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【連載】憑依遊戯 第2話 女教師、校内散策を楽しむ


  俺は急いでその場を離れ、気持ちを落ち着かせて状況を整理しようと試みる。


(先生の体に霊体が入ってると肉体に入れないから引き吊り出して……、そのままでは波長が合わなくては入れないから、捕食して由依菜先生の霊体に成りすました……ってことなのか?)


 目の前で起きた事を持論と照らし合わせて考えるとそうなる。

 こんな方法を想像すらしたことが無かったが、実際目の前でやられてみると理に適っていると、俺の中の冷静な思考部分は認めてしまう。


(いやいやいや、とにかく確かめないと!)


 身近な人物、それも憧れている女性に起こった出来事が受け入れがたい俺は、とにかく由依菜先生の状態を確認するべく再び職員室の方を伺う。

 本人がこちらに向かって来ている姿が視界に入った。

 その歩き方は少しガニ股気味で荒々しい上、普段の彼女らしい落ち着きが欠如している。

 何かを探しているのか視線が散漫しているおかげで、まだ俺の存在には気づいていないようだ。


(やばっ!)


 慌てて俺は、近くにあった給湯室の中に滑り込む。

 あの様子だと、ここも覗く可能性が高いので、掃除用具入れの中に身を隠して、スリットから外の様子を伺う。

 とにかく一度やりすごして、すぐに尾行するつもりだった。

 やがて先生が通りがかり、給湯室の中を覗き込んだ。


「あった!」


 彼女は何かをみつけた様子で部屋の中に入ってくると、ドアを閉め、鍵まで掛けてしまった。

 俺は見つからぬように祈りながら息を殺して覗き見を続けるしかなくなる。


 先生は探していたモノ……壁に掛かった大きめの鏡の前に立つ。

 角度を変えながら鏡を覗き込み、自分の顔を念入りに確認すると嬉しそうに目を細めた。


「化粧は薄目で……本当に綺麗な顔をしている。清楚系だな」


 口の端を吊り上げ、今まで見せたことが無い下品な笑みを浮かべる。

 続いて十分に大きさを主張している自分の胸を服の上から両手の掌で持ち上げるように揉み始める。


「大人しい顔をして、この胸のボリュームかよ。さぞかし男子を悩ませてるんだろうな」


 声・姿は間違いなく由依菜先生なのだが、その口調や仕草は、普段とは全く異なる、男のそのものだ。

 胸を堪能し終えた先生の手は、ウエストのくびれを確認し、スカートの上からお尻の肉付きを念入りに確かめ、終いにはスカートの中まで遠慮なく弄りはじめた。


「ガキ共の夜のオカズにするには贅沢すぎる上玉じゃねぇか」


 身体検査が終わった彼女は楽しそうに笑いながら続ける。


「さてと……そろそろ完全に『収穫』するか……」


 もう一度鏡に向かい合って自分の姿を正面に見据える。


「お前の記憶と人格、使わせて貰うぜ、へへっ!」


 鏡の中の自分に下品な笑みを浮かべながら話しかけると、続いてその口から自分の記憶を辿っていくような呟きが漏れ始めた。


「……俺の名前は……ユイナ……そう、私は神楽由依菜……24歳……この学校の英語教師……赴任2年目で、今年は3年生のクラスの副担任をしていて……最近は1000ピースのジグソーパズルにハマっていて、少し寝不足なのよね~……うん、『収穫』完了ね!」


 呟いている間、表情から下品な印象が徐々に抜け落ちて、いつもの落ち着いた表情に戻っていく。


「さてと……これからどうしようかしら?」


 独り言を呟きながら可愛らしく軽く首を傾げると、時刻を確認する。


「……残りの仕事は……うん、全部来週に回せるわね……でも帰るには少し早い時間だわ……だったら折角だし、校内を散策ね。他にイイ『収穫』が出来るかもしれないし、ふふふ……」


 納得したように1つ頷いた先生は、普段と変わらぬ微笑を浮かべ、来た時とは異なる落ち着いた足取りで部屋を出ていく。

 それを確認して俺は掃除用具入れから出た。


(雰囲気は元の先生に戻っているけど、どういうことなんだ?……とにかく追いかけるんだ!)


 俺は尾行を開始した。



 由依菜先生は興味深そうにキョロキョロと視線を振り撒きながら、校内を当てもなく歩いているようだ。

 俺は気づかれないように細心の注意を払いながら、細かい仕草まで観察する。

 表面上は普段通りにしか見えない。

 先程の場面を目撃していなかったら、中身は別人になっているなどと想像すらできなかっただろう。

 

 時折見かける部活動中の女子生徒を値踏みするかのように眺める先生だったが、何かを思い出したように急ぎ足で歩き始めた。

 俺は気づかれないように距離を置いて彼女の後を追う。

 向かった場所は、普段ほとんど使用されることのない研修棟だった。

 そこの女子トイレの前にくると、一度立ち止まって周りを見渡す。

 そして、中に入っていった。

 それを確認した俺は、授業中にした妄想のことを思い出し、女子トイレの外側に回り込んで耳を澄ます。

 ドアが閉じる音がしてから数分後、換気の為にわずかに開かれている窓ガラスから、予想した通りの『声』が漏れてきた。


「はぁ~ん……」


 想像の世界で俺の口から漏れたモノより、ずっと艶めかしくリアルな『声』だった。

 恐らく自分の乳首を弄って出た『声』なのだろう。


「……あっ、あっ、イイ!ここが凄く感じて……ん!気持ちイイ!!!……」


 何度も想像したことはあるが実際に聞くのは初めての、淫靡な響きの『声』だった。


(はぁはぁ……これが……先生の……想像してたよりずっとエロい!)


 俺の股間が反応して起き上がる。

 我慢が出来なくなってソレを取り出すと、記憶にある由依菜先生の容姿からその裸体を想像する。

 そしてその『声』と、全裸の由依菜先生が自分の股間を指でかき回し乱れ狂っている姿の想像を重ね合わせながら、激しくしごき始める。


(はぁはぁ……由依菜先生!……由依菜先生!)


 『声』が止むまで俺は、想像の中の由依菜先生に劣情をぶつけ続けたのだった……。


 

 『声』が聞こえなくなってから数分後、蛇口から水が流れる音がすると、服装を整えながら由依菜先生がトイレから出てきた。

 顔は熱でもあるかのようにほんのり赤味がさしている。

 足取りも若干浮ついている気がする。

 俺自身も、本物の彼女を見て再び興奮するのを収めるのに苦労するが、なんとか気を取り直して尾行を再開する。


 しばらく歩いていると、視界に二人組の女子生徒が入った。

 ジャージ姿の二人は、見ると片方の女子は足を引き摺っていて、もう一人が肩を支えているようだった。

 今までで一番長い時間値踏みの視線を送った後、先生は二人に近づいて声を掛けた。

 

「どうしたの?大丈夫?」


「あっ!神楽先生!彼女、足を痛めたようなんです。それで保健室まで連れて行こうと……」


「そう、わかったわ。私も付き添うわね」


 そしてケガをした女子に寄り添い肩を貸すと、空いた方の手を中々の大きさをもったその娘の胸に持っていき、いきなり鷲掴みした。


「せ、先生!」


 触られた女子が顔を赤らめて恥ずかしそうに声を挙げた。


「あら?足に負担が掛からないように支えられないかと思ったのだけど……やっぱり、普通に腰に手を回した方が良いみたいね。ごめんなさい」


「い、いえ!大丈夫です。女同士ですから気にしないでください!」


「そう?そうよね、女同士だから問題ないわよね。それじゃあ行きましょうか」


 そう言いながらも次に由依菜先生の手が回されたのは、女子の腰というよりはお尻の方で、しかもそれを下から持ち上げるような手つきだった。

 今度は女子は顔を赤らめるだけで抗議をせず、黙って受け入れて歩き始めた。


 しばらく歩くと白衣を着た女性が視界に入る。

 この学校の養護教諭、三崎涼花(みさき すずか)先生だった。

 こちらに気付いた彼女のほうから近づいて来て声を掛けてくる。


「神楽先生、けが人ですか?」


「ええ。えっと……三崎先生、診てもらえますか?」


「分かりました。それじゃあ……そこに座らせてください」


 指示された通り、怪我をした女子を腰掛けさせると、涼花先生が早速、足の様子を診る。

 由依菜先生は、黙ってその様子を眺めている。

 その視線は、診察の様子より、養護教諭の美貌やその体の方に向けられているようだった。

 由依菜先生とは異なるタイプの美人で、端正に整った凛々しい顔立ちの上、成熟した大人の色香の持ち主だ。

 長い髪を今は首の横で束ねていて、清潔感がある。

 スタイルも良く、特にスカートから覗く黒タイツに包まれた脚の美しいラインが目を惹く。

 年齢も由依菜先生より2つ上なだけで若く、その面倒見の良さと美しい容姿で、こちらも男女問わずに人気の高い先生である。


「……大丈夫、折れてはいないみたい。でも腫れているから保健室で治療しましょう」


 そう告げた涼花先生がケガをした女子の肩を担ぐ。


「神楽先生も顔が少し赤いですけど、大丈夫ですか?」


「え?ああ、これですか?大丈夫です。大したことはないです。それじゃあ私は失礼しますね。後の事はよろしくお願いします、三崎先生」


「はい、任せてください、これが仕事ですから」

 

 別れ際にみせた由依菜先生の、新しい玩具を見つけた子供のような笑みに、俺は寒気を感じたのだった。

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【連載】憑依遊戯 第1話 『ソイツ』の探しモノ


【《『憑依』で『女』を『収穫』する話》の主人公を代えた続編になります】



「あ~あ~、またやってるよ……」


 本日最後の授業を受けながら、俺――霧峰京也(きりみね きょうや)――は溜息交じりに誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 教室内には、教壇に立つ若い女性教師の綺麗な声での朗読が、まるで小鳥の囀りのように心地よく響き渡っている。

 だが問題は彼女ではない。

 俺の溜息の原因となっているのは、彼女の周辺をうろつきまわっていて、俺にだけ視えている薄っすらとした存在……『浮遊霊』の方だ。

 その容姿から男だと分かる霊体が、先程から先生に付き纏い、その体を乗っ取ろうと何度も挑戦しているのだ。


(でも、無理なんだよなぁ~)


 物心ついた頃から、この手の霊を数え切れぬほど見てきた俺には分かる。

 当然の事だが、先生の体には本人の霊体が収まっており、他の霊体が入り込む余地が無い。

 仮に彼女の霊体がその体から離れていたとしても、肉体と霊体には相性があるようで、波長が合わない肉体に霊体は入ることが出来ない。


 以前、事故に遭って一時的に霊体が離れた女性の肉体に、よく似た女の浮遊霊が入り込みそうになる場面を見たことがある。

 しかしその時も、応急手当で女性の肉体が覚醒すると同時に彼女の霊体も引き戻されたため、『乗っ取り』は失敗に終わっていた。

 つまり同性の霊ならまだ波長が近いから可能性が無い訳ではないのだろうが、この男の浮遊霊が女である先生の体を乗っ取るのは、まず不可能と言ってよい。


(気持ちは凄~~~~~く、分かるんだけどな!)


