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【連載】憑依遊戯 第1話 『ソイツ』の探しモノ


【《『憑依』で『女』を『収穫』する話》の主人公を代えた続編になります】



「あ~あ~、またやってるよ……」


 本日最後の授業を受けながら、俺――霧峰京也(きりみね きょうや)――は溜息交じりに誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 教室内には、教壇に立つ若い女性教師の綺麗な声での朗読が、まるで小鳥の囀りのように心地よく響き渡っている。

 だが問題は彼女ではない。

 俺の溜息の原因となっているのは、彼女の周辺をうろつきまわっていて、俺にだけ視えている薄っすらとした存在……『浮遊霊』の方だ。

 その容姿から男だと分かる霊体が、先程から先生に付き纏い、その体を乗っ取ろうと何度も挑戦しているのだ。


(でも、無理なんだよなぁ~)


 物心ついた頃から、この手の霊を数え切れぬほど見てきた俺には分かる。

 当然の事だが、先生の体には本人の霊体が収まっており、他の霊体が入り込む余地が無い。

 仮に彼女の霊体がその体から離れていたとしても、肉体と霊体には相性があるようで、波長が合わない肉体に霊体は入ることが出来ない。


 以前、事故に遭って一時的に霊体が離れた女性の肉体に、よく似た女の浮遊霊が入り込みそうになる場面を見たことがある。

 しかしその時も、応急手当で女性の肉体が覚醒すると同時に彼女の霊体も引き戻されたため、『乗っ取り』は失敗に終わっていた。

 つまり同性の霊ならまだ波長が近いから可能性が無い訳ではないのだろうが、この男の浮遊霊が女である先生の体を乗っ取るのは、まず不可能と言ってよい。


(気持ちは凄~~~~~く、分かるんだけどな!)


 改めて、自分の体を狙っている存在が傍に居るとは気づかず、壇上で授業を続ける女教師を見つめる。

 彼女の名前は神楽由依菜(かぐら ゆいな)。

 俺が通うこの高校の英語教師で赴任2年目の24歳。

 このクラスの副担任でもある。

 艶やかな黒髪のロングヘアーに、切れ長の目が印象的な整った顔立ち。

 仕事柄、化粧は薄目だが、むしろそれが彼女の清楚な美貌を引き立てている。

 その上、抜群のスタイルの持ち主のようで、身に着けている紺のスカートスーツの胸や腰回りの部分が官能的な曲線を描いていて、目を惹き付ける。

 その魅力的な容姿に純真で優しい性格も相まって、校内では男女生徒・教職員隔てなく人気がある人物である。

 俺にとっても憧れの女性だ。


(俺だって、あんな美人の体を手に入れたら……)


