冬晴れの空の下、振袖に袖を通したアミルが薄ぼんやりと空を仰ぎ見ていた。雲一つない青空には1羽の鷹が飛んでいる。アミルはその鷹をぼーっと目で追っかけていた。すると、周りから幾つもの喋り声が聞こえてくる。空から視線を落とすと目の前には鳥居があり、その奥には長い階段が続いている。そしてその階段を結構な人が行き交っていた。
「おーい、アミルー!」
人の流れを見ていると後方からアミルを呼ぶ声がした。振り返ってみると1人の男性がこちらに向かって走って来ていた。最初はハッキリしなかったが近づくにつれてその人物がクロトだということが分かった。
「ちょっと、僕のトイレが長いからって先に行かないでくれよ。それに1人じゃ危ないだろ?」
アミルとクロトはとある神社に初詣に来ていたのだが、着くやいなやクロトがトイレに行ってしまったためアミルは先に神社の前まで様子を見に行っていた。
「だってあの場所、影になってて寒かったのよ。だから日当りのいい所にちょっと移動しただけよ」
「すまないって待たせて。そう思って、お詫びに温かいお茶買ってきたからさ」
クロトはそう言いながらジャケットから小さいペットボトルお茶を差し出した。
「それは嬉しいけど、飲み過ぎたらトイレ行きたくなるじゃない。着物でのトイレってめちゃくちゃ面倒なのよ?」
「大丈夫、大丈夫」
人の心配事を軽くあしらうクロトにアミルは少しムッとする。
「誰のせいでこんな面倒な服着てると思ってるのよ。クロトが着て欲しいって言うから着てあげてるのに!」
そう言いながらそっぽを向くアミル。そんなアミルに無垢な笑顔でクロトは答える。
「そうだね、ありがとう。とても似合ってるよ」
クロトのまっすぐな誉め言葉に思わず頬が緩むアミルは振り返り、両手を広げて着物を見せびらかす。
「でしょ?シンプルなやつだけどかわいいし、着てみると意外と着物も悪くないわね。着物は女性を美しく見せるって言うし、どうかしら?」
「うん、素敵だよ。着物ならそこまで体型の差が目立たないからいいね」
「そうね。着物はボディラインを出さないようにするからグラマラスな人もみんな寸胴に…って」
アミルの拳がクロトを襲う。しかし、クロトは軽々とその拳を受け止めた。
(ん?)
拳を受け止められた瞬間、アミルはこのやり取りを一度経験しているかのような感覚に陥る。
(なんか、今の光景見た事あるような?デジャヴってやつ?)
「どうしたの?」
拳を放ったまま硬直するアミルに声をかけるクロト。
「え?な、何でもないわ。まったく、一言余計よ。どうせ私は元々凹凸の少ない体型ですよー」
「ごめんって。とりあえず行こうか」
そう言ってクロトは掴んだアミルの拳を解き、手を握って一緒に鳥居をくぐった。鳥居の先の階段はおおよそ100段はあるように見えた。アミルは少し先にいる子連れ家族を見ると、子供は元気に駆け上がっているが両親は呼吸を乱しながら登っている様子がうかがえた。2人も上り始め、階段の中腹に差し掛かろうとした時クロトは立ち止まった。
「この階段…段差が大きくないかな…?はぁ…はぁ…アミルは大丈夫か?」
この階段は普通よりも気持ち大きく作られているようで着実とクロトに疲労感を与えていた。仕事でデスクワークばかりしているクロトは中腹に到達するまえにすでに疲弊していた。
一方でアミルは着物で動きづらいにも関わらず難なく階段を上り、息が上がった様子もなかった。その様子を見たクロトは「すごいな…」と息を切らしながら言った。
「私が居たバレー部って普段のトレーニングから結構キツイことやってたのよ。おかげで基礎体力はかなりあがったわ」
「それはそうかもだけど無理はしないでくれよ?」
「大丈夫よ」
そんな会話をしながら小休憩をはさんだのち、2人は階段を上がりきった。やはりクロトは肩で息をしていたがアミルは平然としていた。
正面を向くとそこには山を切り出して作ったかと思われるサッカー場程の面積を持つ空間が広がっていて周りは背の高い木々に囲まれていた。そして拝殿へと続く参道の両側にはいくつもの屋台、奥には小さな茶屋もあり結構な人で賑わっている。