 改めて、自分の体を狙っている存在が傍に居るとは気づかず、壇上で授業を続ける女教師を見つめる。

 彼女の名前は神楽由依菜(かぐら ゆいな)。

 俺が通うこの高校の英語教師で赴任2年目の24歳。

 このクラスの副担任でもある。

 艶やかな黒髪のロングヘアーに、切れ長の目が印象的な整った顔立ち。

 仕事柄、化粧は薄目だが、むしろそれが彼女の清楚な美貌を引き立てている。

 その上、抜群のスタイルの持ち主のようで、身に着けている紺のスカートスーツの胸や腰回りの部分が官能的な曲線を描いていて、目を惹き付ける。

 その魅力的な容姿に純真で優しい性格も相まって、校内では男女生徒・教職員隔てなく人気がある人物である。

 俺にとっても憧れの女性だ。


(俺だって、あんな美人の体を手に入れたら……)


 俺は想像の世界に没入すると、脳内に展開されたパラレルワールドに存在する教室に霊体だけの姿で出現する。

 そして、現実世界と同じように教壇に立って授業をしている美人教師の背後に回り込む。

 俺はそのまま彼女に向かって進み、その体に遠慮なく入り込む。


「うっ!」


 先生が一言だけ苦しそうな呻き声を挙げるが、次の瞬間にはその体は俺の支配下に入っていた。

 自分の体になったのを確かめるべく、細くて白い手を胸に持っていき、そこにある豊かな膨らみを掴むと、笑みを浮かべた。

 だが、クラスの連中から訝しむ視線が集まっているのに気づくと、うろたえがらも由依菜先生のフリをして口を開く。


「え、えっと、今からは自習にする……わね。それじゃあ……」


 それだけ言って俺は教室を出ると、女子トイレの個室に駆け込む。

 そして、興奮で震える手をなんとか動かして、身に着けているモノを全て脱ぎ捨てる。

 今や眼下に広がる大きくて柔らかい2つの双丘を、下から持ち上げるように揉み始め、桜色の先端を指の間で転がすように弄る。


「はぁ~ん……」


 自分の口から、由依菜先生の声で、色っぽい吐息が漏れる。

 思う存分、胸を堪能した俺は、更なる快感を求めて白くて細い指先を股間に潜り込ませようと手を伸ばして……。



「……今日はここまでにしましょうか。みんな、お疲れ様」


 本物の由依菜先生の声で現実世界に引き戻された俺は、教壇に立つ彼女を見つめた。

 俺が不埒な想像をしていた間に授業が終わったようだ。

 目上の女性に対して不謹慎な事だと思わなくもないが、こんなゾクゾクする想像をして股間を硬くしてしまうのは男のサガである。


 まだ男の浮遊霊は諦めずに彼女に付き纏っていた。

 無駄な挑戦を延々と見せられ、どうにもならない事を考えさせられるだけ虚しい。

 霊が視えたからといって、特に今まで人生が変わった訳でもない。

 むしろ受験生である俺にとっては気が散るだけで、少々うざったい能力かもしれない。


「あっ、そうだ!今日の日直は誰かしら?」


 教壇の上で教材をまとめていた先生が挙げた声に、俺は日直であることを思い出し返事する。


「僕です」


 俺の返事にこちらを向いた由依菜先生は、笑顔で言葉を続ける。


「今日は担任の秋山先生がお休みだから、日誌は私が受け取ります。よろしくね」


「分かりました」


 会話が終わると先生は退出し、付き纏っていた浮遊霊も諦めた様子でそれ以上追わず、何処かへ去っていった。


…………


 週末の放課後だけあって、あっと言う間に教室から人気が消える。

 ひとり日直の仕事を終えて、誰も居なくなった教室で日誌を書き上げた俺は、それを持って職員室に向かった。


「失礼します」


 職員室の常時開いたままのドアの前で一言挨拶して、俺は中に入る。

 由依菜先生が自分の席に座って何やら集中して作業を行っているのを確認すると、若干足早に近づいていく。


「これ、今日の日誌です」


 差し出されたノートに一瞬だけ不思議そうな表情で俺を見上げる美人教師。

 だが、すぐに理解して微笑む。


「あ、そうよね、秋山先生がお休みだから副担任の私が受け取るって自分で言ったのにうっかりしてたわ。ありがとう、日直お疲れさま、霧峰君」


(……本当に綺麗なヒトだよなぁ~由依菜先生……)


 目の前の女性の魅力的な微笑に、俺は呆けたように見惚れてしまう。


「どうしたの?何か他に用事があるの?」


「えっ、あっ、なんでもないです!」


 恥ずかしくて本当のことが言える訳の無い俺は、言葉を濁す。


「あらそうなの?でも何かあったら気軽に声をかけてね。私、いつでも話を聞くから」


「その時は、よろしくお願いします」


「はい、じゃあ気を付けて帰ってね」


 俺は軽く礼をすると踵を返し、出口に向かって歩き始めた。


(どうせなら適当な悩み事でも作って、もっと話をしておけば良かったかな?)


 そんなことを考えながら、後ろ髪を引かれる思いで職員室から退室した時だった。

 

 俺は……『ソイツ』を見つけた。


(な、なんだ、あれは!)


 それは男の霊体だった。

 容姿からして中年の男のようだ。

 驚いたのはその圧倒的な存在感で、今まで視てきた浮遊霊たちとは完全に別格なのだ。

 それがこちらに向かって来ていたのだ。


(まさか、生き霊ってやつか?)


 初めて見る存在に危険なモノを感じた俺は、咄嗟に平静を装う。

 だが、すれ違おうとした時、『ソイツ』は足を止めて俺を見つめてきた。

 内心ドキリとして多少ぎこちない動きになったが、俺は気づいていないフリを押し通す。

 向こうも俺の様子に気付かなかったのか、興味を無くしたように視線を外すと、再び動きだし職員室の中に遠慮なく入っていく。

 なんとかやり過ごした俺は、反転してドアに張り付き隠れるようにして、その姿を目で追う。


 『ソイツ』は誰かを探しているようだった。

 やがてその視線が作業を再開していた由依菜先生に止まると、一直線に傍まで移動して彼女を値踏みするかのように眺め始める。

 目と鼻の先で異様な存在に見つめられているなどと全く気付くことなく机に向かって作業を続けている美人教師。

 その姿は、肉食動物に狙われているのに気づかずに草を食べ続ける草食動物を連想させ、俺に凄まじい不安を与えた。


(大丈夫……なはずだ!先生の魂は肉体にしっかりと収まっているんだ。手を出せるはずがない!)


 不安を消し去ろうと強く思い込む俺の視界で、品定めを終えた『ソイツ』は由依菜先生の背後に回り込む。

 そして他の教師たちの視線が自分の方に向いていないことを確認すると、両手を伸ばし、彼女の両肩を鷲掴みする。

 同時に作業をしていた由依菜先生の体の動きが突然止まり、その顔が驚いたような表情で固まる。

 その両手が手前に引かれると、驚いたことに、先生の霊体が肉体から引きずり出されてしまう。

 抜け殻になった体は、首を傾げた状態で虚空を見つめ、両腕がダラリと垂れ下がる。

 突然強制的に幽体離脱させられた女教師の霊体の方は、何が起こったのか理解出来ないまま『ソイツ』に頭からかぶりつかれると、形を歪めて次々とその口の中に納まっていく。

 やがて完全に吸い込まれて消えてしまうと、今度は『ソイツ』自身に変化が起こり始める。

 胸や腰の部分に柔らかな膨らみが出来上がり、ウエストはくびれ、手足はスラリとした女性っぽい感じに変わっていく。

 顔も女っぽさを増して細くなり、徐々に細部が形成されていく。

 最終的に出来上がった顔を見て、俺は息を飲んだ。


(……まさか……由依菜先生……そんな……)


 そう、先程まで男の姿をしていたはずの霊体は、肉体から引き抜き捕食した神楽由依菜の霊体ソックリに変身を遂げていた。

 『ソイツ』は己の姿の変化を確認すると、由依菜先生から写し盗ったその綺麗な顔にニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、今だ驚いた表情で固まったまま椅子にもたれかかっている女教師の肉体に覆いかぶさる。

 するとその美しい容姿を持つ身体に重なっていき、まるで本来の持ち主であるかのように収まってしまった。

 唖然とした俺の視線の先で、生気を取り戻した由依菜先生が動き始めた。

 彼女は具合を確かめるように自分の手を握ったり開いたりしてその様子しばらくを眺める。

 やがてその手を自分の胸に当てて、そこにある膨らみを確かめると、笑みを浮かべて席を立つ。

 そして職員室を抜け出そうとこちらに向かって歩き始めたのだった。


【第2話へ】

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【小説】アミュスフィアを通して全てが奪われる話 リーファ+α編