 俺は想像の世界に没入すると、脳内に展開されたパラレルワールドに存在する教室に霊体だけの姿で出現する。

 そして、現実世界と同じように教壇に立って授業をしている美人教師の背後に回り込む。

 俺はそのまま彼女に向かって進み、その体に遠慮なく入り込む。


「うっ!」


 先生が一言だけ苦しそうな呻き声を挙げるが、次の瞬間にはその体は俺の支配下に入っていた。

 自分の体になったのを確かめるべく、細くて白い手を胸に持っていき、そこにある豊かな膨らみを掴むと、笑みを浮かべた。

 だが、クラスの連中から訝しむ視線が集まっているのに気づくと、うろたえがらも由依菜先生のフリをして口を開く。


「え、えっと、今からは自習にする……わね。それじゃあ……」


 それだけ言って俺は教室を出ると、女子トイレの個室に駆け込む。

 そして、興奮で震える手をなんとか動かして、身に着けているモノを全て脱ぎ捨てる。

 今や眼下に広がる大きくて柔らかい2つの双丘を、下から持ち上げるように揉み始め、桜色の先端を指の間で転がすように弄る。


「はぁ~ん……」


 自分の口から、由依菜先生の声で、色っぽい吐息が漏れる。

 思う存分、胸を堪能した俺は、更なる快感を求めて白くて細い指先を股間に潜り込ませようと手を伸ばして……。



「……今日はここまでにしましょうか。みんな、お疲れ様」


 本物の由依菜先生の声で現実世界に引き戻された俺は、教壇に立つ彼女を見つめた。

 俺が不埒な想像をしていた間に授業が終わったようだ。

 目上の女性に対して不謹慎な事だと思わなくもないが、こんなゾクゾクする想像をして股間を硬くしてしまうのは男のサガである。


 まだ男の浮遊霊は諦めずに彼女に付き纏っていた。

 無駄な挑戦を延々と見せられ、どうにもならない事を考えさせられるだけ虚しい。

 霊が視えたからといって、特に今まで人生が変わった訳でもない。

 むしろ受験生である俺にとっては気が散るだけで、少々うざったい能力かもしれない。


「あっ、そうだ!今日の日直は誰かしら?」


 教壇の上で教材をまとめていた先生が挙げた声に、俺は日直であることを思い出し返事する。


「僕です」


 俺の返事にこちらを向いた由依菜先生は、笑顔で言葉を続ける。


「今日は担任の秋山先生がお休みだから、日誌は私が受け取ります。よろしくね」


「分かりました」


 会話が終わると先生は退出し、付き纏っていた浮遊霊も諦めた様子でそれ以上追わず、何処かへ去っていった。


…………


 週末の放課後だけあって、あっと言う間に教室から人気が消える。

 ひとり日直の仕事を終えて、誰も居なくなった教室で日誌を書き上げた俺は、それを持って職員室に向かった。


「失礼します」


 職員室の常時開いたままのドアの前で一言挨拶して、俺は中に入る。

 由依菜先生が自分の席に座って何やら集中して作業を行っているのを確認すると、若干足早に近づいていく。


「これ、今日の日誌です」


 差し出されたノートに一瞬だけ不思議そうな表情で俺を見上げる美人教師。

 だが、すぐに理解して微笑む。


「あ、そうよね、秋山先生がお休みだから副担任の私が受け取るって自分で言ったのにうっかりしてたわ。ありがとう、日直お疲れさま、霧峰君」


(……本当に綺麗なヒトだよなぁ~由依菜先生……)


 目の前の女性の魅力的な微笑に、俺は呆けたように見惚れてしまう。


「どうしたの?何か他に用事があるの?」


「えっ、あっ、なんでもないです!」


 恥ずかしくて本当のことが言える訳の無い俺は、言葉を濁す。


「あらそうなの?でも何かあったら気軽に声をかけてね。私、いつでも話を聞くから」


「その時は、よろしくお願いします」


「はい、じゃあ気を付けて帰ってね」


 俺は軽く礼をすると踵を返し、出口に向かって歩き始めた。


(どうせなら適当な悩み事でも作って、もっと話をしておけば良かったかな?)


 そんなことを考えながら、後ろ髪を引かれる思いで職員室から退室した時だった。

 

 俺は……『ソイツ』を見つけた。


(な、なんだ、あれは!)


 それは男の霊体だった。

 容姿からして中年の男のようだ。

 驚いたのはその圧倒的な存在感で、今まで視てきた浮遊霊たちとは完全に別格なのだ。

 それがこちらに向かって来ていたのだ。


(まさか、生き霊ってやつか?)


 初めて見る存在に危険なモノを感じた俺は、咄嗟に平静を装う。

 だが、すれ違おうとした時、『ソイツ』は足を止めて俺を見つめてきた。

 内心ドキリとして多少ぎこちない動きになったが、俺は気づいていないフリを押し通す。

 向こうも俺の様子に気付かなかったのか、興味を無くしたように視線を外すと、再び動きだし職員室の中に遠慮なく入っていく。

 なんとかやり過ごした俺は、反転してドアに張り付き隠れるようにして、その姿を目で追う。


 『ソイツ』は誰かを探しているようだった。

 やがてその視線が作業を再開していた由依菜先生に止まると、一直線に傍まで移動して彼女を値踏みするかのように眺め始める。

 目と鼻の先で異様な存在に見つめられているなどと全く気付くことなく机に向かって作業を続けている美人教師。

 その姿は、肉食動物に狙われているのに気づかずに草を食べ続ける草食動物を連想させ、俺に凄まじい不安を与えた。


(大丈夫……なはずだ!先生の魂は肉体にしっかりと収まっているんだ。手を出せるはずがない!)


 不安を消し去ろうと強く思い込む俺の視界で、品定めを終えた『ソイツ』は由依菜先生の背後に回り込む。

 そして他の教師たちの視線が自分の方に向いていないことを確認すると、両手を伸ばし、彼女の両肩を鷲掴みする。

 同時に作業をしていた由依菜先生の体の動きが突然止まり、その顔が驚いたような表情で固まる。

 その両手が手前に引かれると、驚いたことに、先生の霊体が肉体から引きずり出されてしまう。

 抜け殻になった体は、首を傾げた状態で虚空を見つめ、両腕がダラリと垂れ下がる。

 突然強制的に幽体離脱させられた女教師の霊体の方は、何が起こったのか理解出来ないまま『ソイツ』に頭からかぶりつかれると、形を歪めて次々とその口の中に納まっていく。

 やがて完全に吸い込まれて消えてしまうと、今度は『ソイツ』自身に変化が起こり始める。

 胸や腰の部分に柔らかな膨らみが出来上がり、ウエストはくびれ、手足はスラリとした女性っぽい感じに変わっていく。

 顔も女っぽさを増して細くなり、徐々に細部が形成されていく。

 最終的に出来上がった顔を見て、俺は息を飲んだ。


(……まさか……由依菜先生……そんな……)


 そう、先程まで男の姿をしていたはずの霊体は、肉体から引き抜き捕食した神楽由依菜の霊体ソックリに変身を遂げていた。

 『ソイツ』は己の姿の変化を確認すると、由依菜先生から写し盗ったその綺麗な顔にニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、今だ驚いた表情で固まったまま椅子にもたれかかっている女教師の肉体に覆いかぶさる。

 するとその美しい容姿を持つ身体に重なっていき、まるで本来の持ち主であるかのように収まってしまった。

 唖然とした俺の視線の先で、生気を取り戻した由依菜先生が動き始めた。

 彼女は具合を確かめるように自分の手を握ったり開いたりしてその様子しばらくを眺める。

 やがてその手を自分の胸に当てて、そこにある膨らみを確かめると、笑みを浮かべて席を立つ。

 そして職員室を抜け出そうとこちらに向かって歩き始めたのだった。


【第2話へ】

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