この光景を見た瞬間、アミルは先ほどのクロトとのやり取りで味わったのと同じ感覚を覚えた。
(あれ…?この景色……見たことあるような…?ここって初めてよね…?クロトが縁結びの神社に行こうって…こんな家から何駅も離れている遠い場所に来たけ訳で、もちろんこの町には来たことないし、クロトも初めてだって…)
正面を向いたまま考え込むように立ち尽くしているアミルにクロトが声をかける。
「どうしたの?ネットで見た写真よりも凄く賑やかで感動してる?」
クロトにそう言われ、アミルはネットでこの神社を調べたときにいくつかの写真を見たのを思いだし、それがデジャヴの原因なのだと少々しこりは残るが納得することにした。
「あ、いや、写真と違ってたくさん屋台があるなーって、みんなあの階段を上って運んだのかしら?」
「いや、多分あそこに別の道があるんじゃなかな?」
そう言いながらクロトは玉垣の右端を指さした。そこには木々が一部開けた場所があり、奥に道が続いているようであった。とりあえず2人は参拝をするべく拝殿へと歩み始める。
(…)
アミルは先ほどから感じる不思議な感覚で頭の中がふわふわしているようだった。その上なにかを忘れているような奇妙な焦燥感にも襲われ、鼓動が少し早くなっていた。そんな自分を落ち着かせるようにアミルは自分の胸に手を置くとドクン…ドクン…と、まるで手が押し返されるくらいに胸全体が大きく脈を打っているのではないかと錯覚してしまう程に鮮明な鼓動を感じた。それと同時に着物のせいなのか胸が締め付けられるような少し息苦しいような窮屈さも感じた気がした。
(…ん、…やっぱり着物って窮屈かも…ふぅ…)
歩いていると周りの屋台から様々な食べ物の美味しそうな匂いが漂ってきて、その匂いに魅了されてしまったアミルはキョロキョロと辺りを見回していた。
(なんか…お腹空いたな…)
「なんか食べる?」
「え?」
「ソワソワしてたからね。食べてからお参りしよっか」
「そ、そうね」
そんなに分かりやすかったのかと少し赤面するアミル。朝はしっかりと食べたはずなのにアミルは先ほどから何故か急にお腹が空いてしまった。
2人は屋台へ行き、串焼きを1本ずつ買ったのだがアミルはそれに加えてイカ焼きにタコ焼き、ベビーカステラと最後に鯛焼きを買い、アミルは両手いっぱいに食べ物を抱え2人は茶屋のテーブルに座った。
食べながらアミルは鯛焼き屋台のおばちゃんが気になることを言っていたと話し始める。
「商品を渡されたときに『やっぱり大きい子はいっぱい食べるんだねぇ』って言ってたんだけど…私、153cmよ?平均身長に届いてないのよ?なんなら私の隣に背が高い上に巨乳な人が居たのよ⁈」
「いや多分、僕が食べると思ったんでしょ」
「そっか、そ、そうよね…私ったら、おばちゃんにからかわれたのかと思ったわ」
(はぁ…思わず取り乱しちゃったわ……てっきりおばちゃんに皮肉を言われたのかと思ってムッとしてしまった………もう…結婚式の成功も大事だけど、いっそのこと私の貧相な体をもう少し魅力的な体にしてくださいとでもお願いしようかしら…)
自責の念に駆られるアミル。確かにノリのいい人ではあったが、お客さんにそんなことを言うはずがないとアミルは納得した。しかし1つ疑問があった。それは、なぜ隣に居たわけでもなく、それどころか少し離れた後方にいるクロトが自分の連れだと分かったのかと。
(きっと一緒に歩いてる所を見ていたのね)
そんなことは些細な事だと、たこ焼きをつつきながらイカ焼きを食べるアミルは食べるペースを緩めることなくぱくぱくと食べている。
「……まあ、今のアミルは誰よりも大きいよ」
「えっ?」
いったい何を言っているのかと、アミルは思わず食べる手を止め顔を上げるとクロトがニコニコとこちらを見て微笑んでいる。
(ちょっと聞こえなかったけど、私が大きいって…?慰めてるつもりなのかしら?)