「お兄ちゃん、牛乳とって~」


「……ああ……」


 『アタシ』の言葉にワンテンポ遅れて返事をした兄は、側にあった牛乳パックを渡してくれた。

 そして兄—―桐ケ谷和人ことキリト君、いや逆だっけ—―は、向かい合って遅めの夕食を摂っていた『アタシ』――リーファこと桐ケ谷直葉――に尋ねてきた。


「なあ、スグ。アスナから何か聞いていないか?」


「んー、特に何も聞いてないよ?」


 どうやら兄は最近、彼女であるアスナさんとすれ違いが多いようで、かなりしょぼくれている。


「全然連絡が取れていないわけじゃないんでしょ?」


「うん。だけど、何て言うか……心ここにあらずって感じで、いつも反応が薄いんだ」


 アタシが尋ねると、やはり元気なさそうに答える兄。

 そんなに心配ならズバッと本人に尋ねれば良いんじゃないかとも思うが、自分の彼女に対してもプライベートにはあまり触れようとしない繊細な部分がある事を、妹として良く知っている。

 これは慰めた方が良さそうなので、ぱっと思いついた理由を挙げてみる。


「う~ん、フレンドリストで見てる限りだと、最近はリズさんと一緒に行動することが多いみたいだよね~。きっと女子同士でワイワイやりたい時期なのよ。男の人でもあるでしょ?男同士で遊びたい時って。きっとそれよ!」


「そうなのかな。でも、どこかアスナらしくないというか……ちょっと心配だな」


「気のせいじゃないの?大丈夫だよ、アスナさんは」


 あのアスナさんに限って心配するようなことは無いと思うので、兄のネガティブな思考を否定しておく。

 そもそもゲームバカの兄に、あんな素敵な彼女がいること自体が奇跡なのだ。

 そんなことを考えながら食事を進めていると、テーブルの上に置いていた端末にメールが届いた。

 そのメールを開いてアタシは笑みを浮かべる。


「噂をすればアスナさんからのお誘いだよ。お兄ちゃんを通してでないということは、アタシの予想が当たっているのかな?」


「だといいけど……」


「ま、まあ、とにかく今からALOに入って会うから、それとなく探りを入れてくるね。優しい妹に感謝してよね!」


「ああ……」


 さすがにここまで落ち込まれると、こちらの調子も狂うし、妹としてやれることはやるべきだとも思う。

 アタシは自分の部屋に戻ってベッドに寝転がると、アミュスフィアを装着した。





「あれ?」


 ALOにログインして、ホームであるキリトとアスナの所有する家にリーファとして出現したのだが、てっきりそこで待っていると思っていた2人の姿が無い事に首を傾げる。

 するとすぐにアスナさんからのメッセージが飛んできた。

 だが、そこに書かれていた内容を見て、更に困惑する。


(なんで、こんな場所で待ち合わせなんだろう?)


 そう思いながらも、外に出ると背中に羽根を生やし、空へ舞い上がった。




「よし!」


 目の前に開いている迷宮への入り口を見つめてアタシは呟く。

 約束の場所は、この中の安全地帯だ。

 一応モンスターのポップもあるのだから軽く気合を入れてから内部に踏み込む。

 低下層の迷宮でマッピングも終わっていたので、独りでも易々と進むことができた。


(それにしても……どうしてここなのかな……あ!もしかして何かのサプライズとかかな?)


 現状それしか思いつかなかったので、待ち合わせ場所が見える角にまで来ると、一度立ち止まって覗き見てみる。


(あ、あれ?)


 そこには確かにアスナとリズベットの姿があったのだが、何か様子がおかしい。

 ふたりとも会話をすることも無しに無表情で立っているだけで、何か人形のような印象を受けたのである。


(……ここに居ても埒があかないわ。とにかく行ってみよう……)


 そう考えて角から出来るだけ自然な感じで出ると、軽く手を振ってみる。

 すると、それに気づいた2人は普段のように笑顔を浮かべて手を振り返してきた。


「あ!リーファちゃん!こっちよ~」


 アスナさんの明るい声が響いた。


(アタシの考えすぎだったみたいね。お兄ちゃんの事、言えないわ)


 慎重になりすぎていた自分に反省しながらこちらも笑顔になると、2人の傍まで歩く。

 それにしても奇妙な場所に呼び出されたものだと思う。

 モンスターのポップが無い安全地帯ではあるけど、通信やフレンド機能に制限の掛かる場所で何故待ち合わせなのかが分からない。


「えっと、なんでこんな場所にしたんですか?」


「それはねぇ~、キリト君の邪魔が入らないようにするためよ」


 アタシが率直に疑問を口にすると、アスナさんが明るく返事をした。


「え?どういうことですか?」


「実は私たち、キリト君にサプライズを仕掛けるつもりなの!今日はその打ち合わせで、リーファちゃんにも協力して欲しいのよ」


「あ、そういうことだったんですね……」


(なんだ、本当に何も心配することないじゃない、お兄ちゃんは心配性すぎるよ……)


 兄の疑問に対しては納得できる答えが得れたので、続けてその内容を聞いてみることにした。


「で、どんなサプライズですか?」


「ふふん、実はとっても面白いアイテムを手に入れたのよ」


 その質問に答えたリズベットが、自慢げにストレージを操作して取り出したのは……カメラだった。


「それが?記念撮影用のカメラじゃないんですか?」


「ふふん、それが違うんだなぁ~。それじゃあ見ててよ!ほい!」


 リズベットがカメラを操作すると、目の前にもうひとりのアスナが忽然とあらわれる。


「え!なにこれ?凄い!」


 アタシは、側にいるホンモノのアスナさんのアバターと瓜二つだが、棒立ちで身動きしないソレを、まじまじと見つめる。


「どう?凄いでしょ?これを使ってアタシたちの偽物を作って、キリトの奴を驚かせてやろうよ」


「……これって、どうやって作るんですか?」


「簡単よ。このカメラで撮影してアバターのデータを取り込めばいいの。リーファも勿論協力してくれるでしょ?」


「え?あ、うん……」


 愉快そうに聞こえる提案だが、どこか嫌な感じがして言葉を濁す。


「それじゃあ、早速撮影ね!ささ、ポーズとって、リーファちゃん!」


 そんなアタシの様子をみたアスナさんが、流れを戻すように明るく話しかけてくる。

 仕方なくポーズをとったのだが、リズさんがカメラを構えてシャッターボタンに指を掛けた瞬間、アタシの視界に派手な装飾の警告が現れる。


「……えっと、なんか凄い警告が出たんですけど……これ、ヤバイんじゃないですか?」


 不安になって問うと、2人はより一層笑みを増し明るく答える。


「ああ、それね。大したことないから、許可しておいて」


「そうよ、私たちのことなら信用できるでしょ?大丈夫よ、すぐ終わるから」


 リズさんとアスナさんが口々に気軽な言葉を掛けてきたが、アタシは全く別のモノを感じ取っていた。


(アタシ……この2人から害意を向けられている……)


 旧ALO時代から数知れないPVPをこなしてきた上に、リアル世界でも剣道で鍛えているせいか、視線や細かい仕草から、相手がどんなことを考えているのかが、なんとなく察することが出来るようになっていた。

 兄であるキリト君が提唱するシステム外スキルの1つになるのだろう。

 そして、その感覚は告げていた……ここは従ってはならないと。

 もちろん2人のことは近しい友人として信頼している。

 だが、最初に見た時の2人の様子がおかしかったこともあり、保留するべきだとアタシは判断した。


「ご、ごめんなさい。やっぱりアタシは気が乗らないのでやめておきますね」


 断りを入れてから出口に向かって引き返そうとする。


「ダメよ!」


 半ば叫びながらアスナが肩を掴んだので、それを素早く振り払う。


「ふたりとも何かおかしいですよ?何があったんですか?」


「いいからその警告を解除してアクセス許可を出しなさい、リーファ!」


 返答の代わりにリズベットが強い口調で言って来た。

 その剣幕を見て、この場での話し合いは無理と判断する。


「とにかく後で謝りますから、今日は帰らせてもらいますね」


 そう言い放って、アタシは走り始めた。


『待ちなさい!!!』


 2人が形相を変えて追いかけてくるが、無視して走る。

 うろ覚えで出口に向かっているつもりだが、道を間違えてしまえば2人に追いつかれてしまうだろう。

 だが、全力で走りながらではマップを落ち着いて見ることができない。


「こっちです!」


 焦るアタシに聞き覚えのある幼い声が掛けられた。

 声の方に振り向くと、そこには羽の生えた妖精が宙を飛んでいた。


「ユイちゃん!」


 キリトとアスナの娘であるピクシーの姿を見つけて、彼女の差す方向に向かって一緒に走る。


「どうしてここにいるの?」


「……ママの様子がおかしかったので、ずっと見張っていたんです」


 アタシの問いかけにユイは悲しそうな表情になって答えた。


「……とにかくお兄ちゃん……キリト君に連絡しよう!そのためにも急いでここを出ないと!」


 ユイの案内に従って駆けながら、アタシは呟く。


「はい!パパならなんとかしてくれるはずで……きゃぁぁぁぁ!」


 突然ユイが苦しそうに悲鳴を挙げた。

 その姿が時折ぶれるように明滅している。


「ああっ……ママが……私を消そうとしています!このままでは私は出てこれなくなります!リーファさん、お願いです!私を一時、リーファさんのアミュスフィアに避難させてください!」


 前に聞いたことがある。

 SAOでユイが消されそうになった時に、キリト君のナーヴギアのメモリーに一時避難した話を。

 目の前に先程と同じような警告とそれを解除するボタンが現れる。


「お願い……はやく……」


 ユイの明滅の速度があがり、その声ににじむ苦しさも増していた。

 もしも冷静に判断する時間が十分にあったなら気付けたかもしれない……この時、ユイからはあの2人より強い害意が向けられていたことに……。

 だがアタシは迷わずボタンを押し、許可を出してしまった。


「ありがとう、リーファさん……」


 何故か明るい声に戻ったユイを不思議に思って見ると、その手には妖精の体に合わせたサイズのカメラが握られていて……。


【カシャ!】


 シャッタ音と共に、アタシのアバターと意識は闇の中に落ちたのだった……。



…………



『えっ!?なにこれ?』


 次に気が付いた時、アタシは四角い空間に閉じ込められて宙に浮いていた。

 そして驚いたことに、自分の体に厚みが無かった。

 うろたえながらも周りを見渡すと、自分と同じ大きさになったユイが、アタシを愉快そうに眺めている。

 追いついたアスナとリズベットも立っていたが、こちらは巨人のように大きくなっていた。


(いや、違う!アタシが小さくなっている?)


