ」
ぼろぼろと大きな涙をこぼし、那月は、菫の手のひらに座り込み、大きな菫を見上げる。
手のひらに座った那月の小さな脚にも、大粒の涙が、零れ落ちてきた。
「菫、待って、泣かないで」
「だって、私の魔法で、那月ちゃんに酷い目合わせちゃった……。ごめんなさい、ごめんなさい。那月ちゃんの大切なお店とお人形で、私……っ」
大きな涙が、那月の小さな頭に落下し、那月のポニーテールが、べちゃりと首筋に張り付いた。
巨大な真珠のような涙を、頬に伝わす菫を見上げ、那月は、ぱちぱちと、瞬きをする。
「菫……」
那月は、大きな手のひらに立ち上がり、菫の濡れた頬へと小さな手を添わす。
小さな手の甲が、あっという間に、びしょ濡れになってしまうほどの、大粒の涙だった。
「えっと、……確かに、暗がりでウサギが退いてくれなかった時は、ちょっと驚いたけど。……私は、菫がいるのに、人形相手に感じちゃったのが、嫌だったっていうか」
恥ずかしさで燃えてしまいそうな程、身体を火照らせながら、那月が言葉を紡げば、菫が、ぱちぱちと瞬きをして、瞳に溜まっていた涙をこぼしていく。
「那月ちゃん……っ!」
菫は、両手を丸めると、手の中の那月を、ぎゅっと包み、自身の口元へと寄せる。
「那月ちゃんっ、那月ちゃん……!」
「菫、ちょっと、苦しい、待って、潰れる!」
那月が、じたばたと、手の中でもがいていると、菫が、艶やかな唇から、そっと舌を出し、小さな那月を舐め上げる。
「ふひゃぁあんっ!」
べちゃりと、甘い刺激を受け、那月は嬌声を上げる。
「私の魔法で、那月ちゃんのお人形への大切な気持ち、壊しちゃったかと思った」
菫の声に、那月は、菫の手の中で、身体だけでなく、心まで熱を帯びていくのが分かった。
ずっと誰にも打ち明けていなかった、那月だけの特別な気持ち。
小さな人形やオモチャを好み、自らも小さくなりたいという想い。
菫は、すべてありのままに受け止め、那月と同じように、大切にしてくれているのだ。
那月の小さな視界が、じわりと歪み、大きな涙が溜まっていく。
やがてそれは、限界を迎え、ぼろぼろと零れ落ちていく。
「那月ちゃん? どうしたの、怪我しちゃったの? 怖くなってきちゃったの?」
菫の案ずる声に、那月は、ふるふると首を横に振り、ぎゅっと、大きな手のひらに抱き着いた。
「ありがとう、菫」
私、菫の前では、小さなお人形も、小さくなる自分も、好きでいていいんだ。
菫の暖かく、大きな手のひらの中で、小さな那月は、しばらく大粒の涙を流していた。
〇
「どう? 那月ちゃん。結構、可愛くできたと思わない?」
菫が、肩に乗せた小さな那月に尋ねながら、窓辺のディスプレイを指差す。
壁にかけたキルトに、パステルカラーの卵を飾った金属製のツリー。
そのふもとは、緑色のマットが敷かれ、たくさんのウサギと、キノコや切り株、木の実や花のオモチャが並べられている。
アドバイザーの那月を肩に乗せながら、菫が飾り付けたものだ。
「すごっく可愛く出来たじゃない。……ていうか、一人で飾り付けなくても良かったのに」
休んでて、と那月を小さくしたまま肩に乗せるや否や、菫は一人でディスプレイをこなしたのだった。
「だって、小さい那月ちゃんに見せたかったんだもん」
菫は微笑むと、肩に座り、菫の髪を握っていた那月を、ひょいと指先で摘まむ。
那月はあっという間に、窓辺のディスプレイへと運ばれてしまった。
とすん、と緑のマットが敷かれたディスプレイに置かれ、那月は、「わぁ……」と声を上げる。
自分と背丈の変わらない、ウサギたちが集まり、まるで椅子やテーブルほどにまで大きい木の実や切り株、キノコが那月を取り囲んでいた。
森の中に迷い込んだかのようだ。
「可愛い……」
那月は、うっとりと、小さな人形が並ぶディスプレイを見つめる。
本当に私、オモチャの中に、入り込んでる。
「気に入ってくれた?」
「うん……! ありがとう、菫」
那月は、喜びで満ち溢れた笑みを浮かべ、大きな菫を見上げる。
小さな那月を見つめ、菫も、咲き誇る花のように、美しい笑顔を見せた。
〇
菫の大きな手のひらが、トン、と床に置かれ、那月は、ぴょこりと、大きな木製の床へと降り立つ。
「店長さん帰ってくるまでに、元に戻っておかないとね」
「ここまで遅いと、もう帰って来ないつもりのような気もするけど」
「どちらにしろ、その大きさでお家には帰れないでしょ。はい、行くよ~、那月ちゃん」
菫が、くすくす笑いながら、人差し指を振ろうとするので、那月は、ハッと我に返る。
「ねえ、菫。一応、確認なんだけど、……ちゃんと、私、元の大きさに戻るとき、服も大きくなるわよね」
「大丈夫だよ~。ふふふ。身体だけ戻ったら、大変だもんね」
おかしな冗談のように笑う菫を見上げながら、ほっと安堵する。
「じゃあ、行くよ~。──那月ちゃん、大きくなあれ~!」
ぱちん、とウインクすると共に、菫が人差し指を振ると、虹色の光が生まれ、那月の小さな身体へと飛び込んできた。
「ふぁ……っ! ぁあぁ……っ、あぁぁあああ……っ」
全身が、急激に熱くなり、那月は、ピンッと身体を張る。
ふるふると身体が震えると、ぐぐぐ、とそのサイズが大きくなっていく。
ぐんぐんと、視線が上がっていき、周囲の景色が、馴染みのある元の大きさへと戻っていく。
「はぁ……っ、はぁっ、ぁあぁ……っ、ん……っ」
那月は、元の背丈にまで成長すると、胸元に手を当て、荒く息をする。
「も、戻った……、かな」
見慣れた大きさの景色が周囲に広がっていたが、トクントクンと、鼓動が高鳴り、身体はまだ熱を帯びたままだった。
「あれ……? 菫……、私、まだ戻ってないのかな」
「ん? 那月ちゃんの背、いつもの大きさになってると思うけど」
菫の不思議がる声を聴きながら、那月は、ふらふらと足を動かし、ディスプレイされた窓辺のガラスを鏡代わりに写す。
確かに、見慣れた自身の背丈が、窓ガラスに映っている。
それなら、この熱は一体……。
那月が疑問に思った、その刹那。
──ドクンッ!