アミルは少し不機嫌そうにそっぽを向く。すると斜め向かいのテーブルに座っている男性と目が合ってしまった。男性はアミルと目が合うや否やすぐに顔を反らした。その様子から察するに少し前からアミルを見ていたようであった。気になったアミルは隣のテーブルに目を向けるとそこに座っていた小さな女の子がポカンとした表情でこちらの方を見ていた。さらにアミルは正面の参道の方にも目を向けると行き交う通行人が度々こちらに目線を向けていることに気づいた。
不思議に思ったアミルはクロトに問いかける。
「ねぇ、私の顔になんか付いてる?ソースとか」
「いや、ついてないよ。なんで?」
「あ、いや、イカ焼きで顔汚れてないかなーって…」
そう言いながら自分の手元に視線を落とすと、アミルは気づいた。隣のクロトは串焼き1本しか食べてないのに対してアミルの前には沢山の食べ物があり、それをパクパクと食べている。あまりの空腹で気に留めていなかったがその光景は客観的に見ると自分は『彼氏よりも大食いな彼女』にしか見えないと気づいたアミルはこれが見られる原因なのだと思った。そう思うと急に恥ずかしくなり大量の食べ物をものの数分で平らげたのだった。
(くぅ…恥ずかしかった……お腹空き過ぎて気づかなかったわ…それでみんなこっちを見てたのね…はぁ……けど…お腹空いてたにしても私よくあの量を食べれたわね?…普段だったら絶対食べてれないのに…)
「アミルも食べ終わったし、行こうか」
「あ、私ごみ捨ててくるわね」
「いや、僕が行くから座ってなよ」
「いや、いいわよ。ほぼ私が食べたものなんだし、クロトは先に手水舎の所に行ってて、私もすぐ行くから」
食事を終えた2人は立ち上がりアミルは茶屋の入り口付近に設置されているゴミ箱にごみを捨てに行った。ごみを分別しながら捨てていると、ふと茶屋のガラス窓に映る自分が目に入った。
「えっ…」
そこに映るアミルの姿は胸元が明らかに膨らんでいた。着物の特性上ボディラインが分かりづらくなるのだが、その膨らみはまるで懐にソフトボールを2つ詰め込んでいるかのように着物を大きく持ち上げその大きさを主張していた。
アミルは右胸に手を伸ばした。胸に手を乗せると服の下で乳房が窮屈に押し込められていて着物がぱんぱん張っていた。アミルの胸はいつの間にか誰もが思わず見てしまう程の大きさに変貌していた。
そんな明らかな体の変化にアミルは…
「あ、なんだ、ただのほこりね。良かった、さっきの食事で汚しちゃったのかと思ったわ。レンタルだから気をつけないと。というか、やっぱり胸がキツイ気がするわ。きっと着付けの人が強く締めすぎたのね」
何故か気づいていなかった。
「なんか…着物って下が見ずらいわね…」
他に汚れている場所がないかその場をくるくる回りながら着物を確認するアミル。下の方を見たいのだが大きくなった胸がアミルの視界を遮っていた。しかしアミルは気づかない、というよりは自身の体の変化を認識出来ていないといった様子だった。
一通り確認したアミルはクロトの元に戻ろうとすると茶屋から出てくる女性とぶつかりそうになってしまう。
「わっ、す、すいません大丈夫ですか?!」
ぶつかりそうになった女性はアミルより背が小さく黒髪のロングヘアを携え、厚手のセーターにワンピース、その上にダウンジャケットを羽織っていた。そしてよく見るとその女性のお腹は少し盛り上がっていた。アミルはそのお腹を見て相手が妊婦だと分かった。
…ドクン…
同時にそのお腹を見た瞬間、何かが湧き上がってくるような感覚が押し寄せてきた。アミルはその感覚に何故か懐かしさを覚えた。
「あ、いえ、あたしも今ちょっと前が見えてなくて…ごめんなさい!」