『ユイちゃん、一体何をしたの!?』


「リーファさんは、写真の中に封印されたんですよ。気分はどうですか?」


『なんで?どうしてこんなことをするの?』


 困惑したアタシが問いかけるが、ユイはそれを無視して手に持ったカメラを操作した。

 するとその姿が歪むと同時に次第に大きくなっていき、それが収まると見覚えの無い男が立っていた。

 アバターはシルフで、端正に整っているはずの顔は、今は下品な笑みを浮かべて歪んでいる。


「へっへっ!二重に罠を張っておいて良かったぜ!あいつら、あんまり融通が利かないからな」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら男が呟いた。


『あなたは誰?ユイちゃんはどうしたの?』


「ん?俺が誰なのかはともかく、あのナビゲーションピクシーならそこに居るぜ?」


 男が指し示す方を見ると、アタシが閉じ込められているのとは別の写真がいつの間にか宙に出現していた。


『リーファさん……ごめんなさい……』


 その中にアタシと同じように閉じ込められているユイが泣きながら謝ってきた。


『どういうことなの、ユイちゃん?』


『あのカメラ……キャラクターをその人格ごと写真の中に封印するんです。そして、その写真を使って封印したキャラクターになりすませるみたいなんです。実際、さっきまでの『私』はこの男に好き放題に使われていた私なんです……』


『え?嘘……』


 自分から説明を求めたものの、突拍子もない話を聞かされて、更に頭が混乱する。

 ユイの説明が続く。


『おそらくなんですが、旧ALO内で須郷たちが行っていた研究が関与しているのだと考えられます……他にどんなことが出来るのかは分かりませんが……』


「ああ、それなら俺が説明してやるぜ、実践でな!」


 今まで黙ってアタシたちの会話を聞いていた男が声を挙げた。

 男がニヤニヤと笑いながらストレージを操作すると、目の前にシルフの女性のアバターが現れた。

 非常に整った美しい顔立ちで、体つきも大多数の男性に好まれるかのように凹凸のしっかりとある魅惑的なラインをしていた。

 あまりに完璧すぎて人形のような印象を持つが、実際、出現してから無表情のまま棒立ちなので、見た目通りの人形に近い存在なのだろう。


「こいつはこの世界のダッチワイフでな、専用のAIで動いて俺様に従順に奉仕してくれるんだ。それじゃあまずは……そっちのピクシーの方からいくか!」


 楽しそうに呟きながら男がカメラを操作すると、ユイが閉じ込められた写真が消える。

 同時にダッチワイフの姿が蜃気楼のように歪み、徐々に背丈が縮んでいく。

 そして、再び人の姿を取り戻した時には、白いワンピースを着た幼い少女の姿をしていた。


『ユイちゃん?』


 それはユイが人間の少女の形態をとった時の姿だった。

 だが人形のように無表情で、アタシの声も聞こえてないかのように無反応だ。


「おい、アスナ、こいつの操作権限をよこせ!」


「はい」


 命じられたアスナはコンソールを出すと、素早く操作する。


「譲渡、完了しました」


「よし!俺はロリコンじゃないからな。ちょっと弄らせてもらうぜ。確かパラメーター変更が……あった!これだな!」


 アスナの報告を受けて、自分のコンソールを出して男は操作を始める。

 するとユイの姿に変化が起こり始めた。

 背がどんどんと伸びていくと同時に、全体的なシルエットが柔らかい曲線を持ち始める。

 顔つきも大人びたモノに変わっていき、髪も黒いツヤを保ったままゆっくりと伸びていく。

 着ている質素なワンピースも体の成長に合わせて大きくなっていき、胸の部分には膨らみが浮き始める。

 可愛らしい幼女が美少女へ変わり、その変化は更に続いた。

 やがてそこに立っていたのは、幼女ユイの面影を残した、長い黒髪が印象的な、清楚な大人の美女だった。


(え?何?一体何が起こっているの?)


 アタシは黙って見つめる事しか出来なかった。


「思った通りだ!アスナとは違ったタイプの清楚系超上玉になりやがった!へへっ、気に入ったぜ!ほら、さっさと奉仕しな!」


「はい、かしこまりました……」


 先程まで無表情だったユイの面影がある美女は、男の声に反応するとその美しい顔に微笑みを浮かべ、淑女のようにしっとりとした仕草で返事をする。

 そして、右手を軽く振ると、身に着けていた衣類が全て光の粒になって消え、その裸体が晒された。

 胸や腰のボリュームは控え目ながらも、柔らかくて美しい凹凸のラインを持った綺麗な体だった。

 肌の色も真っ白で、見るだけでそれがスベスベであることが容易に分かる。

 男もその姿に満足したように頷くと、コンソールを操作して、自分のアバターも全裸にする。


『な、なにを始める気なの!』


 言葉にはそう出しながらも、アタシはこれから何が起こるかは想像できていた。

 そして、その悪い予想を裏切ることなく、黒髪の美女は男の前に跪くと、その股間にあるモノを愛しそうにしゃぶり始めた。


「はは、たまんねぇな!この清楚な容姿で、こんなねちっこいフェラかよ!ギャップ萌えにも限度があるぜ!ほら、次は四つん這いになりな!後ろからぶち込んでやる!」


 男の股間のモノを咥えたまま顔を微かに上下させて頷いた黒髪の美女は、その場で体を反転させ、男に背を向けて四つん這いになると、その綺麗な形の尻を男に突き出した。

 男はニヤニヤと笑みを浮かべながら彼女の腰を両手で掴むと、自分の股間のモノを美女の股間に挿入する。


「おお!凄く具合がいいぞ!まさかナビゲーションピクシーまでこんな逸品を持っているなんて思ってなかったぞ!すげぇ!」


「あひぃん!あっ、あっ、あっ!いいです~!」


 腰を振りながら楽しそうに呟く男と、男の行為を受け入れて気持ち良さそうに喘ぐ女性を、アタシは呆然と見つめていた。

 おそらくユイが変身した美女が、目の前で男の玩具にされている様を見せつけられていても、しばらく声の無かったアタシだったが、やっと頭の理解が追い付いた時には、怒りで満ちていた。


『あんた!なにやってるのよ!すぐにやめなさい!』


男に向かって罵声を浴びせた後、今度は女性に向かって訴えるように話しかける。


『貴女、ユイちゃんなんだよね?そんな男の言う事を聞かないで!お願い、正気に戻って!!!……』


 アタシは力の限り叫び続けたが、その声は男はおろか、ユイらしき美女にも届いて無いようだった。


 しばらくして男の方が満足したかのように動きを止めると、美女の腰から手を離す。


「ふぅ……。いやぁ~思わぬ拾いモノだったな、このピクシーは。でもまあ、次が待っているわけだし、今回はこのくらいにしておくか」


 男はあのカメラを取り出し、再び操作する。

 すると、女性の姿が元のシルフの姿に戻り、すぐにストレージに収納されて消える。

 同時にユイを封印した写真が再び空中に現れる。

 写真の中のユイは、打ちひしがれたようにうずくまっていた。

 けれどアタシは何が起こったのか知りたくて、無理を承知で問う。


『ユイちゃん、今のは何が起こっていたの?辛いだろうけど、アタシに教えて欲しいの』


 するとユイは気丈にも顔を上げて、口を開いた。


『今さっきの私は……パラメータを操作されて大人の姿にされた上で……あの人の出した人形のAIを入れられて操られていたんです……』


『なっ!そんな!』


 泣き声のユイの説明に絶句する。

 だが、それなら説明のつく事があることに気付く。


『それじゃあ、アスナさんとリズさんは、もしかして……?』


『……はい、たぶんママとリズベットさんは、同じようにAIを使って操られているのだと思います……どこまでかは分かりませんが……』


(どこまで?)


 アタシの質問に返って来たユイの答えは、ただでさえ恐ろしい内容なのに、更に気になる言葉を告げられる。

 実際、ユイ自身も何かを酷く恐れているようで、その声は震えていた。


「そろそろこれの凄さに気付いてくれたかな?それじゃあ次は自身で体験してもらうとしよう~」


 明るい声で会話に割って入って来た男が、アタシに視線を向けるとカメラの操作を始めた。

 アタシは背筋に寒いモノが走ると同時に意識が暗転した……。



…………



(あれ?アタシ……元に戻れたの?)


 気付いた時には地面の上に立っていた。

 視線の高さも目の前のアスナやリズベットと同じに戻っている。

 しかし、まだ写真の中に囚われているユイだけは、その顔に恐れに似た感情を貼り付けていた。


(そういえば、あの男の姿が見えないわ……)


 ユイを玩具のように操って、やりたい放題した男がどこにいったのかは気になるが、とりあえず元の姿に戻れたことに安堵する。

 いまだ表情の硬いユイを安心させようと口を開こうとするとするが、その瞬間、別の誰かの意思に従ってしまう。


「ふふふ、そんなに怖い顔してどうしたの、ユイちゃん?」


 【アタシ】は何故か笑みを浮かべて、ユイにからかうような言葉を掛ける。


(えっ!今のは何?なんでアタシ、こんなこと言ってるの?)