「ひぁっ!?」
那月の胸が、ビクンッと大きく震えたかと思うと、シャツとエプロンの下の、那月の胸が、ヒクヒクと震えだした。
「ぇっ!? え、えっ、何これ。おっぱいが熱い……っ! ぁっ、あぁあんっ、菫っ、私っ、おっぱいが変っ! だめっ、だめぇっ!! 来ちゃうッ、なにか、来ちゃうよぉおおっ!!!」
ドクンッドクンッドクンッと、おっぱいが波打ち、ぐぐぐと那月のブラとシャツを押し上げ、ぴちりとシャツとエプロンが膨れ上がる。
「あれ……? 那月ちゃんのおっぱい……、もしかして大きくなってる?」
ばつ─────んッ!!!!!!!!
「あぁぁあぁぁああああああああああんっ!!!!」
ボタンが激しい音と共に弾け飛び、自由を得た那月の胸が、ぼよぼよと激しく波打ちながら、巨大に膨れ上がっていく。
「あぁぁあぁあぁあああぁああんっ! イクぅううっ!!! おっぱいが弾けちゃうぅぅうぅうう!!!!」
激しくバウンドしたおっぱいは、ガシャガシャと、窓辺のツリーを倒した後、ぱこんっと、ディスプレイ用の窓辺の中に、まるまるはまり込んでしまう。
むぎゅうううう、と、四角い大きな窓に、那月の膨れ上がった胸は、まるで、箱詰めされたふたつのパウンドケーキのように、隙間なく、詰まってしまった。
「ぁあぁあぁ……っ、む、胸が……っ、膨らんでるぅうぅ……。気持ちいい……ッ! あぁあぁぁん……っ」
那月は、両胸を窓辺にはめ込んだまま、ヒクヒクと、胸が急激に膨らんだ快楽の余韻に、顔を歪ませた。
〇
「うー~ん……。えっと、その~……、前に那月ちゃんのシャツを大きくしようとして、間違って那月ちゃんのおっぱいを大きくしちゃったときの魔法の履歴、消しきれてなかったみたい」
スマホの予測変換みたいなノリで、菫が、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「でも、えっと、那月ちゃんのおっぱい、大きすぎて、もはや今、外から見ても、肌色の風船が敷き詰まってるようにしか見えないと思うから、たぶん、那月ちゃんのおっぱいだって、外の人は分からないと思うよ!」
「この事態には責任、感じなさいよ!!」
握りこぶしを作ってポジティブに励ます菫に向かって、那月は窓にはまって抜けなくなってしまった自身の超乳と格闘しながら、声を上げた。
元の背丈に戻った那月が、精一杯、力を入れてはみたものの、ぴっちりと隙間なく埋まった超乳は、まったく微動だにしなかった。
〇
「あれ。まだいたのか」
ガラス戸の入り口を、キィと開けて、店へと戻った店長が、店内にまだ残っていた那月と菫を見て、驚きの声を上げる。
「遅くまで悪いな。ディスプレイ、仕上げてくれたんだな」
店長が、綺麗に飾り付けられた窓辺を見ながら礼を言った後、那月と菫を見て、「ん?」と眉をしかめる。
「なんか乱れてね? 段ボールでもひっくり返したのか」
那月の灰色のポニーテールに、菫のくすんだ桃色のハーフアップ。それらがぐしゃりと歪み、後れ毛が重力に逆らって、自由に伸びている。
「ちょっとツリーを一回、倒しただけです」
「そうそう、急いで直しただけでーす!」
ダッシュで、膨らんだ胸によって破れた服を直してもらい、もう一度、飾りつけをした、という詳細を省いた二人の説明に、店長は納得してうなずく。
遅くまで共に準備した菫にも、お礼しないと、と言い出す店長に、菫は、「はいっ」と手を上げる。
「店長さーん。私、お礼のほかに、これも欲しいでーす!」
すちゃっと、手の平を広げると、そこには、陶器製の白いウサギの人形が置いてあった。
商品棚の下で、那月に乗り上げ、那月をイかせた人形だった。
「そ、それ……っ!」
那月が言葉を失っていると、店長がすんなり承諾する。
「気に入ったのか」、と尋ねる店長に、菫が、うんうん、と大きくうなずく。
「これから、楽しい思い出いっぱい、増やしたいんだ」
その《愉しい》思い出に、どれだけ自分は淫らに乱れてしまうんだろう。
菫の手のひらに置かれたウサギを見つめ、那月は、ひそかに甘い息をもらす。
きゅるり、と、那月の下腹部は貪欲に、唸りを上げていた。