そう言って女性はそそくさと去っていき、残されたアミルはその場に立ち尽くしていた。
(眼鏡かコンタクトでもなくしちゃったのかな?…それよりもなんだろう…?さっきの感覚…)
アミルは再び自身の胸に手を当てるとやはり鼓動が早くなっていた。しかし今回は先程と違い、胸だけではなくお腹辺りもドクン…ドクン…とまるで鼓動しているかのようだった。アミルは動悸をおさめるべく深呼吸をしているとお腹に急な膨満感が襲ってくる。それに伴い次第に体が熱を帯びていき、冬場にもかかわらずじんわりと汗をかいていた。
(なに…?…お腹がなにか…変だわ……)
アミルは深呼吸をしながらお腹を摩る。胸の動悸は全く治まらず、お腹の膨満感もより一層強さを増していく。すると、ドクン…!と下腹部の辺りから一際大きな脈動を感じた瞬間、アミルのお腹が膨らみ始めた。
「んんっ…お腹が………苦しい……ふぅー………ふぅー…………」
アミルのお腹は目に見える速度でどんどん大きくなっていく。それは脂肪が付いていく感じではなく、ましてや胃が膨らんでいる訳でもなかった。お腹、というよりは下腹部で何かが大きくなり、それによってお腹がぱんぱんに引き延ばされている様だった。アミルのお腹は瞬く間に先ほどの妊婦よりも大きくなり、キツく締められているはずの帯を押し上げ、なおも膨張を続けたお腹はまるで服の下にスイカを入れているかのような大きさになった。生地の厚い着物の上からでもその膨らみは明らかであった。
膨張が治まる同時に動悸と膨満感も徐々に治まっていったが、お腹からは自身の鼓動とは違う鼓動が響いているようだった。
窓ガラスに映るアミルのその姿はさながら臨月を迎えた妊婦だった。
「ふぅー………やっと治まった……やっぱり食べ過ぎはよくないわね。クロトを待たせてるし早く戻らなきゃ」
駆け足気味でクロトの元に戻るアミル。あれほど体が急激な変化をしたのにも関わらず、アミルはやはりその変化を全く認識していなかった。
しかしその足取りは普段よりも確実に重いものとなっていた。
「ふぅ…ごめん、お待たせ」
「大丈夫?そんな急がなくても良かったのに」
「だ…大丈夫、大丈夫……ふぅ……」
手水舎で待つクロトと合流したアミルは少し疲れていた。入り口の長い階段を上っても全く疲れを見せなかったアミルが小走りしただけで息を乱している。理由は明白である。アミルの体は階段を上る前とは違い、胸はグラビアアイドル顔負けの巨乳に、お腹は臨月の妊婦のように巨大になり、その巨大化した部分がアミルの体重を格段に重くしているからである。
誰が見ても明白な変化を遂げたアミルだが、そんなアミルの姿を見てもクロトは全く驚いてはいなかった。それどころかアミルの変化を気にする様子もなく普段通りに接していた。
「じゃあ、手水を使おうか」
2人は手水舎で身を清める。その後、アミルは手を拭こうとハンカチを取り出すが手元が狂い地面に落としてしまう。ハンカチを拾うため屈もうとするのだが大きなお腹が邪魔をする。必死に手を伸ばし無理に屈もうとするお腹を圧迫することになりアミルに苦痛を与えていた。
「うっ…んっ…体の真ん中でなにかを抱えてるみたい…ふー……ふー……なんで…屈めないの……んんっ…」
アミルがハンカチを拾おうと四苦八苦しているのに気づいたクロトが少し慌てた様子でハンカチを拾った。
「ちょっと大丈夫?」
「あ、ありがと…なんか上手く屈めなくって」
「無理しないでいいからさ」
「ご、ごめん」
(無理も何もハンカチを拾おうとしただけなんだけど……お腹に圧迫感があって苦しかったわ…たぶん着物帯のせいね)
手水を済ませ、ようやくお参りに向かう。玉垣の入り口にはこれまた階段があり最初の階段ほどではないがそれでも50段はあるようにみえ、それを見たクロトは顔をしかめていた。