 意図しない言動をとった自分に戸惑っている間にも、『アタシの体』は勝手に動いてストレージを操作すると、目の前に全身を映しだせる姿見を出した。

 そして自分の姿をそこに映し出しながら、今度はコンソールを操作して、身に着けていたモノを全て外した。

 そう、下着も全てだ。当然、そこには全裸のアタシのアバターが映し出されていた。


「やっぱりアタシの胸、とっても大きいよねぇ~」


 そして自分の胸をじっくりと楽しむように揉み始める。

 もちろん、この一連の動作はアタシが意図してやっていることでは無かった。

 別の意思を受けたアタシが、自分の意思に関わらず、それに沿って行動してしまっているのだ。

 言うなれば今のアタシは、内に居る【誰か】の言動を、アタシらしく表現するための『翻訳機』のような存在に成り下がってしまっているのだ。


「あっ、あん!うん!ここが感じる!いい!いいわ!!!」


 表面上の言動はどんどんエスカレートしていき、今では股間に指を入れて楽しそうにかき混ぜている。

 恥ずかしさも当然あったが、それ以上に自分が自分の思うように動けない事がもどかしく、他人の意思によって動かされている事実がどうしようもなく悔しかった。


「う~ん、これは本当にいい体だわ~。まだ処女で感度がいまいちだけど、これから開発していけば良くなるよね?」


 一通り弄り終えて、独り呟いた【アタシ】は、アスナに預けていたカメラを受け取り、操作する。

 アタシの意識は再び暗転する……。



…………


 

 気が付くとまた写真の中に閉じ込められていた。


『うっ!!!』


 吐き気がする。

 たとえ仮想世界であっても、人前で性行為を行った事実が受け入れられず、周りの世界が歪んでいるようにさえ感じる。

 それが収まってくると、強要した男に対しての憎しみが沸々と湧きあがってきた。


『あ、あんた、絶対に許さない!!!』


 写真の中から男に向けて殺意を込めて睨みつける。

 だが男の方は涼しい顔でストレージを操作していた。


「はは、意外と元気だな。まあ、それくらいじゃないとこっちも楽しめないんだけどね」


 そういって取り出されたのは、さっき大人のユイの姿に変身したダッチワイフだ。


『ひぃ!』


『リーファさん!!!』


 それが何を意味するのか、直に理解したアタシとユイちゃんは同時に悲鳴を漏らす。


「おや?さっきまでの威勢はどうしたのかな?って……まあ、馬鹿じゃなければ流石に分かるか……それじゃあご期待通りに!」


 男の歪んだ笑みを目に焼き付けたまま、アタシの意識は再び闇に堕ちていく……。



…………



 アタシは再び元の大きさに戻って地面に立っていた。

 だが体は棒立ちで指一本動かせない。

 顔も表情を作ることが許されることもなく、当然、声も出せない。

 そんなアタシを、男は心底楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めている。


「それじゃあ、早速奉仕してもらうとしよう。では、裸になってフェラからだ!」


「はい!」


 【アタシ】は笑みを浮かべて返事をすると、コンソールを操作して全裸になる。

 そして、男の前に跪くと、AIに組み込まれている動作に従って、股間のモノを咥える。

 舌使いや、頭を前後に振る動作など、アタシが知るはずのないテクニックが自分の体で再現される。

 嫌悪感で狂いそうな内心とは裏腹に、体は目尻を下げて嬉しそうに作業を続けている自分に、再び吐き気が襲って来た。


「よし!ではコイツをぶち込んでやるから、そうだな……お前はそのオッパイが見えるように仰向けになるんだ!」


「……はい!」


 咥えていたモノを口から離して明るく返事をすると、命令通り、仰向けに寝転がり脚を大きく開く。

 男はアタシの両脚を脇に抱えると、股間のモノをアタシの中に挿入してきた。


「あ!あん!いい、いい!!」


 下半身から突き上がってくる快感と共に、口から勝手に喘ぎ声が漏れる。

 もはや、AIに言わされているのか自分で言っているのか、区別がつかなくなっていた。

 屈辱的な状況にも関わらず、感じてしまっている自分に自己嫌悪さえ感じる。


(でも……いつかは終わってくれるはず……)


 この最悪の時間が終わる時のことだけ考えて、アタシはこの悪夢でさえ生ぬるい状況を耐え抜いたのだった。


 やがて、男の動きが収まり、両脚も解放された。


(ううぅ、やっと……終わったのね……)


 体は余韻を楽しむかのように寝転がったまま、アタシは安堵していた。


「ふう、なかなか楽しめたぜ!」


 勝手に一人でやりきったような満足そうな男だったが、今のアタシには軽蔑する気力も無かった。

 だが、続けて吐き出された言葉に、アタシの意識は寒さで覚醒する。


「アバターは現実世界の体型に合わせていることが多いって言うから、あっちでもこれが味わえるのかな?楽しみだぜ」


(え?こいつ、何を言っているの?あっちって……)


「ああ、言うのを忘れていたが、その状態でログアウトすると、現実世界のお前の脳に、このままAIの思考が上書きされるのさ。だからあっちでもお前は俺様の忠実な性欲処理人形になるんだ。なに、心配することは無い。表面上はお前になりきるから、誰も気づかないさ……」


(……嘘……)


 ある意味、死ぬよりもつらい運命を告げられ、アタシの心が絶望に染まる。


(それって、もしかしてアスナさんたちも……。そんなの嫌!お願いだから、そんな酷い事しないで!!!)


 あんなに酷いことをした男に向けて、アタシは慈悲を求めるように心の中で叫ぶが、当然、その声は届くどころか発せられることも無かった。

 代わりに男の口から無慈悲な命令が発せられる。


「それじゃあ、ログアウトしろ!明日は放課後、俺の部屋まで来るんだ。分かったな?」


「はい、分かりました」


 口が勝手に返事をして、手が下に振り下ろされる。

 目の前に表示されたログアウトボタンが、終わる事の無い悪夢に自分を突き落とすボタンに見える。

 実際、男の言っている事が本当であれば、それは悪魔のボタン以外の何物でもない。そして、男には嘘をつく理由が無かった。

 そのボタンに向かって自分の手が伸びる。

 

『リーファさん!ダメです!!!』


 ユイが叫び声を挙げるが、それは誰の耳にも届いていなかった。


(嫌っ!!!て、手が勝手に動く?!お願い、やめて!!!助けて、お兄ちゃん!!!)