「いや、見えてたから分かってたけどさ。近くで見ると…多いな」
「さっきのよりは全然じゃないの!ほらほら行くわよ!」
そう言いながらクロトの背中を叩き元気に駆け上がろうとするアミル。しかしアミルの体は大きなお腹で思うように動かせず、体重の増加により足取りも重くなっている。数段上っただけでもアミルは息が上がり、そのうえ大きな胸とお腹で足元が全く見えないため足で1段1段確認するように上っていた。
(さっきから体が重い……お腹と胸にへんな圧迫感もあるし…)
「はぁ…はぁ…」
「アミル大丈夫かい?きついなら言ってくれよ?」
「な、なに言ってるのよっ、こ、このくらい余裕よ!」
アミルは少しひきつった笑顔で答え、なおも階段を上ってい行く。
(そうは言ったものの…きつい……私、風邪でもひいちゃったのかな…ここに来てから何かおかしいわ…ずっと頭の中がぼやっとしてせいか足元もうまく見えないわ…)
5分程かけてようやく階段を上ったアミルは少し休憩をして上がった息を整える。
「ふぅ、もう大丈夫よ。お参りしましょ」
拝殿の前には5組ほどの列が出来ていた。2人は最後尾に並び順番を待つ。拝殿の隣には社務所があり、参拝を終えた人々がお守りやおみくじなどを買っている。
「あとでお守りも買わなくちゃね」
「もうすぐだからね。色々買わないとだね」
「そうね、もうすぐだもんね」
話しているとあっという間にアミル達の順番が回ってきた。2人は賽銭を投げ入れ二礼二拍手をしてお祈りをする。
(結婚式がうまくいきますように…)
お祈りを終えたアミルは顔を上げ隣を見るとクロトはまだ目を閉じてお祈りをしていた。アミルその横顔を感慨深そうに見つめる。
(そう…結婚するんだよね、私たち…なんか感慨深いなあ…)
大学でクロトと出会い、何かと会うことがあり交流を重ねていくうちに互いに惹かれあい付き合うことになった2人。卒業したら別れるか遠距離になると思っていだが偶然にも2人の就職先は近かった。それが分かってからは早かった。卒業してすぐに同棲を始め、それから1年。仕事にも慣れてきた2人は今年の3月に結婚することを決めたのだった。
(今思い返すとあっという間だったわ……あとは子供ね…クロト欲しがってるもんね。いや、私も別に欲しくない訳じゃないんだけども…妊娠って大変だって聞くし…体力には自信あるけど…私、胸小さいから母乳がちゃんと出るのか不安だわ…あとは胎動が意外ときついって…)
そんな感傷に浸っているとお祈りを終えたクロトが目を開け一礼する。アミルも急いで一礼して2人は参拝を終えた。
2人はお守りを買うため社務所に向かう。社務所の前には人盛りができていた。どうやら団体客が大量にお守りなどを買っているようだった。
「今混雑してるみたいだし、ちょっとトイレ行ってきていいかな?」
「じゃあ、そこのベンチで待ってるわね」
クロトはトイレへ行き、アミルは社務所の隣に設置されているベンチに向かおうとした。
「そういえば、クロトったらこの日はやたらトイレに行ってたわね…」
(…えっ?)
アミルは自分自身の発言にハッとする。その発言はまるで思い出を振り返っているようであった。
「なんで…?」
今思えばここに来てから既視感を覚える場面は何度もあった。自分はもしかしたらここに来たことがあるのか?と、そんな疑念が頭をよぎる。すると、頭上から「にゃぁ」と猫の鳴き声が聞こえた。アミルが上を向くと社務所の屋根に黒猫がアミルの方をじっと見つめていた。
……ドクン…
(……何?…あの猫見た事ある気がする…)
黒猫の黄金色の瞳と目を合わせた途端、アミルは何かを思い出しそうな感覚を覚える。
……ドクン…
「なーご…?」
……ドクン!