 悲痛な想いは誰にも届かず、アタシの手はログアウトボタンを押し、アタシの意識は暗闇へと沈んでいったのだった……。



…………



 『ワタシ』は現実世界のベッドの上で意識を取り戻し、頭に装備していたアミュスフィアを丁寧に取り外す。

 そして、体を起こすと無表情のまま、周りを見渡す。

 ここは『桐ケ谷直葉』の部屋であることは、記憶から理解できていた。

 自分の体を確認すると尿意があることに気付く。

 『ワタシ』は立ち上がり部屋を出ると、トイレで用を足す。

 その間中、ずっと無表情であった。必要ではないため。

 そして再び部屋に戻ろうとすると、後ろから声を掛けられた。


「あ、直葉、アスナたちの様子はどうだった?」


 『直葉』の兄である『桐ケ谷和人』の声だった。

 返事をするべく振り向いた時には、普段『直葉』が彼に接する時のように、『ワタシ』の顔には笑みが浮かんでいた。


「別に何もなかったよ?心配しすぎだって、お兄ちゃん」


「そうか……ならいいんだ……」


「もう、元気出しなよ。それじゃあアタシは寝るから。おやすみ、お兄ちゃん」


「ああ、おやすみ、スグ」


 『直葉』としての会話を終えた『ワタシ』は、『桐ケ谷和人』に背を向けると、再び無表情になって部屋に入る。

 時計を見ると時刻は0時だった。

 メンテナンスの時間だ。

 『ワタシ』は着ているモノを全て脱ぎ捨て姿見の前に立つと、自分の体を隅々まで点検する。

 ご主人様を不快にさせるような傷やシミがないかをしっかり確認した後、胸から脚に向かって丁寧に触診していく。


「ご主人様の好みに合わせるには、ウエストと脚の引き締めが必要……」


 インプットされている情報から今後の調整方針を決めると、ベッドに腰掛ける。

 そして、自分の股間に手を持っていくと、そこにある割れ目の中に指を入れて具合を確かめていく。

 まだ処女であり、開発されていないので、このままでは少しきついかもしれない。

 しばらくの間はメンテナンスの時間に少しずつ開発していく必要がありそうだ。

 後始末を終えると、下着と寝間着を身に着けベッドに横になる。


「学校の帰りにご主人様の自宅へ移動。状況の報告をしてから、こちらの世界での初奉仕……」


 明日の予定とご主人様の自宅の住所を確認し終えると、『ワタシ』は目を閉じて眠りにつくのだった。

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【小説】『憑依』で『女』を『収穫』する話

【全体公開にしました。】


「さてと……」


 空調で快適な室温に調整された部屋で、俺はベッドの端に腰掛けながら呟いた。

 ここは今回の『収穫対象たち』が居る場所に近い、貸別荘である高級コテージの寝室だ。

 室内は10人くらいは十分に寛げるくらいの広さがあり、俺が腰かけているベッドも4人くらいは同時に寝れそうな大きさだ。

 俺は視線を上げて、目の前に立つ2人の女を見つめる。


 1人は、明るい色の髪を丁寧に結い上げ、縁なしメガネを掛けている、品の良さそうな美女、麗奈だ。

 白いスーツを身に纏って、全体的に知的な雰囲気を醸し出している。

 実際、まだ30代手前の若さで個人事務所を構えている弁護士で、何でも卒なくこなす優秀な女だ。

 麗奈にはその有能さを買って、俺の秘書をさせている。


 もう1人は、色の濃い黒髪を肩の上で綺麗に切り揃えていて、鋭い目つきをしたクールな美貌に、引き締まった身体を持つ女、冴子だ。

 紺のパンツスーツ姿で、メスの肉食獣のような印象を受ける。

 冴子も麗奈に劣らずの美形なのだが、見た目通り、他人を容易に寄せ付けない雰囲気の持ち主である。

 空手と柔道の有段者であり元警官なのだが、その冷たい美貌と腕っぷしが気に入って、主に俺のボディガードとして側に置いている。


 2人ともスッキリとした細身のシルエットの持ち主だが、着痩せして見えるタイプであることを俺は良く知っている。喘ぎ声が見た目と違って可愛いらしいことも……。


「それじゃあ行ってくる」


『いってらっしゃいませ』


 出発を告げると2人の美女は、主人である俺に対して敬意を払うように、丁寧に礼をしながら返事をした。

 その様子を見て俺は1つ頷きベッドに仰向けに寝ると、意識だけの状態になって身体から起き上がる。

 いわゆる幽体離脱をして霊体の状態でベッドから抜け出し振り向くと、眠りに就いた愛しい人にするかのように、女たちが俺の本体に優しく毛布を掛けていた。



 ベランダに出ると眼下には真夏の青い海と白い砂浜が視界いっぱいに拡がっていた。

 浜辺では多くの水着姿の女たちが気持ちよさそうに寛いでいる。

 俺はふわりと空中に舞い上がった後、ゆっくりと高度を下げていく。

 肉体ならサンダルを履いていないと熱くて歩けない砂浜に、涼しい顔で着地する。

 そして、市場で少しでも良い商品を仕入れようと目を光らす業者のように、女たちを丁寧に品定めしながら、移動を開始した。

 今日は全体的に質が良さそうだ。

 だが、求めるレベルはかなり高く、簡単に俺の御眼鏡に適う女は見つからないだろう。


 そんな俺の予想を裏切り、パラソルの影にビーチチェアーを2つ並べ、その上でゆったりくつろぎながら会話している女たちが目に留まった。

 近づいてじっくりと観察を始める。

 1人は、髪は短めのボーイッシュな感じで、可愛らしいオレンジ色のワンピース水着を身に着けた女だ。

 世間一般で言えばそれなりの美形だとは思うのだが、俺には少し物足りない。


 俺の目を惹いたのはもう1人の方だ。

 スラリと引き締まった長い手足に、メリハリのしっかりある胸と腰を赤色のビキニで隠している。

 それらが描く滑らかで官能的なラインは、芸術品レベルだ。

 背中まで伸ばしている髪は青味を帯びた黒色で、軽くウェーブがかかっている。

 目尻が少し吊り上がり気味で気の強い印象を受けるが、その顔立ちは芸能人並みに端正に整っており、健康的な色をした肌も輝いているかのように色艶が良い。

 いままで観てきた女たちの中でも間違いなくトップクラスの上玉だ。


 早速近づいて、2人の会話に耳を立ててみる。


「……そういえば先輩、ミスコン優勝おめでとうございます!」


「別に私は嬉しくないわよ。あなたが勝手に応募しただけでしょう?」


「え~、だって今回は推薦者も賞品が貰えたんですよ?うちの大学なら優勝は先輩しかいないと思って!」


 どうやら2人は、同じ大学の先輩後輩の間柄らしい。学内で開催されたミスコンに優勝したらしい美女は、後輩の言葉に呆れ顔になる。


「はぁ~、私が目立つのが余り好きでない事を知ってるでしょうに……。それに準優勝のあの人が、あれから絡んできて、うんざりしてるの」


「ああ、あの人、プライド高そうでしたもんね~。黙って立っていたら、先輩に引けを取らない美人なのに、もったいないなぁ~」


 美女は後輩の言葉に頷きながら、更に表情を曇らせる。


「それに芸能プロダクションとかモデルの事務所からも問い合わせが来て困ってるの」


「えっ!先輩、芸能デビューするんですか!!?」


「しないわよ。芸能界とかモデル業なんか色々付き纏われて面倒なだけでしょ?私は普通に就職できればいいわ」


「え~、そんなに綺麗なのに勿体ないですよ!」


 美女はうんざりした様子で後輩の発言をスルーして、座っていたビーチチェアをフラットに変形させると、話は終わったとばかり仰向けに寝転がる。


(後輩の言うとおりだぞ!だが良かったな!その素晴らしい身体、俺様が『収穫』して有意義に使ってやろう!)


 いくら今の俺が霊体だけの存在といえども、そのままこの女に乗り移れる訳ではない。

 肉体にしっかりと本人の霊体が収まっている以上、他の霊体はその体に入り込むことは出来ないのだ。

 仮に肉体から霊体が抜け出ている状態でも、本人以外の霊体は、余程波長が合ってでもいない限り、肉体に拒絶されてしまう。

 もしそんなに話が簡単なら、世の中の美女の体は全て浮遊霊たちのモノとなっていることだろう。

 だから何らかの理由で霊体が離れた肉体に、たまたま波長の合う霊が入り込む『事故』が稀にあるくらいで、基本的には『乗っ取り』は起こらないのだ。

 

 では、どうすればいいのか?

 答えは簡単だ。

 女の霊体を肉体から引き剥がして、代わりに俺がその霊体ソックリに変身してやれば良いのだ。

 幸いなことに今の状態の俺は、他人の霊体に色々と干渉することが出来る。


(それじゃあ始めるか……)


 俺は美女の頭の方に回り込むと、その両肩に手を伸ばす。

 そして、女の霊体をがっちり掴むと、力を込めて手前に引く。


「うっ!!!」


 不意に女は呻き声を挙げ背筋を僅かに仰け反らせると、すぐに体が脱力してそのまま気絶する。

 その美しい顔には驚きが張り付いており、視線は虚空を見つめたまま、目を大きく見開いた状態で凍り付いていた。

 同時に霊体が肉体から引き吊り出される。

 突然強制的に幽体離脱させられた女の霊体は、何が起こったのか分からず呆然としていた。


(よし!もらった!)


 俺が頭からかぶりつくと、美女の霊体は形を歪めて次々と俺の中に納まっていく。

 その全てを取り込むと、今度は俺自身の霊体に変化が起こり始める。

 全体的なシルエットが柔らかくなったかと思うと、腕や足の部分が細くなり、胸や腰の部分に女のような凹凸が出来き、顔も女の顔に変わっていく。

 やがて俺の姿は、先程目の前の美女の体から引きはがした霊体とソックリに変化していた。


(では、その美味しそうな身体、たっぷり堪能させて貰うぜ!)


 目を見開いたまま固まっている美しい女体の上に覆いかぶさる。

 すると魂の入っていない女の体は俺を、本来の持ち主であるかのように易々と受け入れたのだった……。





「……先輩!聞こえていますか?」


 視界が切り替わると、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる後輩の女の顔が飛び込んできた。


「ん~」


 俺は瞬きをすると、ゆっくりと体を起こす。

 それを見て後輩は、一応安堵したようだが、すぐに確認するように尋ねてくる。


「突然呻き声を挙げて、気絶していたように見えましたけど、大丈夫ですか?」


俺は見つめる女に視線を向けると、返事を返す。


「ああ、大丈夫だ、問題ない。ちょっと待て……」


 俺の口から綺麗な女の声で、地の男言葉が出た。

 そして体の具合を確かめるように、両の掌を見つめながら、それを閉じたり開いたりしてみる。

 見つめる後輩の表情に浮かぶ心配の度合いが更に増すが、俺は気にせずに、美女の記憶を辿りながらブツブツと呟き始めた。


「俺の名前は……まゆか……そうだ、俺……じゃなくて、私は桐原真由佳(きりはら まゆか)……二十歳、女子大生……彼氏はいないけど、もう必要ないわね、ふふふ……うん、『収穫完了』ね!」


 吸収した女の記憶と意識を完全に支配下に置いた俺は、真由佳の体で一人納得したように頷く。

 目の前の後輩の女……ヒナタは、まだ心配そうにこちらを見ながら話しかけてきた。


「本当にどうしちゃったんですか?」


「ん?ああ、ヒナタ。ちょっと気分が悪くなっただけよ。少し胸を擦っていれば良くなると思うわ」


 今度は完全に真由佳になりきって返事を返すと、自分の胸に手を当てて、擦るどころか、そのボリュームを楽しむように下から持ち上げるようにじっくりと揉み始める。

 その極上の揉み心地に思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「そういえば、お尻も少し痛む気がするわ」


 今度は手をお尻に持っていき、そのしっとり柔らかくも適度に弾力がある肉を存分に揉んでその感触を楽しむ。

 見つめるヒナタの表情は完全に曇りきっていた。


「なにか変ですよ、真由佳さん。本当に大丈夫ですか?」


「そうね、あなたの言う通り、私、少し具合が悪いみたいね。じゃあ、先に帰らせてもらうわね。急にごめんね、ヒナタ」


「そのほうが良いみたいですね。気を付けて帰ってください」


 心配そうな後輩の顔を尻目に立ち上がると、俺は桐原真由佳の体で歩き始めた。




 ヒナタと別れた俺は、他人の目に出来るだけ不自然に映らないように、水着の位置を直すフリをしながら、自分の体の肉付きを念入りに確認しながら歩く。


「ふふふ、最高だわ……」


 胸や尻の肉付きだけでなく、細くしなやかな手足やウエストのくびれ等も丁寧に確認して思わず口から感慨の言葉がこぼれていた。

 すると突然、背後から男に声を掛けられた。


「ねぇ君~、君みたいな凄い美人が一人で居るなんて勿体ないよ!どうかな、俺たちと一緒に楽しまない?」


 分かりやすいナンパだった。


(ちっ!鬱陶しいな!これだけ上玉だから仕方ないとは思うが……、ん?そうだ!)