その瞬間、体が震える程の大きな鼓動が鳴り響く。体が熱くなっていくと同時に心拍数が上がっていく。
「はぁ……はぁ………体が…バクバクしてる…」
アミルは手を胸に当てる。
「えっ…⁈」
心拍を確かめようとしたアミルの手は着物の中でみちみちに大きくなった乳房に押し返されてしまった。自身の胸にあるまじきやわらかさに思わず下を向く。そこには連なる2つの膨らみとそれよりもさらに前に突き出した大きな膨らみが目に入る。
「なに…これ……⁈」
恐る恐る大きなお腹に手を伸ばし確認するとその感触は脂肪の柔らかさではなく、ゴムボールをぱんぱんに膨らませたような弾力をしており、ようやく自身の変化に気付いたアミルはその大きなお腹が子宮によって膨らんでいることが分かった。アミルは社務所の窓ガラスを見ると、そこにはまさに臨月の妊婦のような体をしたアミルが映っている。
「…いつの間にこんな体に…⁈」
するとお腹から小さな衝撃が伝わってくる。内側からノックをするようにぽこぽこと動きまわってお腹の表面がぐにぐにと波を打つ。その感覚は聞いていた胎動そのものだった。
「赤ちゃんがいるの…⁈…私のお腹に⁈…ど、どうして…」
頭の整理がつかず困惑しているアミル。そんなアミルを畳みかけるように再び強い膨満感が襲う。
「ふぅっ⁈…んぁっ……お、お腹がっ…」
アミルのお腹が再び膨張を始める。その勢いはすさまじく、急激に子宮が拡張されていく感覚がアミルに少しばかりの苦痛を与える。すでに臨月のような大きさだったお腹はどんどん大きくなっていき、例えるなら双子、三つ子と胎児が増えていっているかのようにその体積を増やしていた。
「こ、今度は…む、胸が…く、ふぅっ………」
並行して着物をぱんぱんにしていた乳房も再度成長を始めた。心拍数はさらに上がり、鼓動がはっきりと聞こえてくる。アミルの胸はその鼓動に合わせ、まるで胸そのものが脈を打っているようにドクン…ドクン…と大きく膨らんでいく。成長する乳房は大きさを増すだけではなく、赤ちゃんを育てるための母乳を大量に生産し始める。
「…ふぅー………ふぅー……………」
際限なく続くと思われた膨張は次第に落ち着きつつあった。未だに鼓動は鳴りやまないが、これ以上は胸とお腹が大きくなる様子はなさそうだった。
最終的にアミルはビーチボール程の巨大なお腹と、その上に大量の母乳を蓄えぱんぱんに育ったハンドボールサイズの爆乳がどぷんと乗っかっているという、あまりにも現実離れした身体へと成長していた。
アミルは少しづつ息を整えながらベンチへと移動するが急激に変化した身体はその大きさもさることながらとてつもなく重くなっており、特にその巨大なお腹に重心を取られ気を抜くと簡単に倒れてしまいそうだった。アミルは倒れないようによたよたと少しづつベンチへと近づく。
「はぁ……はぁ………」
「あのお腹すごくない?」「妊婦なのかな?」「あの子、すげーおっぱいしてるぜ」「いやいや、太ってるだけだって」
周りからひそひそと明らかにアミルの事を言っているであろう会話がいくつか聞こえてきたがアミルにはそれを気にする余裕は到底なかった。しかし、恥ずかしいのに変わりはなく赤面することしか出来なかったアミルは下を向いたまま急いで隅のベンチへ向かう。
ようやくベンチに辿り着き、ぎこちなく腰を下ろすと木製のベンチからギシギシと音が鳴る。座ろうとした瞬間アミルはおしりに違和感を覚える。よく見てみるとアミルの下半身は大きく孕んだお腹を支えるべく腰回りが広がっており、それに繋がるふとももも太く大きくなっていたためおしりのボリュームが凄いことになっていた。
アミルは太くなったふとももと巨大なお腹が互いに邪魔してしまうので足を大きく広げないと満足に座ることも出来なかった。
「はぁ……はぁ………きつい………私の身体…どうしちゃったの…」
巨大なお腹を摩る。それに答えるようにお腹がぐにぐにと形を変える。
「はぅっ⁈…胎動って…こんなに激しいの⁈…んぁっ」
様々な事が同時に押し寄せ、頭も気持ちも整理が追い付かずいるアミルは段々と意識が朦朧としてきていた。すると、階段を駆け上がってきたクロトが目に入る。ベンチで座っているアミルに気付いたクロトは急いで駆け寄ってきた。
「ごめん、おまたせ。大丈夫?だいぶ疲れてるみたいだけど?」
ほんの数分で3つの巨大な球体を抱えているようなとてつもない変化を遂げたアミルを見ても全く驚きを見せないクロトに意識が朦朧としつつもアミルは違和感を覚える。
「ねえ…クロト」
「なんだい?」
「クロトはさっきなんてお祈りをしたの?」
「そりゃ、もちろ_何事もなく_つ子が元気に産まれてきますよ_に、だよ」
……ドクン…
(えっ…?)
意識が朦朧としているせいか最後の言葉だけうまく聞き取れなかったが、それはアミルが結婚式の成功を祈っていたのと違い、クロトはアミルの安産祈願をしていたことが分かった。
「今なんt…」
「あ、今、社務所空いてるね!僕が買いに行ってくるよ。体力に自信があるっていっても今日は最初の階段といい身重な体でかなり動いたんだし、休んでてよ」
クロトはそう言って一目散に社務所の方へと走って行ってしまった。
「えっ?クロト!ち、ちょっと待っ…」
……ドクン!!
呼び止めようとアミルが叫んだ瞬間、今までとは比にならない大きさの鼓動と共にアミルのお腹が突然二回りも大きくなった。
「はぅっっっ⁈」
突然の膨張に驚く暇もなく再びお腹が大きくなり始め、先程まではかわいかった胎動も激しさを増し、お腹の中をぼこんぼこんと動き回っていた。それは1人2人ではなく明らかに複数の胎児が居るような衝撃だった。
あまりの辛さにベンチに横になってしまったアミルは少しでも治まるようにと、しきりにお腹を摩る。
「はぁ…はぁ…ふぅうっっ………もう…………無理………………」
ついに視界がぼやけ始め意識が途切れそうになる。その最中、薄れゆく意識の中でニャーニャーと猫の鳴き声だけが響いていた。
「ニャーニャー」
目が覚める。アミルは重い瞼を精一杯開き、窓の方を見る。カーテンの隙間からアミル達が『なーご』と呼ぶ黒猫がこちらを覗きながらしきりに鳴いていた。
「夢か…」
アミルは気だるそうに体を起こす。その体は夢と同じスイカのように大きなお腹とその上に乗っている大きな胸があった。
「懐かしいわね。あれは…2年前の初詣ね…」
どうやら昔の思い出に関する夢だったようだ。しかしそれは完全に記憶通りではなかった。夢特有の記憶をごちゃ混ぜにしたようなとてもふわふわしたものだった。
「あなたも出てきたわよ。なーご」
どうしてあの記憶に関する夢に居ないはずのなーごが出てきたのか少し不思議だったが、夢の内容を確認しようにも夢はすでにアミルの頭の中から消えかかっていた。
「もう、ほとんど思い出せないけど…クロトが気になる事を言っていた気がするわ…」
アミルは6カ月にしては大きすぎるお腹に手を置き、考え込む。
「この大きさ普通じゃないのかもしれない…」
アミルは枕もとのスマホを手に取り近くの産婦人科がある病院に電話を掛けたのだった。
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あとがき
気持ち的には10日までに完成させたかったのですが中々そうもいかず。結局月末になってしまいました。
小説って難しいです。
これは1話目のアミルが病院に行くきっかけになった夢のお話です。
アミルの妊娠は7月から始まってる設定なので妊娠6ヶ月目は1月になります。
アミルの初夢です。
今後の技術向上のため、宜しければご意見ご感想などいただければ幸いです。
UsagiSentai
2025-02-01 04:23:13 +0000 UTCaBc
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