 無視して去ろうと思ったが、愉快なことを思いついた俺は声の方に振り向く。

 そして、声を掛けてきた男たちに向かって勢いよく頭を下げた後、真由佳の顔で心底申し訳なさそうな表情を作って、お断りの言葉を口にする。


「ごめんなさい!私はもう既にある御方にこの身も心も全て捧げているんです!今の私はその方を悦ばせるためだけに存在しているので、あなたたちのお相手は出来ないんです!本当にごめんなさい!!!」


 真由佳の口から語られた『事実』に、男たちが呆気に取られて固まる。

 その間抜けな姿を目を細めて眺めると、大笑いしそうになるのを必死に我慢して、再び背を向けて歩き出す。


『おい、あんな超絶美人にあそこまで言わせる奴って……羨ましすぎるだろ!!!』


 背後から男たちの妬みの絶叫が聞こえた。




「うふふ、あっはっは!あなた、本当に最高ね、桐原さん!」


 さっさと立ち去ろうとすると、華麗な笑い声と共に、少し嫌味を含んだ感じで今度は女の声で話しかけられた。

 声の方に振り向くと、上品な顔立ちをした美形の女が立っていた。


「……あなたも来ていたのね……鬼龍院さん……」


 真由佳の記憶から、大学のミスコンで優勝を争った女……鬼龍院 夏姫(きりゅういん なつき)だと分かり、彼女の名前を口にした。

 俺は真由佳の顔で、普段彼女に対してするように、うんざりした顔をつくろうとして失敗する。自然と口の端が上がってしまったからだ。


 不自然にならないように気を付けながら、夏姫に品定めの視線を走らせる。

 清楚な顔立ちの和風美人で、スタイルも胸の大きさが僅かに真由佳より控え目な程度で、それさえも彼女の風貌にはそちらのほうが似合っている。

 肌は、この日差しに晒して焼けさせるのがもったいないくらい、白く透き通っており、陽の光を反射して輝いていた。

 物語の姫を連想させる漆黒の髪は丁寧に梳かされていて、背中の中ほどまでストレートに伸ばされていている。 

 髪の色と同じ、黒のビキニを身に着けていて、肌の白さとのコントラストが目を惹く。

 ヒナタが言っていた通り、黙って立っていれば清楚な和風美女で通るのは間違いない。

 実際ミスコンでも、この女の気位の高いところが出てしまって審査に影響していた。

 世の中には高飛車な女の方が好みな男も大勢いるのだろうが、一般的な評価で見れば、やはりマイナス要素になるだろう。

 

 真由佳の実家もそれなりに裕福だが、あちらは完全にお嬢様のようだ。

 ミスコンのことを根に持たれたようで、事あるごとに絡まれて迷惑しているのも事実だった。


「ナンパ男たちをあしらうところ、拝見させて頂きましたわ。あんな嘘を効果的言ってのけるだなんて、さすが庶民で張り合おうという方は演技力が素晴らしいですわね!それとも、そんな素敵な殿方が本当にいらっしゃるのかしら?だとしたら是非一度お会いしてみたいですわ」


 姫様然とした清楚な容姿の持ち主の口から出たとは思えない、毒を含んだ発言だった。

 だが俺にしてみれば、顔がニヤけてしまうのを抑えるのに苦労する状況である。


(まさか『収穫』してすぐに次が見つかるとは……これが『類は友を呼ぶ』ってやつか?……少し違うかもしれんが……)


 俺は、段取りを思い巡らせながら周囲を見渡し、日陰に設置されている椅子とテーブルを指さして話しかける。


「えっと……ここで立ち話もなんですから、あちらで座ってゆっくりと話しませんか?」


「ふっ、よろしいですわ、受けて立ちましょう!」


 夏姫は俺(=真由佳)の発言を挑戦と受け取ったようで、息まいたように返事を返してきた。

 この女のことだ、真由佳の行動を監視していて、今ここに居るのも偶然ではない可能性が高い。


(まあ、どっちでもいいんだがな。こんな上玉が向こうからわざわざ来てくれたんだ、感謝しないとな)


 2人とも椅子に腰かけると、俺の方から先に口を開いた。


「さっき言った殿方のことですが……意外とすぐ近くにいるんですよ?」


「え?どこですの?」


 目の前の女の視線が外れた瞬間、俺は椅子に深く腰掛けて体を預けると、真由佳の体から抜け出す。

 そして周囲を見渡している夏姫の背後に回り込む。


「あら、どうしましたの、桐原さん?大丈夫ですの?」


 魂が抜けてぐったりとした真由佳の体の様子に気付いた夏姫が、不思議そうな顔をしながら腰を浮かしかけるが、俺はすぐさまその肩をがっしりと掴む。


「ひぐっ!!!」


 力を込めて霊体を引き吊り出すと、夏姫は一度だけ苦しそうに呻き声を挙げて、脱力して椅子にもたれ掛かる。

 抜け殻になった女の体は、首を傾げた状態で虚空を見つめ、両腕がダラリと垂れ下がる。

 俺は夏姫の霊体を、真由佳の時と同じように頭からかぶりつき、自分の中に取り込んでいく。

 やがて消化し終えると、真由佳の姿をしていた俺の霊体に変化が起こり始め、今度は夏姫の霊体そっくりに変身した。

 自身の変化を確認した俺は、その場で腰を落として踏ん張ると、『真由佳』の排泄を始める。

 尻からドロドロの状態の霊体が次々とこぼれ落ち、水たまりのように砂の上に広がっていく。

 もし今の俺の姿を見る事が出来る奴がいたら、裸の美女・夏姫が砂浜でトイレを済ませているように見えることだろう。 

 全てが排出し終えると、それは次第に中心に向かって集まり、立体的な形をとり始める。

 やがて人型になると、解像度が徐々に増すように細部が形造られていき、ついには、真由佳の姿となった。


 夏姫の霊体の姿の俺は、復元した真由佳の霊体を抱えると、抜け殻となっている彼女の身体の上に持っていき、その中に押し込む。

 スムーズに収納される様子を確認して、俺自身は夏姫の体の前に立ち、そのまま腰を下ろして、その上に座り込む。

 2人目の美女の体も俺を歓迎するかのように受け入れ、こちらもスムーズに入り込むことができたのだった。

 すんなりと夏姫の身体と同化を終えて数度瞬きした俺は、その体を起こすと記憶を辿りながら口を開いた。


「俺の名前は……なつき……夏の姫と書いて夏姫……二十歳の大学生……父親は大企業の社長で、母親もブランドのオーナー……うん、こちらも『収穫完了』ですわ!」

 

 吸収した夏姫の記憶と意識を完全に支配下に置いて、俺は清楚で美しい顔に会心の笑みを浮かべる。

 そして、今だ呆然としたまま椅子にもたれている真由佳を尻目にスマホを取り出すと、車で待機している付き添いに電話を掛ける。


「……わたくしです。今日はこれから友人と出かけますので、あなたは先に帰ってください。はぁ~?わたくしの指示に従えないですってぇ~?運転手風情がわたくしに指図する気ですか!?とにかく、あなたは言われた通りにすれば良いのです!わかりましたね!!!」


 強めに念を押しながら通話を切る。

 いつものことのようなので、怪しまれることはないだろう。

 こちらの都合を確保し終えると、俺は目の前に座る女に声を掛けた。


「さあ、桐原さん!起きてください!」


 すると真由佳は瞬きをすると、むくりと体を起こし、真剣な眼差しで俺を見つめる。


「それでは、いきましょうか!」


 俺が夏姫の体で立ち上がると、つられたように真由佳も立ち上がる。

 そして俺が歩き始めると、一緒に俺の体が眠る高級コテージに向けて歩き始めたのだった。

 



 人目の無い場所まで来ると、俺は今の自分の体……夏姫の体を隅々まで触り、その良さをしっかりと確かめていく。


「うふふ、とっても素敵な体……。やっぱり胸は真由佳さんより小ぶりですけど、このスベスベの触感と弾力はたまりませんわ!」


 ナルシストのようにうっとりとした表情になりながら、その絹のような触りごごちと柔らかい肉の弾力をしっかりと堪能する。


「この体も素晴らしいけど……」


 そう呟きながら振り返り、黙って付き従っていた真由佳に寄り添うと、ピタリと体を密着させる。

 そして夏姫の体との微妙な触感の違いを楽しむかのように、2つの体に指を這わせる。

 女の柔らかい肉同士の触れ合いは、男の体で女の身体を弄る時よりずっと心地よい。


「ふぅ~ん……はぁ~ん……」


 真由佳は、俺の弄りに顔を赤くして軽く喘ぎ声を挙げ、全てをされるがままに受け入れる。

 なぜなら、俺に一度『収穫』されたこの女は、その魂を俺の中で一度消化されて再構築された、言うなれば『俺の一部』なのだ。

 だから、コテージで俺の帰りを待つ麗奈や冴子といった、以前『収穫』された女たちと同じように、これからは俺の意思に忠実な『手足』として生きていくのである。

 

「そうですわねぇ……真由佳さんは、表面上は麗奈さんの法律事務所に就職したことにして、屋敷で住み込みのメイドをしてもらいましょう。『わたくし』は……両親に出資してもらって、母親と同じようにブランドのオーナーになるのがいいですわ!資金の大半がすぐにどこかに消えてしまうでしょうけど……。もちろん、たまには屋敷に来てしっかり奉仕するのも忘れないようにしないとですわね!」


 こうして2人の女の未来は決定した。


「今日は本当に良い『収穫』日和でしたわ。あなたや『わたくし』みたいな上物、なかなか見つからないのに、同時に二人なんですもの、うふふ……」


 美しい夏姫の顔に満面の笑みを浮かべながら俺が再び歩き始めると、真由佳も再び俺に付き従うように歩き始めるのだった……。


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【小説】くノ一ひょうい忍法帖 裏第3話 『回帰』

【これはPixivで公開中の『くノ一ひょうい忍法帖』の第3話を別視点から書いた話です。】 「あれがカエデの男か……」  ターゲットの男は人通りの多いショッピングモールを歩いていた。  私たち姉妹に追い詰められて自爆したはずの女がまだ生きていると聞いた時は驚いたモノだが、それ以上に男を作って一緒に暮らしているという話は自分の耳を疑った。 (よし!)  人の流れに乗って、自然な感じでその男に近づく。  あちらも私に気付いたようで、その視線を感じる。  そして擦れ違いそうになった時、ふらついてみせて、男にもたれ掛かる。  期待通り私の体を受け止めたので、恐縮したように振る舞いながら謝罪してみた。 「ご、ごめんなさい」 「おい、大丈夫か?」 「は、はい。少し貧血になってしまったようです。もしよろしければ、落ち着くまで付き添って頂けませんか?お礼は致しますので……」  しおらしくお願いしてみせると、男は僅かな間を置いて口を開いた。 「……わかった」 (ふふっ、ちょろい!こんなにあっさり釣られるなんて、とんだ間抜けと組んだものね、カエデ……)  内心で馬鹿にされていると気付かない男は、私に付き添うと、人混みを抜け、人気の無い場所に連れ込む。  私は、なってもいない貧血が落ち着いたフリをしながら、笑顔で礼を述べてみる。 「どうもありがとうございました」 「ああ」  曖昧な相槌を打ち、何か考え事をするかのように視線を泳がせた男の陰で、懐に忍ばせていたスタンガンを取り出して、男の首筋まで近づける。  私は嘲笑を浮かべながら言葉を吐く。 「……ほんと、お人よしだね、あんた……」  次の瞬間、首筋に高電圧をくらった男は、呆気なく気を失い、その場に倒れた。 「お見事!ってほどでもないわね、アヤメ姉さん」  私と同じ顔をした女が姿を現して声を掛けてきた。  隠れて私たちの後を追って来ていた双子の妹のユリである。 「そうね、あのカエデのツガイにしては不用心すぎるわね……まあ、いいわ。さっさと運んで、あんたはカエデの奴をおびき出しにいってきて」 「了解、姉さん」  私たちは男を用意してあった部屋へ運び込むと、ユリだけ再び部屋を出ていった。 「ん~」 「おや、お目覚めかい?」  壁にもたれていた男が目を覚ましたので、私は奴の頭上から声を掛けた。 「一体なにを……くっ!」  手足を縛られていることに気付かず詰め寄ろうとした男が無様に床に転がる様子をみて、思わず失笑してしまう。  芋虫のように床から私を見上げて、男は必死に言葉を吐きだした。 「一体なんだっていうんだ!お前、何者だ?」 「あたしかい?あたしはアヤメっていうんだ。お前のツガイの女に用があるんだよ」 「え?」  私が名乗ると、男はしばらく黙りこんだ。  恐らくカエデから何か聞いていたのだろう。  私はカエデに道具のように使われた事を思い出して、露骨に顔を歪ませながら言葉を吐き出した。 「あの爆発で生きていただなんて、ほんと、しぶとい女だねぇ~。おまけにこんな男をつくっているなんて……」  だが、カエデの男を手中にした以上、こちらが有利であることは間違いない。  その事実で自然と口元に笑みが浮かんだ。 「お前を目の前でいたぶってやったら、あの女はどんな顔をするんだろうね~、楽しみだわ、ふふふ」  言葉を投げかけられた男の方は、何故か私を見つめて笑みを浮かべていた。  不審に思いながら様子を観察していると、心の内側で何かを練り上げているような気配を感じる。  まるで何かの忍術の準備のような……。 「ま、まさか!!!」  私は『ある事』に思い至り、驚きの声を挙げて後ずさるが、既に手遅れだった。  それはカエデの奴が修めた秘術の事……。 「忍法!心移しの術!!!」  男が術を発動する声が響き渡る。 「し、しまっ……」  私の意識はそこで一旦途絶えたのだった……。 ………… 「くっくっく、あっはっは!」  『俺』の口から綺麗な女性の声で、下品な笑い声が漏れる。  その事実が更に『俺』の機嫌を良くさせる。 「こんなに上手く事が運ぶとはな……、さすがカエデだ」  アヤメの体を『心移しの術』で奪い取った『俺』は、アヤメの声で呟く。  双子姉妹が俺たちの周りを嗅ぎまわっていることを、カエデは気づいていた。  しかも、気付いていることをこいつらに悟られないようにだ。  『俺』はアヤメの体を自分の体のように動かし、壁に掛かっている鏡の前まで歩いていく。 「話には聞いていたが、これ程までの上玉だとはな!」  鏡に映るその容姿は、今まで弄んできた女たちの中でもかなりの上位の部類だ。  鏡の中のアヤメはニヤリと笑みを浮かべると、両腕を胸に持っていき、そこにある膨らみをじっくりと揉み始める。 「妹の方がいつ戻ってくるか分からないから、そんなに派手に楽しめないが……見た目だけでもこの清廉な女の体を弄れるのは最高だな!」  コンコン!  しばらく体を弄っていると、突然ドアがノックされた。 「上手くいったわ、アヤメ姉さん。カエデの奴、もうすぐここに来ると思うわ」  そしてドアが開くとアヤメと同じ顔を持った女……妹のユリが入ってきて『俺』を姉だと思って報告する。 (まあ、体はお前の姉だがな、くっくっく……) 「ああ……ご苦労様、順調だな……」  報告にアヤメの姿の『俺』が頷くと、ユリは床に転がる俺の体を見つけて嘲笑を浮かべる。 「何、この男。今から酷い目に会うのにまだ呑気に寝てるなんて……。さすが、あのカエデのツガイになる大馬鹿モノね!」  『俺』はその様子を黙って眺めながら、懐に隠してあるスタンガンを確認する。 「あとは、あの女の目の前でこいつをいたぶってやるだけね、ふふふ」 「そうだな……」  そして受け答えをしながら、おもむろにユリの死角でスタンガンを取り出す。 (バチバチ!)  全てが予定通りに進んで機嫌良さそうに笑っていたユリ首筋に触れると、不快な音と共に火花が散った。 「うぐっ!!ね、姉さん……なぜ……」  姉と思っていた『俺』にスタンガンを当てられた妹は、驚きに目を見開き、そのまま気絶したのだった。  ユリが戻ってきてから、数分も立たないうちにカエデがやってきた。 「予定通りにいったみたいですね?」  部屋に転がる『俺』の体とユリの姿を見て、カエデが話しかけてきた。 「ああ」  『俺』はアヤメの声で返事をする。 「あとはこの姉妹をどうするかですね?」 「うん、それに関しては俺に考えがある」  カエデの問いに、俺はアヤメの綺麗な顔を歪めてニヤリと笑い言葉を続ける。 「お前に忍術の話を聞いたときに、思いついた事があるんだ。俺に任せてくれ」 ………… (あれ?)  気付くと『私(=アヤメ)』は鏡の前に立って、そこに映る自分の姿を眺めていた。 (まずは質問だ……お前たちは『心刻みの術』を習得しているか?)  突然、心の内側からの『声』にそう問われ、私は素直に答えることにした。 「……『心刻みの術』?……もちろん習得している……妹も……」  口に出して答えると、私に質問した『声』は愉快そうに笑いだして、更に言葉を続ける。 (くくく、いいぞ……では今から送るイメージを自分の中で固めて、『心刻みの術』でお前の心に刻み付けるんだ……)  今の『私』にはその『声』に反抗する意思も権利も無いので素直に頷き『イメージ』を待つ。  そして送られてきた『イメージ』を自分の中でしっかりと受け止め、内容を呟いていく。 「……私たち姉妹は……桔平様とカエデ様の忠実な下僕……お二人に仕えて喜んでもらうことが私たちの存在意義であり、至上の悦び……」  口に出して確認していくことで、私の中で『イメージ』が確実なモノとなって定着していく。  その内容に関しては何の感想も持てない。今は素直に受け入れるだけだ。 (よし!では仕上げだ!やれ!!!)  イメージが固まると、その『声』は興奮気味に命令してきた。  『私』はそれに従い、手で印を結ぶと、鋭い気合と共に、自分を屈辱的な存在に変える仕上げの言葉を自ら口にした。 「はああああぁぁぁぁ~っ!忍法!心刻みの術!!!」  『私』の声が響き渡ると同時に術が発動し、自分の意識が強力な自己暗示により書き換えられていく。 (くっくっく、アヤメ、お前、最高だよ!)  『声』は心底楽しそうに礼を述べた。  『私』は何の感慨もなくその言葉を受け止めると、また意識を失った……。 (あれ?)  再び意識を取り戻すと、私は鏡の前に座り込んで、傍に立っている桔平様を見上げて見つめていた。 (え?あ!わ、わたしたちはご主人様に対して、なんてことを仕出かしたの!)  自分たちが犯してしまった過ちを思い出し、心の中が恐怖で凍り付く。 (と、とにかく謝らなければ!)  私は急いで姿勢を正し、床に土下座した。 「も、申し訳ありません!主人である桔平様を拉致するなんて……私たち、どうかしていたんです!」  そして床に額を押し当て必死に謝罪する。  しかし怒り狂ってもおかしくないはずの桔平様は、なぜか愉快そうな雰囲気を醸し出しながら鷹揚に謝罪を受け入れてくれた。 「まあ、これからの働きで取り返すんだな」 「は、はい!もちろんです!桔平様とカエデ様の忠実な下僕として、精一杯仕えさせていただきます!」  後に目を覚ました妹のユリも自分の過ちを素直に認め、ご主人様たちに寛大に許されたのだった。  こうして私たち双子姉妹は、桔平様とカエデ様の忠実な下僕として、再び充実した日々を送る事となったのだった。

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